ロシアの追善のもてなしにはどんな料理が作られるのか?

 亡くなった人に敬意を表する追善の儀式というロシアの伝統はスラヴの歴史の中で始まったものである。この追善の儀式で、人々は故人の良い行いを思い起こし、魂が静かに眠りにつくよう祈る。そしてこの行事には追善のもてなしがつきものである。

 正教の伝統に従った最初の追善のもてなしは、故人を埋葬した日に行われ、式には葬儀に出席した人全員が招かれる。その後、死後9日目と40日目にも追善式が執り行われる。

 亡くなってから1年後の追善式は一般的に、家族だけで行われる。また毎年、命日と誕生日にも同じような行事が行われる。また信者たちは、亡くなった人の両親や親族のために、精進期の前の土曜日に「両親の土曜日」という行事を執り行う。

 埋葬の日の追善式は、葬儀の最後に行われるもので、魂がこの世からあの世に移るための重要な段階と考えられている。一般的に、キリストの復活に敬意を表し、亡くなった日から3日目に行われる。 

追善のもてなしはどのように準備されるのか

 追善のもてなしは、落ち着いた色合いの普通の食器(儀式用ではなく)にシンプルな食べ物を用意する。テーブルクロスはモノトーンのものが使われ、ときに黒いリボンがかけられることもある。

 追善のもてなしのテーブルには、家の主人が中心に座り、その左右に親戚たちが、亡くなった人との関係と年齢に応じて座る。いつも亡くなった人が座っていた場所は、空けておき、その席にはお皿とスプーン・フォークなどを置き、食べ物も少し乗せる。

 ランプの前か亡くなった人の写真の前に水の入ったコップを置き、パン一切れと塩を置く。この水やパンは、40日間、毎日替える伝統があり、40日目のパニヒダ(永眠者のために行われる奉神礼)の後、水は捨て、パンは小鳥に与える。水の代わりにウォトカ(教会はこれを禁じているが)を入れることもあるが、この場合も40日間入れておく。

追善式にロシア人は何を作るのか? 

 追善のもてなしは、参列者全員がパニヒダの際に浄められたクチヤ を食べるところから始まる。これは雑穀、米あるいは小麦で作られ、ハチミツとレーズンを加えたカーシャ(粥)である。クチヤの穀物は、復活のシンボルで、ハチミツとレーズンは神の王国の信心深い人々が楽しむ甘い食べ物である。

追善式に出されているクチヤ

 かつては、追善式にフォークは用意されなかった。というのも、追善のもてなしに出される料理は、フォークを必要としなかったからである。またクチヤをフォークで食べると、亡くなった人の魂を傷つけるかもしれないと考えられた。しかし現在はメニューも幅広くなり、フォークにまつわる伝統はそこまで厳格には守られていない。

 追善のもてなし料理といえば、ブリヌィとされている。最初のブリヌィは死者のために出窓に置き、残りを追悼しに訪れた人々にふるまう。スラヴ人たちは、ブリヌィは太陽と復活のシンボルであり、人間と天国と死後の世界とのつながりを映すものだと信じていたのである。

ハチミツとブリヌィ

 ブリヌィはバターを塗るだけのこともあれば、家の裕福さや趣味によって、ハチミツやサワークリーム、イクラ、サーモンなどを乗せることもある。しかし、追善式は控えめな食事会であることから、ブリヌィは1人1〜2枚の計算で用意される。

ロシア人は追善のもてなしでウォトカを飲むのか?

 教会は追善のもてなしで、アルコール度数の強い飲み物を飲むことを歓迎していない。ウォトカを飲んだ量が多ければ多いほど、あの世での魂の試練が長くなると言われている。しかし、このような宗教上の聖なる意味のほかに、実際的な理由もある。追善式は、亡くなった人を静かに思い出すための行事であり、熱く語り合う場ではないのである。 

 しかし、にもかかわらず、ロシアでは、ウォトカやコニャックで永眠者を追善することはかなりよくある。食事の最初または、クチヤの前、あるいはクチヤが用意されないときはブリヌィの前に飲む。しかし強いお酒を飲むのはこれで終わることが多い。テーブルにはコンポート、クワス、または赤ワインが並べられる。

シチーにカーシャがロシアの食べ物 

 クチヤとブリヌィの後にはシンプルな日常の料理が出される。第一の皿には、新鮮なキャベツかザワークラウトで作るクラシカルなロシアのシチー(肉を入れるかどうかはその日が精進期に当たっているかどうかによる)が作られる。南方の地域では、ボルシチが作られることもある。

シチー

 また、蓋で覆われたおかず系のピローグも焼かれる。具は肉、キャベツ、玉ねぎ、じゃがいも、魚、キノコなどである。甘いピローグは結婚式や喜ばしい行事を連想させるため、避けられる。

 メインディッシュはじゃがいものピュレーまたはそばの実に牛肉か鶏肉が出される。それに新鮮な野菜か塩漬けの野菜、野菜のサラダが添えられる。

 ロシア料理史家のヴィリアム・ポフリョプキンによれば、追善式の最後にはキセーリが出される。キセーリは「酸味があって、植物性のものでなければならない。つまりクランベリー、コケモモ、あるいはリンゴ、グーズベリー、ツルコケモモのキセーリは良いが、乳製品であってはならない」とある。

キセーリ

 ポフリョプキンは、キセーリは重い小麦粉料理や肉料理の消化を助けるからだと説明している。またキセーリの代わりに、フレッシュなベリーまたはフルーツ、ドライフルーツのコンポートが用意されることもある。

 食事が終わるときには、集まった人全員にキャンディかクッキーが配られる。家に帰って、故人を思い出してもらうためである。

 追善式が精進期に当たった場合は、肉や動物性由来の食品を排除する。テーブルには、食事を始めるためのクチヤとブリヌィが置かれ、その後、きのこのシチー やそばの実と野菜、キャベツのピローグ、レーズンかアプリコット入りのパンなどの精進料理が並ぶ。

「ロシア・ビヨンド」がLineで登場!是非ご購読ください!

もっと読む:

このウェブサイトはクッキーを使用している。詳細は こちらを クリックしてください。

クッキーを受け入れる