歌いながらロシアを旅する和歌山県の音楽家:第二章「発車」~シベリア鉄道~

Ilya Naymushin撮影/Reuters
 目が覚めるとそこは、雪国だった。窓の外を眺めてみると、荒涼とした大地がどこまでも広がっている。世界の大きさをまじまじと見せつけられているかのようだ。

 列車は、その巨体をガタゴトと震わせながら、ユーラシア大陸を奥へ奥へと進んで行く。ウラジオストクから首都モスクワを結ぶ路線の全長は9288km。なんと地球四分の一周分の距離に相当するらしい。

 列車は数時間おきに停車するが、小さな駅だとものの二分程度。大きな駅だと最大で四十分程度停車するため、人々は列車を降りる。ある人は外の空気を吸い、ある人はタバコをふかしながら談笑し、ある人は売店で食べ物や水を買う。長くて一週間乗り続けることになる列車の旅。外の風は疲れた人々の心を癒してくれる。

 停車するたびに外に出ていると、同じ車両に乗っている人とは顔見知りのような関係になる。駅に着くたびに乗客が入れ替わり、また、新しい関係性が生まれていく。乗客に英語を話せる人はほとんどいないようで、会話という会話にはならないが、笑顔を見せ挨拶をする時間は楽しい。

 「おい!外に出るぜ!!!」と毎回、ロシア人やウズベキスタン人の皆が誘ってくれる。彼らの席に呼ばれ、「食べろ食べろ!」とパンやソーセージを頂くことに。お酒も注いでくれた。

 話し声、笑い声、足音、寝息、歌声。耳を澄ませば聞こえてくるいくつもの音。まるで、乗客全員が一つの大きなリビングを共有しているかのようだ。そこには。子どもが走り回って騒いでも、怒鳴りつけるような大人は誰一人としていない。誰かが歌い始めても、文句を言ったり止めようとする人は誰一人としていない。何とも言えない居心地の良さがこのシベリア鉄道三等車にはある。

 「あのギターヒロのなの?ちょっと弾いてもいい?」ある女性がそう言って、俺が持っていたギターを抱え歌い出した。それに合わせ、一緒になって歌い始める周りの乗客たち。

 なんて素晴らしいんだろう。この雰囲気が生み出されるのは果たして、ロシア人の国民性によるものなのだろうか。それともシベリア鉄道だからこそなのだろうか。

 女性が歌い終えるのに合わせ、拍手を送る人々。

 「ヒロも歌ってよ!」

 ここはもはや車両ではない。立派なライブスペースだ。歌うことに対する何のためらいもない。全力で楽しませるだけだ。誰でも口ずさめる簡単なメロディを奏で、皆も一緒に歌おうと煽ってみる。ギターの伴奏に合わせ、人々の歌声が車両の中に響いていく。

 いい夜だった。

 ありがとう皆。ありがとうシベリア鉄道。

 人々の夢を乗せた列車は、今夜もシベリアの大地を駆け抜けて行く。

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