歌いながらロシアを旅する和歌山県の音楽家:第一章「旅立ち」~ウラジオストク~

Yuri Maltsev撮影/Reuters
 二十歳の時、言語を超えて人と人を繋ぐ音楽の偉大さを知った。色んな国に行って、人々と会って、話をして。音楽を通じて世界中の人と仲良くなれたら最高だと思った。

 日本から旅を始め、できるだけ陸路で進んで行けば、今自分が生きている地球の壮大さを少しでも実感できるんじゃないか。あの山を越えれば、あの町があって。そんな風に、世界が繋がっているということを実感できるんじゃないか。だから俺は、世界最長の鉄道、シベリア鉄道で旅をするため、ロシア極東の地、ウラジオストクを始まりの地に選んだ。

 ウラジオストク。

 日本人にとってあまり聞き覚えの無い都市の名前だが、成田空港から直行便でわずか二時間と少し。国内を旅行するのと同じような感覚で辿り着けてしまう。だが、実際にその町に着いて少し歩くだけで、自分が、アジアではないどこか遠く離れた異国の地に来たんだという、ありありとした想念が湧きあがってきた。

 レンガ造りの施設や、西欧風の百貨店、路面電車。顔立ちの整った金髪の女性や、立派な髭を生やした背の高い男性が、聞き慣れない言葉を使って話をしている。

 人々は生きる。生きていく。

 日本からほんの少し飛び出してみるだけで、全く違う世界があって、全く違う顔つきの人々が、全く違う種類の言語を話している。なんて面白いんだろう。もっと広い世界をこの目で見てみたい。

 町を一望できる展望台に上り、心地よい風に身を委ねながら、空を眺めた。ほんの少し前まで、新宿の駅をせわしく行き交う人々の間を縫って歩いていたのが嘘のようだ。故郷、日本は空の向こうすぐそこだ。だがこれからは、この空から遠ざかるように旅をしていくことになる。どんな出会いが待っているんだろう。

 夕方の海岸沿いは、多くの若者や家族連れの姿で賑わっていた。天気は快晴。まだ少し肌寒いが、海と空の清々しい青さがそれを忘れさせてくれる。

 ふと、聴き慣れたメロディーが鼓膜の中に飛び込んできた。音のする方に近づいてみると、トランペットやサクソフォンを抱えた音楽家たちが、ビートルズの名曲「Yesterday」を奏でているではないか。遠い海の向こう、ヨーロッパの島国で生まれた一つの歌が、国境を超え普遍的なものとして存在している。やはり、音楽の力は偉大だ。

 音楽家たちと少し離れ、ストリートの端っこに立ち、日本から抱えてきたギターをひっさげ、恐る恐る歌を歌ってみる。心配は無用だった。リズムに乗って笑いかけてくれる人。立ち止まって一緒に歌ってくれる人。日本に行ったことがあると嬉しそうに話しかけてくれる人。

 音楽と共に世界を巡る。長年の夢が、旅が、ここから始まるんだ。

 夜。地元の人々に紛れ、一人、シベリア鉄道に乗り込んだ。心地よい列車の振動が、期待と不安とで揺れ動く複雑な心を鎮めてくれる。

 さあ、長い長い旅の始まりだ。

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