トランプ大統領は対露制裁をどうする

米国国旗

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=ロイター通信
 米国による制裁解除はおそらく実現しないが、ロシアはそのことをあまり気に留めないだろう 米国政府関係者による最近の声明は、明らかに対露経済制裁放棄の展望に逆行するものだ。クレムリンが西側諸国との互恵的な関係を再構築する機会を得るという希望的観測を抱いていたならば、冷たい現実に気付かされたと言えるかもしれない。 しかし現在のモスクワは、もはやアメリカの敵意や予測不能性に驚かなくなっている。

 モスクワはおそらく、トランプ大統領とその政権によって近いうちに金融経済制裁が撤廃されるのではないかという幻覚からついに目を覚ました。2月2日にニッキー・ヘイリー米国国連大使が行った最近の声明は、このことを明確にした。

 「クリミアはウクライナ領の一部です」。ヘイリー大使は国連安全保障理事会を前に、就任後初となる公式の場での発言で、このように宣言した。「クリミアをめぐり我が国が科した制裁は、ロシアが同半島の統治権をウクライナに返すまで継続するでしょう」

 「言うまでもなく、ロシアの攻撃的行動による被害を被っているのはウクライナ東部だけではありません」と同大使は述べた。「米国は引き続きロシアによるクリミアの占拠を非難するとともに、その即時終結を求めます」

 

声を上げたクリミア住民

  米国大使である以上当然ながら、彼女にはトランプ大統領の外交政策上の懸念や目標を宣言する義務がある。クリミアのウクライナへの「返還」を対露関係改善の条件とすることで、彼女はしばらくの間関係が改善されることはないという見解を示した。

2014年に行われたクリミアの住民投票では、クリミア住民の圧倒的大多数がロシア連邦の一部になりたいことが明確に示され、本土の世論はこの再統合を断固として支持していた。モスクワが外国勢力の要求に対し一寸も譲歩するつもりがないことは明らかだろう。

 だが、トランプ大統領がこれらの要求を続けた場合、シリア、イランの核およびミサイル技術、南シナ海における中国の覇権拡大など、重要な案件において有意義な協力を築く可能性はきわめて低くなる。

 

金がものをいう

 とはいうものの、トランプ大統領が個人的に非常に嫌悪する言葉である、この新たな「リセット」を葬り去るには、まだ時期尚早だ。

 ホワイトハウスで新たな思考の流派が形成されていることを示す可能な手掛かりの一つは、ロシア連邦保安庁 (FSB) に対して科された金融制裁措置のいくつかを緩和するという米国財務省による決定に見出すことができる。

ホワイトハウスのショーン・スパイサー報道官は、この決定は「かなり常識的な慣行」であり、財務省は、制裁措置が特定の産業に及ぼす影響を軽減する「具体的な打開策」を適用するものであると説明した。

 ここには、携帯電話やラップトップコンピューターなどの暗号化機能を備えたテクノロジー製品の輸入ライセンスを管轄とするのはFSBであるという事実がある。そのため、この機関を制裁措置の対象とすることで、米国政府はロシアと米国企業間の輸出取引の妨げとなっている。

 この件は実用主義が政治に勝利したことを示す一例とみなすことができる。トランプ氏は抜け目のないビジネスマンであり、彼はアメリカにおける製造業の復活を優先的な政策案件に掲げている。

 

始まる前になくなったブロマンスの可能性

 では、期待する人もいれば恐れていた人もいるドナルド・トランプとウラジーミル・プーチンという2人の間の「ブロマンス」はどうなってしまうのだろうか? そのような関係が「離陸」する前に急降下して墜落してしまったというのか? 厳密にはそういうわけではない。状況はいずれの方向にも進展する可能性がある。

 プーチン氏とのブロマンスへの道を開拓することについて語った際、ホワイトハウスの新しい住人は、ベテランの外交官のように慎重だった。「素晴らしい関係が築かれることを願っています。それは可能ですし、それが無理な可能性もあります。どうなるかは様子を見ていきます」とトランプ氏は述べた。

 オバマ前大統領によって破綻した二国間関係修復に向けての試金石は、交渉という形になる可能性がきわめて高い。付加的な核軍備削減の包括的合意の見返りとして経済制裁を解除するという条件でトランプ大統領が放った最初の観測気球は、跡形なく青い空へと消えていった。 

 次の提案では、地政学的な含みがさらに強くなる可能性がある。ヘンリー・キッシンジャー氏がトランプ大統領の耳に助言をささやいているかのようだ。そのため、制裁解除の代償は、モスクワが「アジアへの基軸転換」(というよりも実際には中国への基軸転換) 政策を放棄し、西側の同盟国の影響下への基軸転換であることを意味している。

 両国間の水面下交渉には同様の外交政策カードの組み合わせが用いられ、それが公にされる可能性もある。モスクワには、イランに対し距離を置くこと、シリアでの「セキュリティゾーン」の設置を受け入れること、および/または国内市場を欧州企業ではなく米国企業に解放するといった提案が突きつけられる可能性がある。

 

欧米諸国の制裁がもたらす恩恵

 確かに、モスクワがトランプ政権の耳障りで慌ただしい外交政策スタイルを受容する高いツケを甘受した場合には、「ブロマンス」の可能性は除外できない。当然、最も鍵となる問題は、プーチン大統領のロシアにそのような交換条件を受け入れる用意があるかである。

 欧米による制裁は、特定の産業の加速的な成長にブレーキをかけるという意味でロシア経済に悪影響を及ぼした。だが、世界的な石油価格の低迷が経済の減速により重要な役割を果たしたことがデータにより示されている。

 しかし、制裁は全体的に見てプラスの効果をもたらした。例えば、ロシアが対抗策として科したEUの食品や農産物に対する制裁により、国内生産者が活気づいた。ロシアの農業セクターは2016年に4.8%の成長を遂げ、ロシアは今や有数の穀物輸出国として、世界の穀物市場で15%のシェアを誇るようになった。

 一部の予想はどちらかというと楽観的すぎるように見受けられるが、それらに根拠がないわけではない。10年後のロシアの食品・農産物の輸出額が、500億ドル(約5兆7千億円)にもおよぶ天然ガスの収益に匹敵するという予想がある。

 ロシア経済の特定の産業に新たなチャンスがもたらされること以外にも、欧米の制裁により、社会的にも前向きなトレンドが発生している。これは愛国的感情を引き起こし、いわゆる「リベラル」な反対派を弱体化させ、エリート産業の国有化を加速化させ、ロシアが直面する主な課題に関してコンセンサスが形成された。最後にもう一つ、指摘し忘れてはならない点は、制裁によりプーチン大統領の人気が高まったということである。

 歴史的なより長い目で考えると、ボリシェビキ改革以来、短期的な緊張緩和があったにもかかわらず、ロシアは絶え間なく欧米による何らかの制裁の対象とされてきたのである。

*ウラジーミル・ミヘエフ氏は、フリーランス評論家としてロシアNOWに寄稿している。同氏の論説は、ロシアNOWおよびそのスタッフの公式見解を反映するものではない。

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