最も映像化作品が多いロシア・ソ連の作家TOP10 

PLANET PHOTOS/Global Look Press
 偉大な文学から偉大な映画は生まれない、とよく言われる。やはり、あまりにタイプが違い過ぎる表現手法だからであろうか。だが傑作文学は数多い一方、傑作脚本は多くない上、制作にも時間がかかる。映画監督らが誘惑にかられるのも道理だろう。ロシア文学も、例外ではない。

10. イリヤ・イリフとエヴゲニー・ペトロフ 映画化36回

『十二の椅子』の1シーン

 風刺作家のイリフ=ペトロフは、もっとも機知に富んだソ連の作家だろう。彼らを初出とするフレーズ(不滅の格言「溺れる者の救助は、溺れる者の仕事である」など)の多くは、すっかりロシア語の中に定着した。しかし、イリフ=ペトロフの名を不滅のものにしたのは、全く別の、ある種の詐術であった。

 すなわち、ピカレスク小説『十二の椅子』と『黄金の仔牛』の主人公、魅力たっぷりの詐欺師オスタップ・ベンデルは紛れもなく悪役であると、検閲機関に信じ込ませたことだ。紛れもなく、ベンデルは1917年の偉大な革命で粉砕された古臭いプチブル世界の残滓でしか無い、と。だが、読者は正しく物語世界を理解した。ベンデルはその英知と機転、内なる高潔さで読者に愛された。

シャロン・テート主演の『The Thirteen Chairs』のポスター

 『十二の椅子』はソ連、アメリカ、ドイツ、オーストラリアなど、多くの国々で少なくとも20回は映画化された。ベンデルを演じた俳優にはアンドレイ・ミローノフ、トビアス・モレッティ(ドラマ『REX~ウィーン警察シェパード刑事』のスター)、フランク・ランジェラがいる他、何と女優シャロン・テートも演じている。

9. アレクセイ・トルストイ 28回

『アエリータ』の1シーン

 かのレフ・トルストイの縁戚にしてソ連の「同志伯爵」アレクセイ・トルストイは、複数のジャンルでソ連文学において正当的存在となった作品を発表してきたため、ソ連の映画人らからも安定して関心を持たれた。トルストイは『ピョートル1世』や『苦悩の中を行く』(ロシア内戦が部隊)といった壮大な歴史小説を執筆してきたが、SF分野でも初期の人気作家の1人となっていた。ソ連のSF映画第1号である『アエリータ』はトルストイの原作である。また、『ガーリン技師の双曲線』も2回映画化されている。

 児童文学作家の一面もあり、その作品群の中でも最も実写映画・アニメ問わず映像化の回数が多い作品は、童話『金の鍵』だ。これは、『ピノッキオ』を独自に再構成した物語である。 

8. ブルガーコフ 57回

『犬の心』の1シーン

 ミハイル・ブルガーコフもまた、SF(speculative fiction)作品を残している。中編『犬の心』は、雑種犬を人間に変えてしまった教授の物語。1988年に映画化され、作中のシーンはロシア語圏インターネットに様々なネットミームを供給している。

 レオニード・ガイダイ監督が手掛けたタイムトラベル物の『イワン・ワシリエヴィチの転職』もブルガーコフの原作であり、ロシア史上最も人気のあるコメディ映画の1つとなった。

 『白衛軍』や『トゥルビン家の日々』といった、ロシア内戦をテーマにしたブルガーコフ作品も頻繁に映画化されている。

 しかし、映画人が最も熱い関心を寄せてきたのは、モスクワに出現した悪魔をめぐる奇想小説『巨匠とマルガリータ』に他ならない。とはいえ、誰もが認める傑作映画はいまだ誕生していない。映画人は「呪われた」テキストのせいだと言うが、それでも彼らは繰り返し映像化に挑戦してきた。この冬には5回目の映画化作品が公開予定で、アウグスト・ディール(『イングロリアス・バスターズ』)がヴォランドを演じる。

7. セルゲイ・ミハルコフ 65回

アニメ『スチョーパおじさん』の1シーン

 ソ連国歌とロシア国歌を作詞したミハルコフは多作の人であった。最も多いのは児童文学で、大人向けのジャンルを子供向けにアレンジした作品が多い。例えば、反欧米的風刺活劇『プレシャス・ボーイ』(1974年)は、ミハルコフの戯曲が原作だ。欧米で多発しているという児童誘拐をテーマにしており、ソ連の外交官の息子が被害に遭ってしまう。

 だが、ミハルコフをトップ10入りさせたのは、映画ではなく、アニメである。彼の詩や寓話を原作とするアニメ作品は多い。その代表格が、ソ連の模範的警察官が活躍する『スチョーパおじさん』だろう。

6. イワン・ツルゲーネフ 131回

『父と子』の1シーン

 ロシア文学が西洋で認められたのは、まさにツルゲーネフからである。ヨーロッパに長く滞在してギュスターヴ・フローベールやジョルジュ・サンドと親交をむすんだツルゲーネフは、自身も作家として地位を確立していたが、同僚の作家たちも応援して多大な貢献をなした。後年、彼はトルストイやドストエフスキーらの影に隠れがちになるが、ツルゲーネフがロシア内外で最も知名度の高いロシア人作家の1人である事に変わりはない。

 そしてその作品も、幾度となく映像化されてきた。例えば短編では、聾唖の召使の男と犬の友情を描いた『ムムー』(映像化は4回)がよく知られる。長編では、世代間の溝という永遠のテーマを描いた『父と子』(映像化13回)が代表格だろう。

5. アレクサンドル・プーシキン 196回

『スペードの女王』の1シーン

 ロシアの代表的詩人プーシキンは、インスピレーションに欠ける時には散文を書いていたと語っている。彼の散文的作品は、その殆どが1度は映像化されている。歴史戯曲『ボリス・ゴドゥノフ』(明らかにシェイクスピアの年代記系作品に影響されている)から、中編『大尉の娘』『ベールキン物語』シリーズまで、枚挙に暇がない。

 特に『スペードの女王』(映像化21回)は映画人に好まれた題材で、サイレントの時代からホラー映画として制作されてきた。中でも評価の高い映像化がイギリスのソロルド・ディキンソンが映画化したもの(1949年公開)である。しかし最も映像化される事が多いプーシキン作品は、『漁師と魚の物語』、『サルタン王物語』、『ルスランとリュドミーラ』などの長編詩である。

4. ニコライ・ゴーゴリ 210回

『ヴィイ』をモチーフにした『血ぬられた墓標』の1シーン

 ゴーゴリの『検察官』は、何の変哲もない旅客が首都から来た検察官だと勘違いされる話で、現在に至るまで舞台や映画で好まれる作品である。少なくとも17回映像化(TVドラマを含む)されている。最後に映像化されたのは2014年で、舞台を現在に移した『阿呆の日』というタイトルになっている。その他、『賭博師』や『結婚』も映像化されたが、数は多くない。

 ゴーゴリ作品では、『ヴィイ』(10回)を筆頭にホラー要素の強い作品の人気が高い。1967年に映画化された『ヴィイ』は、いまだに国産ホラーの唯一の成功例とされている。ホラー映画界の巨匠の1人であるイタリアのマリオ・バーヴァも『ヴィイ』をモチーフにした傑作『血ぬられた墓標』(1960年)を撮っている(もっとも、基となった作品とは大きく異なっている)。ティム・バートンはこの映画が『スリーピー・ホロウ』に映像面で大きな影響を与えたと証言している。

3. レフ・トルストイ 235回

グレタ・ガルボ主演の『アンナ・カレーニナ』の1シーン

 トルストイの権威は揺るぎない。しかし、その代表的作品群の映像化はそれほど多くない。それもそのはずで、トルストイが世に送り出した壮大な大長編は、ストーリー上の損失を覚悟しない限り、単品の映画どころか数部構成の映画にもドラマシリーズにも仕上げられないのだ。 

 それでも、勇敢な挑戦者はいた。例えば『戦争と平和』は9回映像化されており、中でも有名なのが、オードリー・ヘプバーン出演の1956年のアメリカ映画と、アカデミー賞に輝いた1965年のソ連映画だろう。

 愛と裏切りの悲劇『アンナ・カレーニナ』の映像化は22回。最も新しいものは、今年公開のメキシコのドラマシリーズ『Volver a caer(『再び落ちる』)』である。『アンナ・カレーニナ』の映像化回数が最も多いのは、まず母国ロシア、そしてイギリスとアメリカであるが、他にもオーストラリア、エジプト、インドなど、多くの国で映像化されている。

2. フョードル・ドストエフスキー 308回

『嗤う分身』の1シーン

 映像化回数でドストエフスキーがトルストイを大きく上回ったのには、幾つかの理由がある。まず、ドストエフスキー作品の方がより短い。また、中編も長編も、作品数がより多い(長編は、トルストイの3本に対し8本)。さらに、ドストエフスキー作品は物語世界が特定の時代とそれほど強固には結びついていないため、舞台を現在や、別の国に移し易い。

 ジェシー・アイゼンバーグとミア・ワシコウスカが主演を務めたスリラー映画『嗤う分身』(2013年)が好例だ。また、ホアキン・フェニックスとグウィネス・パルトローが主演する『トゥー・ラバーズ』(2008年)も、『白夜』がモチーフの映画だ。『白夜』は、ドストエフスキー作品の中でも映像化回数(少なくとも25回)が非常に多い。

 しかし、『罪と罰』は別格だ。同作をモチーフとした映画化やドラマ化、更にはアニメ化も含めると、60回映像化されている。中でも最も成功したと考えられるのが、ロベール・ブレッソンが1959年に制作した『スリ』(舞台はフランス)だ。『ダンケルク』(2017)の制作時にクリストファー・ノーラン監督は、ブレッソンが『スリ』で作品内に緊張感を生み出した手法を研究したと語っている。

1. アントン・チェーホフ 631回

『三人姉妹』をモチーフにした『叫びとささやき』の1シーン

 いつの時代も、戯曲の古典は他のテキストよりも積極的に映像化されてきた。それだけに、チェーホフが世界で最も映像化の多い作家の1人である事に不思議は無い。

 チェーホフの『かもめ』、『ワーニャ伯父さん』、『桜の園』などといった偉大な戯曲の映画化は数十回、あるいは100回以上にも及ぶかもしれない。イングマール・ベルイマン(傑作『叫びとささやき』は『三人姉妹』がモチーフ)、ルイ・マル(『ワーニャ伯父さん』を原作とした『42丁目のワーニャ』)、シドニー・ルメット(『かもめ』)など、チェーホフ作品にインスピレーションを求めた映画監督は数知れない。

 とはいえ、そんなチェーホフでも世界記録にはまだ遠い。シェイクスピアはこのランキングでは圧倒的で、映像化1600回以上にも及ぶ。

ロシア・ビヨンドがTelegramで登場!ぜひフォローをお願いします!>>>

もっと読む:

このウェブサイトはクッキーを使用している。詳細は こちらを クリックしてください。

クッキーを受け入れる