『炎628』はしばしば戦争映画史上最高の傑作と言われ、間違いなく世界で最も人気のあるソ連映画だ。この映画は第二次世界大戦の一部分を、ベラルーシの十代の少年の視点から描いたものである。『炎628』は劇中ずっと戦争の残酷さを憚ることなく見せつける。リアリズムを徹底したこの映画は、戦時中の人間の暗い所業ほど恐ろしいものはないということを教えてくれる。
この映画を見たことがないなら、絶対に見るべきだ(Russian Film Hubで『炎628』を見るにはこちら)。もし見たことがあっても、これらの9つの事実を知れば、映画がもっと面白くなるだろう。だが気を付けてほしい。最後の事実はネタバレだ。
『炎628』の全場面を通して、実弾が使用されている。時には役者の頭上を弾がかすめる。恐怖の表情は作りものではない。機関銃で一頭の牛が倒れるのも、実際に起こったことだ。
悪夢のような爆撃シーンの後、主人公のフローリャは聴力を失う。映画を見ていると、音がなくなっていき、かすかな耳鳴りが聞こえてくるのが分かる。おまけに、以後は音響の質が下がり、視聴者はスクリーン上の恐怖の世界に引きずり込まれる。
フローリャを演じた十代の役者アレクセイ・クラフチェンコは、撮影中実際に地獄を見ることになった。エレム・クリモフ監督は、9ヶ月をかけ、時系列に沿って『炎628』を撮影した。映画の最初と最後のクラフチェンコの表情を見れば、彼が何を経験してきたかが分かる。
クラフチェンコは若く健康な少年として『炎628』の撮影に臨んだ。だが映画の終盤には、彼はやつれ、怒りに満ちてぼろぼろになり、紙は灰色に、目はノイローゼのようで、皺は40代の男のようになっている。
少年を変貌させた高度な特殊メイクは非常にリアルで、クラフチェンコの髪が実際に灰色になってしまったのではいう噂が出たほどだった。実際には、彼の髪は特殊な「銀色メイク」と実際の銀の薄い膜を使って染められたのだった。髪の色を元に戻すのは難しく、クラフチェンコは撮影が終わった後もしばらく灰色の髪のまま暮らさなければならなかった。
さらに、映画の後半には食事制限がされ、クラフチェンコは本当に骨と皮だけになってしまった。
エレム・クリモフ監督は、劇中の最も暴力的な場面の前に心理療法士を呼び、クラフチェンコに催眠をかけさせようとした。この恐ろしい経験によって若い心が荒んでしまうことを案じたのだ。クリモフがインタビューで話しているように(YouTubeで視聴可能)、「クラフチェンコの演技は悲しい結末を招きかねなかった。彼は精神病棟に入院することになりかねなかった」。
結局、クラフチェンコは自律性のトレーニングは受けたが、催眠にかかることは拒否した。彼はあらゆる残酷なシーンを直に体験することになった。
『炎628』は完全に自然光だけで撮影された。このため、森などのもともと暗い場所でのシーンは、通常より高感度のフィルムで撮影されている。結果、映像は暗くざらざらしたものになった。この質感が、映画の暗い主題とよく合っている。
初め、映画は「ヒトラーを殺せ」というタイトルになるはずだった。しかし、これは当時不適切と考えられた。代わりに、クリモフは『ヨハネによる黙示録』の第6章の一部を引用して、「来たりて見よ」と名付けることにした(『炎628』の原題 «Иди и смотри» は「来たりて見よ」の意)。聖書の不穏な一節は、次の文で終わる。「御怒りの大いなる日が、すでにきたのだ。だれが、その前に立つことができようか」(ヨハネによる黙示録、第6章17節)。
撮影中のエレム・クリモフ監督
Evgeny Koktysh/Sputnikスターリングラードで生まれ育ったエレム・クリモフは、少年の頃に疎開した。当時は第二次世界大戦中の有名な戦闘が展開していた。彼はインタビューで、自身の戦時中の経験が『炎628』に影響を与えたことを認めている。
しかも、彼と共同で脚本を書いたアレシ・アダモヴィチは、大戦中に劇中のフローリャと変わらないような体験をしている。戦時中、アダモヴィチはフローリャと同じ年齢だった。さらに、彼とその家族はベラルーシでドイツ軍を相手にパルチザン活動を展開していた。
大戦中の戦没者数が最も多かったのはソ連だということは多くの人が知っている。しかし、ソ連の中で最悪の被害を受けたのがベラルーシだということを皆が知っているわけではない。ロシアの歴史家ヴァジム・エルリクマンの著書 «Потери народонаселения в XX веке» (「20世紀の国民の損害」)によれば、ベラルーシは大戦中全人口の4分の1を失った。しかも、犠牲者のほとんどは非戦闘員だった。ベラルーシの戦没者数の総計は、200万人以上と報告されている。
『炎628』を見る時は、この数字を念頭に置いてほしい。映画で描かれているのは、一度きりの事件ではない。ベラルーシで数年間に何千回と繰り返されてきたことなのだ。映画のラスト、ソ連のパルチザン集団が行進する場面では、彼らは勝利や敗北のうちに退場するではない。一つの悪夢からまた別の悪夢へと歩を進めているのだ。
『炎628』のショッキングな場面の中で、最も信じ難いのが、恐ろしい教会の炎上シーンだ。ナチス親衛隊のある旅団が、現地の内通者の協力で、村民全員を教会に閉じ込めて建物ごと焼き殺すのだ。
このシーンがどれほど恐ろしくても、脚色や誇張は一切ない。東部戦線でのナチスによるユダヤ人やスラヴ人に対するこのような残虐な行為は詳細に記録されている。映画の最後のインタータイトルが語るように、「ベラルーシの628の村とその住民が燃やされ、灰燼に帰した」。
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