モスクワ国立国際関係大学・東洋学講座主任を務めるドミトリー・ストレリツォフ教授は、肯定的な予想を示す。「トランプ勝利の後では、露日関係の推移、発展に対する米政府の介入は、最小限になるだろう。トランプ氏は、選挙戦で米露関係の正常化が必要だと公言したことでもあるし。こうした点からして、米国が露日関係を妨げるだろうと仮定するのは、少なくとも論理的とは思えない」。ストレリツォフ教授はこうコメントした。
トランプ氏のレトリックには、米国社会に見られる気分が反映している。すなわち、孤立主義に傾き、自国を「唯一の超大国」かつ「世界の警察官」とする立場から退こうとする気分だと、ストレリツォフ教授は考える。
教授の見解では、こうした論理に従えば、米国は、アジアにおける主要な同盟国である日本に、対露関係構築においてはるかに「大きなフリーハンド」を与えるはずだという。
「言い換えれば、もし米国が、同盟国を守る義務から自らを解放し、同盟国に対して、安全保障に関する戦略を自分で選択する権利を与えるならば――その戦略のなかには核保有さえ含まれているのだが――、なぜこれらのパートナー国は、国際関係において自分で自分のパートナーを選び、自分の考えで関係を構築してはいけないのだろうか?」。こうストレリツォフ教授は問う。
また、ストレリツォフ教授の指摘するところでは、米国務省では早くも今年春に、良好な露日関係を米国の国益として許容するとの結論に達していたという。すなわち、マーク・トナー米国務省報道官は当時こう述べていた。「日本のような国は、米国ともロシアとも緊密な関係をもつことができる。この二つの関係は互いに排除し合うものではない」「という次第で、より反露的な気分をもつ民主党でさえ、こうした声明を出しているとすれば、ロシアに対して少なくともより低姿勢である共和党の新政府からは、何が期待できるだろうか」。ストレリツォフ教授はこう述べる。
その一方で、アレクサンドル・パノフ元駐日本大使の考えでは、トランプ氏がまだ実務についていない今、予測をするのは時期尚早だという。「選挙キャンペーンや選挙公約と、現実とはまったく別物だ。トランプ氏はまだ現実においてこの問題とぶつかっていないのだから」。パノフ元大使はこう指摘する。
パノフ元大使によると、日本にはまだトランプ氏に対する不安感がある。「日本は、自国の国防に十分な支出をせず、米国に頼っているため、米国はその負担を自らに引き受けざるを得ないとして、トランプ氏は、日本を他国同様に非難している」
「日本は次のような可能性を排除していない。つまり、米国が、在日米軍の増強、および日本の国防費の増大を求める可能性だ。これに関連し、日本の防衛大臣は既に、日本は在日米軍のためにもう約20億ドル(約2000億円)を支出しており、これは相当な額だ、と声明している」。パノフ元大使はこう述べた。
「トランプ氏が言及した核武装の可能性について言えば、これについても、既に日本の複数の高官がコメントしており、その際に彼らは、核兵器の恐ろしさを身をもって知る日本にとっては、こういうテーマもその可能性も、およそ考えられないと強調している」。パノフ氏はこう指摘したうえ、露日関係に関しては次のように述べた。
「米国のエスタブリッシュメントは、露日の友好関係を歓迎しない。これは周知の事実だ。トランプ氏の発言にかかわらず、米政府と日本の親米ロビーは、露日間の接近に反対する行動をとるだろう」
ストレリツォフ教授の考えでは、過去1年間、日本は、「対露関係発展に向けて十分な決意を」示し、その際、「今は、ウクライナ問題により、ロシアと事を成す時にあらず」との米国の警告を無視してきた。
「露日の対話を建設的に続ける路線は、米国要因にかかわる政治状況に左右されずに、継続されるだろう」。教授はこう述べる。
この点、パノフ元大使も、同様の意見だ。「露日関係に関しては、オバマ大統領が露日の接近に反対しているにもかかわらず、安倍首相はその方向に向かって行動している。この点から、露日関係を見るべきだ。おそらく、米新政権に対しても、これは継続されるだろう。ましてや、米政権が、人が集まり形をなすまでに、さらに半年はかかるのだから」。パノフ氏はこうみる。同氏の見解によれば、米議会が対露制裁を解除することはまずないが、それでも日本はもう以前から、「ロシアとの経済関係を整えるために、制裁を回避する方法を見つけている」
ストレリツォフ教授の意見では、対露関係を変えようと断固決意している安倍首相にとっては、これは個人的な野心の問題でもあるという。
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