ロシアの(?)ウォッカについての3つの事実

ライフ
ソフィア・ポリャコワ
 多くの人にとって、ロシアといってすぐ頭に浮かぶのがウォッカ。しかしこの飲み物を誰が考案したのかは、その歴史同様、謎である。しかし、どうやってこれを飲むのかという質問ははるかに簡単な問いである。

 ウォッカは、その万能性によって、長年にわたり世界のアルコール飲料の中でもっとも人気のある飲み物の一つであり続けている。しかし驚くべきことに、この飲み物についてあまり多くは知られていない。

ウォッカはロシアの飲み物ではない

 ウォッカの原型と言えるものは古代エジプトに作られたが、その液体は医療用に使われた。異なるデータがあるが、これが再発見されたのは10世紀の中東で、そのときも一般的な飲み物としてではなかった。イスラム教徒はアルコールを飲まないからだ。

 ロシアでウォッカの基となる蒸留酒が初めて登場したのは1386年、ジェノヴァ大使館が置かれたときである。しかし、この飲み物を皇帝たちは気に入らなかった。当時、ルーシでは、別のアルコール飲料―ハチミツ、クワス、ワイン、ビール―が好まれていた。ジェノヴァ人が持ち込んだ飲み物はあまりにもアルコール度数が高かったため、薬として飲まれ、しかもかなり薄めて用いた。

 ある説によれば、ちょうどその頃、モスクワのチュドフ修道院に収監されていた修道士のイシドールがサモゴン(自家製蒸留酒)を発明した。この自家製蒸留酒はほぼウォッカと同じものであったが、ウォッカが水と蒸留酒で作られているのに対し、サモゴンは小麦、カラス麦、オーツ麦などの穀物を発酵して作られた。

 ロシアに「小麦のワイン」と当時に呼ばれていたウォッカがいつ登場したのかについては、正確な年はもちろん、年代すらはっきりしていない。ウォッカの発明者は化学者のドミトリ・メンデレーエフだという伝説が広く知られているが、これも正しいものではない。化学者は分子の関係について研究しており、なぜ蒸留酒と水を等しい分量で混ぜると、分量の少ない液体になるのかについて調べ、「蒸留酒と水の混合溶液について」と題する論文を書いた。しかしこの論文には、溶液の味や人体に及ぼす影響については一切書かれていない。

 とはいえ、このことで、メンデレーエフの研究が、1894年に導入されたウォッカの基準となったということを否定するものではない。メンデレーエフの研究論文が発表された後に、政府はメンデレーエフのウォッカの成分を「モスコーフスカヤ・オソーバヤ(モスクワの特別な)」と名付けて特許を取ったのである。穀物の蒸留酒はアルコール度数が40度になるよう水で薄められた。

 こうしたすべてはウォッカに「ロシアの飲み物」という名前をつけるのを邪魔するものではなかったが、これが決定的になったのは20世紀、「スミルノフ」というブランド名が付けられたことによる。ロシア帝国の主要なウォッカ製造者で、「ウォッカ王」との異名をとったスミルノフは、1917年の革命後、亡命し、1933年に「Smirnoff」(スミノフ)ウォッカの販売権をアメリカの企業家に売却、その起業家はその後、1938年にヒューブライン社に売却した。ブランドの持つロシアのルーツによって、ウォッカは多くの人々の意識の中に「ロシアの飲み物」として記憶された。スミノフは今も、世界でもっとも販売数の多いウォッカであり続けている。

「ウォッカ」という名称は20世紀になってから

 「ウォッカ」という名称の起源は、ウォッカの歴史と同じくらい難しい問題である。ウォッカという言葉がロシア語の「水(ヴォダー)」の指小形であることは間違いないのだが、これがいつアルコール飲料の名前として使われるようになったのかははっきりしていない。

 ロシアでは、ウォッカは「小麦のワイン」、「ポルガル」、「サモゴン」、「ゴレルカ」、「ペンニク」などとさまざまな名前で呼ばれていた。「ウォッカ」という名前ももちろん用いられていたが、正式名称ではなく、口語でそう呼ばれていただけであった。

 「ウォッカ」という言葉が使われた正式な最初の文書は1683年のピョートル1世の勅令「外国から持ち込まれたワインとウォッカの課税について」であった。製造ラベルには「テーブルワイン」、「清澄ワイン」などと記され、アルコール度数が明示されていた。ラベルに「ウォッカ」という名称が初めて使われたのは19世紀の末になってからである。

 1902年にウォッカが国家によって独占販売されるようになるまで、ウォッカには、ウォッカとワイン(テーブルワイン、小麦ワイン、強いワインなど)という2つの呼び名があった。

 名称が「ウォッカ」として確立されたのは1936年、「精留エチルアルコールに加水した無色透明のもの」という基準が定義されてからである。このとき、製造法も規定された。

ウォッカには、「絶対これ!」というおつまみはない

 ウォッカは、お寿司に添えられる「ガリ」のように、次の料理を食べる前に、口直しをし、味覚を整えるものだと考えている人もいる。しかしロシア文化においてウォッカは別の意味を持っている。歴史的にロシアはワインを作るための材料が少なく、穀物は有り余っていたことから、ロシアでは「小麦の」ワインを作るようになったのである。そこから特別なお酒の文化が作られ、ウォッカの正しい飲み方というものが確立された。

 レストラン「Maison Dellos」のシェフでソムリエのセルゲイ・アクショノフスキーさんは次のように話す。「ウォッカを飲むというのは、大きな儀式のようなものです。まずはアペリティフ(食前酒)またはロシア語で「ナ・ポソショク」(最後の一杯)と呼ばれるディジェスティフ(食後酒)として飲まれています。

 食事のメニューがウォッカに合わせたものであれば、食事中ずっとウォッカを飲む場合もあります。どんなメニューかというと、野菜のマリネや塩漬けなどを中心にしたものです。これも歴史的に、どんな家庭でも作られてきたもので、この酸味と塩味はウォッカとよく合います。ウォッカは凍るほどよく冷やして飲むのが最高の飲み方です」。

 またセルゲイさんは、塩漬けや燻製のサバやニシン、サーモンなどの魚の前菜もウォッカにとてもよく合うと話す。魚以外では、脂身またはローストポーク、ビーフジャーキー、スモークハムなどが合う。もう一つはニシンと玉ねぎと茹で卵で作るフォルシマークという前菜もウォッカにピッタリだ。

 一方、もっともロシア的なウォッカの飲み方といえば、もちろん、ブリヌィ(ロシアのパンケーキ)、イクラ、キャビア、ボルシチと一緒に飲むというもの。イクラ、キャビア(イクラとキャビアはロシア語では同じ単語を使う)はウォッカ文化において特別な地位を占めている。ウォッカには、イクラもキャビアもどちらもよく合うが、とりわけキャビアとウォッカは最高の食の組み合わせの一つとされている。

 というわけで、ウォッカに合うおつまみの種類はかなり豊富である。ウォッカに合わないものといえば、デザートくらいのものだろう。