作家トゥルゲーネフ生誕200年:彼がトルストイに負けない文豪である5つの理由

国立トレチャコフ美術館
 イワン・トゥルゲーネフ(1818~1883)は、ロシア以外では、その真価からして不公平なことにあまり知られていない。しかし彼もまた、ロシアの偉大な古典的大作家の一人だ。彼の生誕200周年(11月9日)を機に、なぜこの空白を埋め、彼の短編や長編を読む必要があるか説明してみよう。

1. 優雅だが内面の強靭な女性像を創造した

 19世紀前半のロシア文学では、描写はたいてい男性像に集中し、女性はいわば「応用材料」であるにとどまった。女性の大部分はやっかいな恋愛で苦しむだけだ。

 「トゥルゲーネフ的令嬢」という言葉がある。これは、「繊細優雅で感じやすい、薔薇色の頬をした貴族令嬢」という、いささか単純化された意味で流布している。だが実は、彼女たちは強靭な独立心を秘めた女性たちだ。彼女らに比べると、男性の登場人物たちは、肝心な決断ができない軟弱な人間に見える。

 中編『アーシャ』の同名のヒロインも、長編『貴族の巣』のエリザヴェータ・カリチナや『ルージン』のナターリア・ラスンスカヤも、田舎の領地で育った教養ある娘たち。であるがゆえに、上流社会の約束事にはとらわれない。彼女らは、自分の愛のためには、真に正しい行動をとることができ、男性の見かけ倒しの魅力にはあざむかれず、その真価を見定めることができる。

 しかしトゥルゲーネフは、これ見よがしの「解放された女」は皮肉っている。例えば、長編『父と子』のククシナはほとんどカリカチュア的に描かれている。彼女は煙草を吸い、不自然に振舞い、男のような言動をし、手当たり次第に乱読し、やみくもに気の利いた文句を引用する。

 2. 当時の最重要な問題を提起した

 検閲が厳しかった19世紀のロシアでは、文学が思想表現の中心で、人々は小説を通じて、新しい思想や情報を知った。例えば、有名な長編『父と子』で、古今東西切実な問題を初めて明瞭かつ深刻にとりあげたと言える。すなわち、父たちと子たち、二つの世代の対立、断絶は解決しがたい。両世代は決して理解し合うことができない、ということだ。

 こうした常にアクチュアルな『父と子』は、読者の目を「ニヒリスト」の出現に対しても開かせた。それは、宗教も社会規範も愛さえも否定し去る人々だ(愛など「化学反応にすぎない」と)。

 さらにトゥルゲーネフは、「余計者」という用語を導入した。彼らは、懐疑的な知識人で、周囲の人々に対し知的優越を感じているくせに、現実社会に根を下ろすことができない。こうした人物をトゥルゲーネフは、多数の作品で描いている。とりわけ、『父と子』のバザーロフ、『貴族の巣』のラヴレツキー、『余計者の日記』のチュルカトゥリンなどが重要な例だ。

3.農奴に同情を寄せ、擁護した

 トゥルゲーネフは、農奴制との戦いを自身の生涯の仕事と定めていた。短編集『猟人日記』でこの作家は初めて、抑圧されたロシア民衆のテーマを提起し、素朴な人々の勤勉さと善良さを詩的に描いた。その一方で、地主の恣意、横暴による恐るべき苦しみをも描き出している。

 『猟人日記』はトゥルゲーネフに非常な名声と人気をもたらしたが、この作品の再刊は禁じられた。そして刊行を許した検閲官は、皇帝ニコライ1世自らの命令により解雇された。

 しかし、アレクサンドル2世の時代になると、1861年に農奴制が廃止され、トゥルゲーネフ以外の作家たちも――とくに詩人ネクラーソフが――抑圧、貧困に苦しむ民衆のテーマを展開させる。ネクラーソフは、トゥルゲーネフの友人であり、ロシアの思潮をリードした文芸誌「現代人」の編集長だった。『猟人日記』の第一作を載せたのはこの雑誌だ。

4. レフ・トルストイの天才を見抜いた最初の一人

 トゥルゲーネフはトルストイよりも10歳年長だ。若きトルストイがようやく作家の道へ踏み出したとき、前者はすでに文壇の重鎮だった。『幼年時代』がトルストイの処女作で、自伝三部作の第一作となったが、その原稿を見たトゥルゲーネフは、「確かな才能」だと太鼓判を押した。そして、作者へ自分の深い敬意と賛嘆の念を伝えてほしいと頼んだ。三部作の第二作、『少年時代』が出たときは、トルストイは「ロシアの最高の作家たちに肩を並べた」と、先輩作家は書いている。

 一方トルストイもまた、トゥルゲーネフの作家としての力量に敬意を払っていた――とくに自然描写の技量と愛情深く民衆を描き出していることについて。トルストイは日記に、『猟人日記』を読んだ後はものが書きにくいとさえ記している。

5. 欧州にロシア文学を広めた  

 トゥルゲーネフはベルリンで学び、多くの旅をし、バーデン=バーデン、パリなどに住み、西欧最高の作家たち――ディケンズ、ユーゴ―、モーパッサン、フローベールなど――と文通し、交流した。

 また、ロシア語が読めない欧州の人々のために、ロシア文学について、詩人プーシキンその他の作家の天才について語った。

 トゥルゲーネフはまた、ロシアの読者に西欧の作家たちを紹介し、自らバイロンとシェイクスピアを翻訳したが、こう嘆いた。劇作家たちは、偉大なる詩人の「影」から解放され、模倣をやめることができないと。

 ところでトゥルゲーネフ自身、成功した劇作家だった。ロシアの劇場は当時から今にいたるまで彼の戯曲を盛んに上演している。

 2014年には、欧州の多数の映画館で、彼の戯曲『村のひと月』にもとづく映画、「Two Women」が上映された。イギリスの俳優、レイフ・ファインズが主役を演じた(彼は、『ハリー・ポッターシリーズ』で、闇の魔法使い、ヴォルデモートを演じている)。

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