もう一人のトルストイ:物議をかもした、あるソビエト作家による5冊の読まないと損をする本

画像:アレクサンドル・キスロフ
 ピノキオのロシア・ヴァージョンともいえるブラティノの作者、アレクセイ・トルストイは、有名なレフ・トルストイの遠い親戚である。彼は、世界の誰もが知っている影響力のある思想家ではなかったかもしれないが、学校の教科書に載ってみなに読まれるような作品を、彼は残している。今年は、アレクセイ・トルストイ生誕135年にあたる。彼の有名な作品をじっくりと読んでみよう。

1.ゴルゴダへの道(1921-41)

「ゴルゴダへの道」シリーズ

 この3部作は、昨年がボルシェヴィキ革命100年にあたり、革命にいたる出来事や革命そのもの、また革命のあとに起こった事件を描く多くの新しい本が書かれ、映画が作成されたので、特別な時事的関心を引くものである。すでに私は、革命をよりよく理解するために必読のロシアの有名な本を紹介しているが、ここで取り上げるのはロシアで何度も映画化された、読むべき本である。

 『姉妹』、『1918年』、『陰鬱な朝』の3巻本は、「荘重なリアリズム体」で書かれている。「荘重なリアリズム」体というのは、作者自身の命名によるものだ。本は、1914年、サンクト・ペテルブルグのカオスと無秩序のなかではじまり、内戦における赤軍の白軍にたいする完全な勝利で終わる。小説が描くのは、騒乱に巻きこまれたロシア・インテリゲンツィアの運命であり、古典的作品において常にそうであるように、真実の愛である。

 1920年代初めに最初の巻が書かれたが、それは静謐な偏見のない語りで展開されているのに対し、1941年に書き終えられた最後の巻は、あけすけなプロパガンダと自惚れが目立っている。実際に、この3部作によって作者はスターリン賞を獲得している。

2.カリオストロ伯(1921)

「カリオストロ伯」映画

 この作品を原作にして製作され、原作よりもはるかに有名な伝説的な映画がなかったのならば、私たちは多分この作品を必読書リストに入れる必要はないと思う。さまざまな資料を使いながら、トルストイは、ロシアにおけるカリオストロ伯の冒険を、自分なりのやり方で描き出している。偽の手品師が小さな田舎町でひと騒動起こし、詐欺がばれると逃亡する。

 筋立てはウッディー・アレンが取り上げそうなもので、小説は当初、『湿った月影』と呼ばれていた。アレンの『マジック・イン・ムーンライト』を思い出しませんか?

 カリオストロを取り上げたのはいささか奇妙に思えるが、それには重要な背景がある。19世紀末、迷信深いロシアの貴族はあらゆる種類の魔術の儀式、オカルティズム、神秘的な治癒者に興味を持った。この関心はかなりの部分、皇帝ニコライ2世の妻。后妃アレクサンドラの宮廷に端を発するものだった。彼女は、神秘的なものならなんでも大好きで、フィリップ師やグリゴリー・ラスプーチンなどのいわゆる奇跡成就者を宮廷に招いた。 

3.アエリタ(1923)、または、『ガーリンの死の光線』(1927)

「アエリタ」映画

 トルストイはジャンル的な広がりをもつ作家で、SF作品も書いた。彼はSF作家の先駆けともいえる。小説『アエリタ』(『火星の衰退』)は、地球人の火星への旅を描いたもので、大人向けの作品だった。ところが、トルストイはこの小説を若者向けの物語に書き直した。物語は、惑星間旅行をする宇宙船を製作し、それをかつての席軍兵士とともに赤い惑星に打ち上げた、エンジニア、ムスチスラフ・ロスについての物語である。火星で彼らが見たものは、地球上と同じような出来事であった。独裁者が民衆を抑圧し、一人の勇敢なプロレタリアが革命家グループを率いていたのだ。

 技術的な事柄を正確に描くために、トルストイはコンスタンティン・ツィオルコフスキイの宇宙研究を熱心に読んだ。また、もう1冊のSF小説『ガーリンの死の光線』(『エンジニア、ガーリンの双曲面』)では、作者は科学者、ピョートル・ラザレフに分子物理学にかんする助言を仰いでいる。エンジニアのガーリンは、レーザーに似た装置、「双曲面」を作成し、太平洋上に浮かぶ一つの島を破壊し、地球のもっとも深い内奥で金の掘削を始めた。勇敢なソビエトの革命家たちが救援に駆けつけるまで、彼は独裁者になる。 

4.ピョートル1世(1930-34)

「ピョートル1世」映画

 この分厚い本は、ロシアの最初の皇帝(エンペラー)ピョートル1世の幼少期を描いている。この本はロシアの子供たちを怯えさせた。なぜなら、この本は夏休みの課題図書だったからである。

 歴史小説としては、この本は明らかに時代の子であった。なぜなら、プロパガンダに満ちあふれているからである。歴史家が指摘することろによると、この本はスターリンの直接の命令によって、スターリンの人格崇拝を増幅させる努力の一環として書かれた。エイゼンシュテインの映画『イワン雷帝』と同じように、この本はあきらかにあのソビエトの指導者を念頭に書かれているが、トルストイの場合は、スターリンとピョートル大帝が同様なものとして描か入れている。社会主義リアリズム芸術のゴールは、未来の社会主義者の「天国」の建設のために夥しい数の人々が殺されたという事実を正当化することであった。

 この本は、しかしながら、一定の歴史的な正確さをもち、教会、小さな木造の家、宮殿など、異なった場面設定において、さまざまな情景を正確なディテールで描いている。

5.『黄金の鍵、あるいは、ブラティノの冒険』

『黄金の鍵、あるいは、ブラティノの冒険』映画

 アレクセイ・トルストイは、子供向けの多くの短い物語、おとぎ話を書いている。そのなかで木でできた少年ブラティノの話は、おそらくもっとも有名なものである。あなたはこんな話をかつて聞いたことがないだろうか。そうだ。ブラティノは、カルロ・コロディの『ピノキオの冒険』に触発された物語なのだ。

 このイタリアの物語のロシア語訳を編集するさい、本をロシア風に仕立て、ソビエトの子供たちに親しみやすくするために、トルストイはいくつかの変更をほどこした。たとえば、父親の名前は原作ではゼペットであるが、カルロ・パパとした。

 コロディの物語は新しいソビエト国家にとって十分「進歩的」ではないので、トルストイはその後、自分のオリジナル・ヴァージョンを書こうと考えた。トルストイの本は、コロディの作品とはいくぶん異なったプロッタの組み立てと登場人物をもっている。たとえば、ブルティーノの鼻は、嘘をついたときには伸びない。たしかに、ブルティーノはあまり嘘はつかない。というのも、それはソビエトの子供たちによいお手本とはならないからだ。

 この本はアニメ映画化され、ソビエトの子供たちに最も愛された物語となった。

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