ソ連・ロシアの戦争映画5選:戦争と人間の真実に迫る!

Sergei Bondarchuk/Моsfilm, 1975
 戦争映画はふつう、激しい戦いと犠牲を描いている。しかしロシアでは、第二次世界大戦は人々の心の中にとりわけ深く刻み込まれている。この戦争は、ロシアにおける最も破壊的な戦いであり、膨大な犠牲を強いた。そのうえ、戦争が形の上では終わった後もずっと、痛み、苦しみ、悩みは人々の心に残ったからだ。 

 ロシアの映画製作者にとって真の課題は、スクリーン上の戦争のテーマに、独自の視点から取り組み、戦争が引き起こした真の人間的悲劇、災厄を示すことだ。
 この戦争は、人々の心中にぽっかりと黒い穴を残した。肉体の傷や心の痛みさえ、氷山の一角に過ぎなかった。いわば火をもって火と戦うために、人々は戦争映画を見て、カタルシスを体験しなければならなかった――死せる兄弟たちの叫びを聞き、自分たちの傷ついた魂を癒すために。
 我々はここに、その意味で典型的な戦争映画のリストをつくった。これらの映画は、英雄と裏切り者、父と子の目を通して、第二次世界大戦を様々な視点から見るのに役立つ。

1. 『道中の点検』(1971)  

[裏切り者VS英雄]

 アレクセイ・ゲルマン監督の白黒映画の傑作。1971年に撮影されたが、ある単純な理由から、ようやく15年後に日の目を見た。この型破りな映画は、ソ連の一部がナチス・ドイツに占領されていた1942年に設定され、敵側に自発的に寝返ったソ連兵に焦点を当てていたからだ。
 この映画は、大祖国戦争(独ソ戦)に関する、ソ連の最高傑作の一つだが、タブー化していた極めて微妙なトピックに触れていた。その題材は、当時の検閲にとって前例のないものだった。
 当然、『道中の点検』の試写が行われるやいなや、ソ連映画委員会のアレクセイ・ロマノフ委員長は、この映画を含むテープが長期にわたりお蔵入りになるよう手配した(日の目を見たのは1986年だ)。映画は愛国心が欠如していると非難され、監督はソ連のパルチザンの現実を知らぬと決めつけられた。

 アレクセイ・ゲルマン監督のこのドラマは(彼の父、ユーリー・ゲルマンの小説『“祝新年”作戦』による)、ソ連軍の元伍長ラザレフに焦点を当てる。彼は「裏切り者」で、いったんはドイツ側に寝返ったが、後にソ連のパルチザン部隊に投降し、罪を償いたいと申し出る。
 パルチザン部隊を率いるイワン・ロコトコフ(ロラン・ブイコフが演じる)は、本当にこの脱走者を信じたいと思うが、食糧を積んだドイツの列車を略奪するという無理な仕事を彼に任せる――飢えたソ連兵を助けるために。
 『道中の点検』は、人間の価値とモラルの限界を探り、戦時下のふつうのソ連兵をまったく異なる角度から描き出す。つまり、戦争で荒れ果て、雪に覆われた森を舞台に、裏切り者でもなければ愛国者でもない人間たちを描く。彼らはみな、単なる人間であり、致命的な過ちを犯しがちなのだ。

2. 『誓いの休暇』(原題は『兵士のバラード』)(1959) 

[ヒューマンなドラマ] 

 グリゴリー・チュフライ監督のこの人間ドラマは、あなたにとっての典型的な戦争映画ではないだろう。特殊効果、激しい戦闘の壮大なシーン、栄光の勝利といったものを売り物にしていないからだ。この映画は、特殊効果よりも真の人間ドラマを選び、戦争の別の顔を見せてくれる。
 この名画の眼目は細部にある。『誓いの休暇』で明らかにされるさまざまな細部は、戦争について多くのことを物語ってくれる。あなたは、片足になった兵士の陰鬱な顔を見る。彼は、妻のもとに帰るのを恐れているのだ。陽気だが疲れた兵士でいっぱいの列車が通る。戦争で孤児になった少女がいる。

 1942年に設定された、この一見ささやかな人間ドラマは、目に見える以上のものを含んでいる。それは大がかりな戦争映画よりも、悲劇の大きさと深さをよく示している。この映画にはハッピーエンドはない。
 主人公は、アリョーシャ・スクヴォルツォーフという名の通信兵。彼はたまたま2両のドイツ戦車を破壊し、その報酬として、彼は短い休暇を与えられる。アリョーシャは故郷の村に向かう――彼は母親を恋しがっている。
 若き兵士は、家に帰る途中であらゆる種類の人々に遭遇し、帰宅する前にほんの束の間の恋に落ちる。やっと帰郷した彼は、直ちに帰隊しなければならない。彼は最後にもう一度母親を抱きしめる。「僕はもう出かけなければ」と彼は言う。「行かないで!」と母は叫ぶ。おそらく息子が二度と戻ってこないことを感じつつ。

 『誓いの休暇』は、世界中の映画ファンから称賛され、ロンドン国際映画祭監督賞などを受賞し、アカデミー賞の最優秀脚本賞にノミネートされた。

3. 『僕の村は戦場だった』(原題は『イワンの子供時代』)(1962)

[子供の視点]

 名匠アンドレイ・タルコフスキーの長編第1作。繊細さと微妙なニュアンスに満ち、悲痛な戦争の瞬間と戦前の平和な暮らしが交錯する。
 物語は、ある少年をめぐって展開する。彼は、戦争で母親、妹を失い、父親は戦死した。復讐の念に燃える、わずか12歳のイワンは、文字通り「戦争の子」となった(イワン少年は、ニコライ・ブルリャーエフが演じる。彼はやがて歴史大作『アンドレイ・ルブリョフ』でスターとなる)。イワンは、自らパルチザン部隊に加わり、ソ連軍のために、危険な偵察任務を遂行しつつ、命を危険にさらす。
 『僕の村は戦場だった』は、白黒で撮影されており、驚くべき夢の断続的シーケンスと忘れ難いフラッシュバックを含んでいる。そして、子供の目を通して、第二次世界大戦の真に悲劇的、破壊的な一面を浮かび上がらせる。答えなき祈りとも言うべき、イワンのシュールな夢は、この少年と遠い幸せな過去をつなぐ唯一の架け橋だ。

 このタルコフスキーの名作は、ヴェネツィア国際映画祭サン・マルコ金獅子賞とサンフランシスコ国際映画祭ゴールデン・ゲート賞を受賞した。
 『僕の村は戦場だった』は、イングマール・ベルイマンとクシシュトフ・キェシロフスキを感動させ、当時巨大な影響を及ぼしていたフランスの哲学者、ジャン=ポール・サルトルは、この映画についてのエッセイまで書いている。しかしタルコフスキー自身は、この映画が気に入らず、「『僕の村は戦場だった』は、自分の『最初の独立した作品』として大切であるにすぎない」と言った。

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4. 『ありふれたファシズム』(1965)

[暴力の根源]

 これは、死、暴力、迫害、弾圧…という暴力の連鎖を掘り下げた、ソ連初のドキュメンタリーだ。『ありふれたファシズム』は、何よりもまず、ファシズムの恐怖とルーツに関する詳細な記録であり、善と悪の古典的な物語ではない。
 今も評価の高いミハイル・ロンム監督は、この映画でいわば「爆弾」を投げつけた。彼は、ドキュメンタリー映画で、ソ連の全体主義体制と第二次世界大戦中のナチス・ドイツの犯罪を暴露しつつ、二つの巨悪の類似点を描き出したからだ。
  『ありふれたファシズム』(ロシア語は「Obyknovenny faschizm」)は、ロンムが脚本を担当、マイヤ・トウロフスカヤ、ユーリー・ハニューチンが共同執筆した。ソ連の英雄的な戦争体験を讃える他の戦争映画とは異なり、ロンムはその戦慄すべき映画で、人間の絶望の範囲を押し広げて見せることを選んだ。

 このドキュメンタリーは、ナチスおよびヒトラーのアーカイブから構成され、不吉なイメージで溢れており、暴力を厳しく捉えている。ナチスのホロコーストは、600万のユダヤ人の生命を奪ったとされるが、ロムは音楽からアーカイブ映像まで、あらゆる聴覚的、視覚的手段を駆使して、独裁と堕落の根源を突き止めた。

5. 『祖国のために』(原題は『彼らは祖国のために戦った』)(1975)

[勝利の代償]

 セルゲイ・ボンダルチュークのこの壮大な映画は、その見事な芸術性と視覚面だけでなく、何よりもまず、その不気味なまでの真実性において際立っている。
 いわば大文字の「戦争」(War)を描き切った映画だ。そこには、すべてが――血、汗、感情、さらには罵言が(それまでソ連映画にはなかったものだ)――含まれている。これは偉大な映画であり、新たな地平を開いている。
 『祖国のために』は、ノーベル文学賞を受賞したミハイル・ショーロホフの同名の小説に基づいている。ボンダルチュークのこの映画は、人間の複雑さと友情の単純素朴さ、戦争の苦しみと機知とユーモアの力、生命への絶え間ない渇望と 死への恐れを描く。これはおそらく、第二次世界大戦の実像を初めて示したソ連映画で、第二次大戦に実際に参加した人々の視点からつくられている。

 1942年7月、ソ連兵は疲弊しつつも激戦を繰り広げ、スターリングラード近郊で膨大な損失を被っている。映画の筋は、ごく普通の兵士、彼らの友情、祖国愛、そして勝利の代償に焦点を当てる。
 セルゲイ・ボンダルチュークは、レフ・トルストイ原作の『戦争と平和』を製作した人物。その彼が、対独戦勝30年を記念してこの映画を撮った。映画に出演した俳優のほとんどは(ユーリー・ニクーリンやセルゲイ・ボンダルチュークを含めて)、かつて最前線で戦った兵士だ。これがまた映画に、心を打つ真実らしさを加えた。
 ソ連は、ナチスに対する勝利のために最大の犠牲を払った。戦勝は巨大な代償を強い、戦争中に少なくとも2700万人が死亡したとされる。しかし、1947~1964年の期間には、「大祖国戦争」(独ソ戦)の代償とその影響は、ソ連では公には議論されなかった。何百万、何千万人もの人々がナチズムへの勝利を生きて目にすることができなかった。

 彼らは、自分たちの死が、忍耐力、勇気、スタミナを発揮した末の、並外れた偉業であることさえ意識していなかった。『祖国のために』は、犠牲の大きさを多くの人がより深く理解する助けになった。

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