露日の駆け引きの成果は?

ロイター通信
 近く行われる日露首脳会談は、クリル諸島の領有権問題において実質的な妥協のきっかけとなる可能性を秘めているが、これは多数ある手順の最初の一歩であるに過ぎないと、日露関係の専門家が論じている。

 12月中旬に日露首脳会談が行われるが、そこでは70年間にわたって続く南クリル諸島の領有権問題と、それに関連する経済協力案に話題が及ぶはずだ。この会談はロシアと日本のメディアにより歴史的な格好の機会として認識されており、両国にとってこの「和平の駆け引き」にかけられた重要度はかなりのものだ。実利的な領有権に関する交渉が本格化した場合には、サミット後の長期的なコミットメントと意志力を維持できるかが主な課題となろう。

 

ロシアを特別に注視

 安倍首相のロシアに対する積極性 (または過剰な積極性) と実利的な協調姿勢は、これまでにない規模と野望のものだが、これは他の西側諸国の首脳だけでなく、過去の日本の首相と比べてもきわめて対照的だ。首相は二国間協力の取引の“パイプライン”に一貫して相互に利益をもたらす具体的なプロジェクトを提示してきた。それには日本のメディアに対する適切な広報活動が伴ったが、これは10年や20年前には考えられなかったことである。安倍首相はまた、世耕弘成氏を経済産業大臣に加え、初めて創設されたロシア経済分野協力担当大臣に任命することで、自身の経済政策の魅力をさらにアピールして攻勢をかけた。 

 一方のロシア側では、過去の和解の試みとは対照的に、複数の政府高官が優先度の高い詳細な経済協力案の策定に割り当てられた。イーゴリ・シュワロフ第一副首相、デニス・マントゥロフ産業貿易大臣、そして最近まで経済開発相を務め、逮捕により日本側に懸念が生じたものの、二国間関係にはほとんど影響を及ぼしていないと思われるアレクセイ・ウリュカエフ氏だ。同時に、安倍首相と外交政策を担当する谷内正太郎内閣特別顧問は、ニコライ・パトルシェフ連邦安全保障会議書記、セルゲイ・ナルイシキン連邦議会下院議長(当時)、およびワレンチナ・マトヴィエンコ連邦議会上院議長などのロシア政権の重要人物たちと、戦略的なコミュニケーションのための他のパイプを維持してきた。

 とはいうものの、日本がロシアとの関係を改善させ始めたのは民主党の野田佳彦首相 (当時) の政権下のことだったことに留意する必要があろう。それは当時首相だったプーチン氏が「引き分け」、「始め」などの柔道用語を発して自らの日本語の知識を披露していた頃のことだ。

 

60年におよぶ膠着状態

 2日にわたる会談の初日は山口県長門で行われ、2日目には、1956年の日ソ共同宣言が両国の議会で批准された60周年を記念して、2回目の会談が東京で行われる (それが意図的か否かは定かでない)。プーチン大統領とセルゲイ・ラブロフ外相は、南クリル諸島の問題解決に対するロシアの姿勢がこの文書に基づいていることは今でも変わらないと再度強調している。

 安倍首相は新たなアプローチを提案しているものの、ロシア側のアプローチにとっての1956年の日ソ共同宣言の重要性も認識している。そのため、1993年の東京宣言から逸脱する可能性、従って過去の多数の首相の非妥協的態度とは一線を画し、妥協を受け入れる可能性も示唆している。 そうすることにより、安倍首相はイニシアティブを発揮したり海外の首脳との緊密な個人的関係を利用できる能力を実証しただけでなく、これまでの二国間の対話に欠けていた断固たる政治的意思もアピールした。

 

ものをいうのは政治ではなく経済

 とはいうものの、これまでプーチン大統領も、日本との領土問題の解決を目指し、日本の指導者との信頼関係を構築することに対し意欲を示してきた。それと同時に、これらの島々はロシアが実効支配しているため、長期的には時間のさらなる経過によって不利になるのは日本なのである。この件で何らかの進展を達成できる可能性がもっとも高いのは安倍首相であるとも言える (同首相はおそらく2021年までの任期を務めるため、この状況はしばらくの間続きそうだ)。それは、安倍氏の後継者とその支持者たちが国内の経済問題の対処により優先的に取り組み、それによりクリル列島をめぐる問題が後回しになる可能性があるためである。

 安倍氏が国民を説得するのは困難か? 極東ロシアで日本の事業体が資金提供したり支援したりすると予想されるプロジェクトの大多数は、安倍内閣が一貫して推進してきた海外事業を手がける日本の投資家と商社の利益となるであろうことは必然である。さらに、日本国民は原子力発電を再生するという安倍氏の計画に強く反対しているため、ロシアからの石炭、液化天然ガス (LNG)、さらには電気の供給を強化することによりエネルギー取引関係を強化することが望ましい。国際安全保障の面では、日本にとって最も懸念となるのはロシアではなく北朝鮮と中国である。

 

米国の関係

 次の問題は、誰も口にしたくないものの重要な問題だ。 ドナルド・トランプ氏の勝利は、日露の和平をめぐる交渉にどのような影響をもたらすだろうか? 一見、選挙活動中のトランプ氏のレトリックは介入的アプローチを緩和するよう提案しているように見受けられた。中国の台頭を抑制し均衡をもたらすのであれば、トランプ氏と次期国家安全保障担当補佐官に任命されたマイク・フリン氏が日露関係の改善を妨げることはなさそうだ。一方で、選挙活動のレトリックが大統領就任後に一変する可能性もある。それがどうなるかは、誰が次期の国務長官を務めるかだけでなく、アメリカ側で誰が日米同盟を統括するかによっても大きく左右されることになる。 

 安倍氏のロシアに対する積極的な働きかけは、部分的にはヒラリー・クリントン氏の勝利を見込んでのことだったと見ている人もいる。というのは、ヒラリー氏が勝利していれば、ロシアに対する制裁と孤立化がさらに徹底され、同国の交渉上の優位が損なわれると考えることができたからである。実際にはトランプ氏がホワイトハウスの主となることで、そのような日和見主義的な思惑は的外れとなる可能性がある。しかし、ロシアとの関係改善に対する安倍首相の取り組みは実際には2013年には着手されていたため、この政策はクリミア併合による制裁よりも前に始まったことなのである。 

 

予期不可能な結果

 上述したような不確実性と、秘密裏に微妙な交渉を行うという安倍首相の意向を鑑みると、サミットが実際に行われるまでは具体的な詳細情報が明るみに出ることはほとんどなさそうだ。それに、現実的に振る舞い、期待をコントロールする方が両当事者のためにもなるだろう。

 12月のサミットは日露間の実質的な歩み寄りが始まるきっかけとなる可能性があるが、これはあくまで長い道のりの最初の一歩でしかない。しかし、これまでに両国がこれほど状況打開に近づいたことはかつてなかった。

 

著者ニコライ・ムラシキン氏は、英国ケンブリッジ大学セント・キャサリンズ・カレッジとアジア・中東学研究所に所属する博士課程の大学院生。氏は日本、カザフスタン、ウズベキスタンおよびアゼルバイジャンの研究者が参加するプロジェクトに積極的に参画している。

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