プリャーニクは1000年以上にわたりロシアで焼かれている。元々はライ麦粉と大量の蜂蜜(最大で50%)、そしてベリーのジュースで作られていた。厚みのある生地が作られ、かまどで焼かれた。これがロシアのプリャーニクの原型となる「蜂蜜パン」だったのである。
その後の100年で、「蜂蜜パン」は「コヴリシカ」へと姿を変えた。表面にさまざまなお祝い事や重要な出来事、場所などに合わせた絵柄が入れられるようになったのである。たとえば、17世紀末にのちの大帝となるピョートル1世の誕生に合わせて焼かれたコヴリシカには、モスクワの国章が入れられた。このコヴリシカには、おそらく、蜂蜜だけでなく、スパイスも加えられたと考えられている。スパイスはインドや中東から運ばれてきたが、非常に高価で、限られた人しか買えなかった。
18世紀になると、スパイスの値段が下がり、プリャーニクを含め、大量のレシピが考案された。そしてこの時、プリャーニクの全盛期が始まった(プリャーニクという言葉はプリャーノスチ=スパイスと同じ響きを持つ)。
料理史研究家のウィリアム・ポフリョプキンによれば、ロシアのプリャーニクを作るのには、シナモン、クローブ、カルダモン、レモンゼスト、オールスパイス、ナツメグ、トウシキミ、ミント、アニス、ジンジャーが使われた。このリストからもわかるように、ジンジャーの役割はこの中で特に優勢というわけではない。
有名なソ連のパティシエ、ロベルト・ケンギスは、料理本「家庭で作るケーキ、クッキー、プリャーニク、ピローグ」(1959年)の中で、プリャーニクの生地に入れる蜂蜜の量が多ければ多いほど、スパイスの量は少なくすると書いている。
「蜂蜜を入れないプリャーニクにはよりたっぷりの香りづけが必要である。ミックススパイスには、コリアンダー35%、シナモン30%、カルダモン10%、ナツメグ10%、そしてクローブ、トウシキミ、オールスパイスがそれぞれ5%ずつを使う。この割合はお好みで変えても良い。また香りと風味のために、刻んで炒ったくるみ、アーモンド、ピーナツを1/2カップ、砂糖漬け、レモンまたはオレンジの皮、バニラシュガー5〜10gを加えてもよい」。
ロシアのプリャーニクには色付けのためにジンジャーは加えない。なぜなら、ライ麦粉に、濃い茶色のそばの実の蜂蜜を加えると、すでに生地はそれだけで暗い色になるからである。
もし蜂蜜を入れずに、白っぽい色の粉に砂糖を加えて生地を作る場合であれば、焦糖を加えれば、やや茶色みの濃い色にすることができるとケンギスは助言している。
ロシアのプリャーニクのレシピは地域によって異なる。もっとも有名なのはトゥーラで作られるプリャーニクである。蜂蜜と砂糖の生地に、どろっとしたフルーツのジャムを入れて、型で焼く。フィリングにはいろいろなものがあるが、一番ポピュラーなのはりんごのジャム。それ以外では、黒スグリ、コケモモ、練乳、ナッツなどさまざまな種類がある。プリャーニクは表面に文字や絵を入れ、アイシングで飾る。このようなプリャーニクは「ペチャートヌィ」と呼ばれている。
ロシア北部では、数世紀にわたって、コズリと呼ばれる別バージョンのプリャーニクがある。これは動物の形をしたもので、19世紀初頭、アルハンゲリスクに砂糖工場ができた時に特に人気を博した。菓子職人たちは、砂糖よりも安価なマルトデキストリンを使うことを好み、生地を茶色っぽくし、甘い風味を加えた。一般的にコズリにはシナモンとクローブが加えられた。
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