正教会では、儀式は復活祭当日の前夜に始まる。多くのロシア人が(信者も信者でない人も)、深夜に暗い教会に集まり、午前零時になると、司祭は「キリストは甦り給えり」(「ハリストス復活」)と唱え、ろうそくに火が点され、聖歌が響き、人々は高揚した気分で抱擁し合い、キスを交わす。参列者の多くにとって、復活祭が唯一教会へ行く日となる。この日はいちばん良い服を着て出かけよう。
この後、参列者の多くが家に帰って寝るが、最も熱心な信者たちは、長い終夜祷に残り、壮麗な儀式に連なる。勤行が終わるのは早朝だ。
復活祭の日曜日に死者に敬意を表することは何世紀にもわたる伝統であり、ソ連時代にはとくにこの日の典型的な過ごし方だった。ロシア人の多くが、卵やクリーチ(ロシアの円筒形のイースターケーキ)など、祭りの宴の食べ物を墓地に持参して、近親者の墓に詣でる。
これはロシアの長い伝統で、正教ではなくそれ以前の異教に由来し、一般的には、ロシアの世俗の信者および非信者のみが行う。正教会はこの伝統にははっきり反対している。例えば、フセヴォロド・チャプリン長司祭は、「復活祭に死者のために祈ることほど大きな罪はない」と述べている。
正教会の大斎(精進)では、信者は、復活祭まで6週間にわたり、肉食を避け、厳しい精進を行わなければならない。復活祭の豪華な食事は、いわば堅固な信仰に対して与えられるひとつのご褒美であり、長い勤行の後では、王者の宴のようにも感じられるだろう。
この遅い朝食にはふつう、パシュカ(ピラミッド型の甘いプディング)、マコヴニク(美味しいケシの実を使ったケーキ)、クリーチ(白いアイシングとスプリンクルでトッピングした甘いケーキ)が含まれている。また、ハム、チーズ、ミルクのような、大斎期には食べられない動物性食品もしばしば食卓に並ぶ。
唯一問題なのは、オーブンで焼いたりするベーキングだ。前日の土曜日はまだ精進しているので、自分の料理を試食することさえできない。厳しい!
ロシアの復活祭で大きな位置を占めるのが卵だ。ロシアには、チョコレートで卵を作るチョコレート・エッグの伝統はない。その代わりに正教信者は、より宗教的な伝統である、自然なイースターエッグに執着している。これは、キリストの復活を象徴するもの。卵は、キリストの血を象徴する赤に着色されるが(タマネギの皮を使う)、コーヒー、ホウレンソウ、ビートなどを用いて、驚くほど多様なパターンを作り出すこともできる。私たちの卵の色付けガイドで、そのやり方をチェックしてみよう。
ほとんどのロシア人は家族といっしょにこの日を過ごすが、もちろん多くの選択肢がある。面白い午後の過ごし方として、ファベルジェのイースターエッグを見に行く手がある。これは、最も復活祭にふさわしい見事な創作だろう。ファベルジェのイースターエッグは、世界的に有名で、ロシア帝国で最も有名だった宝石商「ファベルジェ工房」の遺産だ。ロシアの皇室は頻繁にイースターエッグ制作を注文していた。
だからこの美麗な装飾品を見学し、その神技にじっくり見入るには、今は1年を通して最適の時期だと言えよう。ファベルジェのイースターエッグの最大のコレクションは、モスクワのクレムリンの「武器庫」、またはサンクトペテルブルクの「ファベルジェ美術館」にある。
あなたが自宅で復活祭の日を過ごしたくなければ、もう一つの選択肢は、街に出かけて、伝統的な関連行事に参加することだ。ロシアのほとんどの都市には、家族ぐるみで参加できる様々なイースターフェアがある。モスクワの復活祭フェスティバルでは、例えば、食品の試食、ステンドグラス制作、インタラクティブな劇場などのイベントが市の周りに設置される。また、多くの都市では、民謡、正教会の聖歌、伝統的なダンスなども行われる。
2002年以来、ロシアの復活祭当日に行われる音楽祭では、世界各国から有名音楽家を招いて、ロシアの管弦楽曲、室内楽、合唱、ベル・リンギングなどの最高の演奏が行われる。
音楽祭のグランドオープニングは、復活祭の日曜日の午後7時、モスクワ音楽院大ホールで行われ、マリインスキー劇場管弦楽団が演奏する。もしグランドオープニングに行けなくても(チケットは人気が高い)、心配する必要はない。オンラインで聴くこともできるし、他の関連行事が全国で145件も行われるから、そちらで聞くこともできる。ここでスケジュールをチェックしよう。
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