タタール共和国首都、カザン。街のメインストリートであるバウマン通りを歩いていると、少し足を前に進める毎に、色とりどりの音が聞こえてくる。歌うたい、ダンサー、絵描き、バイオリニスト。道行く人々を楽しませる個性豊かなストリートパフォーマー達。気に入ったパフォーマンスに惜しみなくチップを落としていく人々。この場所からは、世界を代表するようなアーティストが次々と生まれていくことだろう。
彼らの間にスペースを見つけ、ギターを取り出し、チューニングを合わせ、行き交う人々に向かって声を放ってみる。一曲歌い終えたところで、一人のロシア人の男性が話しかけてきた。
「僕も一緒に演奏していいかい?」
パーカッションが得意だというロマンさんは、仲間たちとよくこのストリートで演奏しているらしい。俺が歌う日本語の歌に合わせ、軽快にリズムを刻んでいくロマンさん。現地のロシア人と、見慣れない東洋人が一緒に演奏している姿を見て、人々はいかにも興味深そうな視線を送ってくる。
「僕に踊らせてくれないか?」
途中から少年が踊り始め、三人がかりでのパフォーマンスに。それを見た女子大生の二人組も、テンションが上がったのか楽しそうに踊り出した。
ここの人々は、心から音楽を愛しているのだろう。夜のストリートを歩いてみると、至るところに音楽を楽しむ人々の姿があった。いや、音楽に留まらず、ダンス、絵、その他のパフォーマンスも全て。目の前の楽しいことに身を委ねる心のゆとりを持っているのだろう。
バウマン通りで歌っていると、数人の学生が「日本語を勉強している!」と嬉しそうに声をかけてくれ、一緒になって日本語の歌を口ずさんでくれた。どうやらここカザンには、日本に興味を持ち、日本語を学んでいる人が数多くいるようだ。
一人の学生に紹介され、カザン連邦大学という現地の大学で、日本語を学んでいる学生のためのイベントに参加させてもらうことになった。日本の文化や風習についてのワークショップやお菓子作り、囲碁、着物などの体験を行うらしい。
実際に、日本ついて目を輝かせながら学んでいる学生たちの姿を見て、心から嬉しく思うと同時に、自分が日本人であることに誇りを覚えた。シベリアの大地をゆっくりと、長い時間をかけて横断し、日本から遠く離れた異国の地に来たという実感があるからこそ、自己の日本人としてのアイデンティティを強く再認識させられた。
日本とロシア。近いようで、遠い国。お互い、訪れるためにはビザを取得しなければならないため、金銭的にも心理的にも、観光のハードルは低くない。今後、両国の関係がよりよいものになるよう、願わんばかりだ。
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