日本のアニメに描かれるロシア人

Mitsue Yamazaki/Doga Kobo, 2019
 日本のアニメで描かれるロシアの登場人物は長い間、実際とは異なるステレオタイプ(とはいえ、西側諸国の人々が抱くステレオタイプとは違っているが)に基づくものであった。しかし、ここ20年は、紋切り型のロシアのイメージを超えたものになってきている。

 謎の国ロシアは一風変わったストーリーや派手な画風、風刺的作風を特徴とする日本のアニメの作家、監督、脚本家たちにとって、ぴったりの研究ネタである。

 西側の人々にとってロシア人は、厳格で、ウォッカとボルシチが大好きで、寒さに強いというイメージである。では、日本のアニメの中で、ロシアのルーツを持つ登場人物は一体どのように描かれているのだろうか?

ヒーローとしてのロシア 

 アニメの中に登場するロシアの登場人物のイメージの真髄といえば、国擬人化歴史コメディ漫画「Axis Powers ヘタリア」(2009)でロシアとして描かれるイワン・ブラギンスキーだろう。シリーズアニメの中では第二次世界大戦時の歴史的・政治的出来事が比喩的に描かれている。主な登場人物は枢軸国(日本、ドイツ、イタリア)と連合国(ロシア、アメリカ、イギリス、フランス、中国)を擬人化したもので、それぞれの国が個別のキャラクターとして描かれている。

イワン・ブラギンスキー

 この中のロシアは善良で、明るい人物で、連合国の中でもっとも背が高い。彼は、毎年やってくる酷寒を人格化した冬将軍に怒りを覚えている。にもかかわらず、この恐ろしい将軍はブラギンスキーを一度ならず、フランスなど敵からの攻撃から救う。ロシアは友好的な性格で、連合国たちと再び会うのを楽しみにしているが、激しく、果てしない状況のため精神的に病んでいる。ロシアにはウクライナとベラルーシという2人の姉妹がいる。しかし、ウクライナはヨーロッパの友人のために兄弟を見捨て、またベラルーシは偏執狂的に自身との結婚を望んでいる。他の国々―とりわけラトビア、リトアニア、エストニアはロシアを恐れている。ブラギンスキーはいつの日か、世界のすべての国がロシアと一つの国になると信じている。

歴史的人物 

 日本アニメには有名な歴史的人物も登場する。スターリン、ラスプーチン、プーチンなどである。しかし、そのほとんどは端役である。アニメ映画「ルパン三世」(1978年)で、ルパンは不死の人物マモーと出会う。マモーはルパンに自らの人生について語るのだが、その中で多くの歴史的人物と出会い、歴史の大事件を目の当たりにしたと話す。そして彼の話が大スクリーンに描かれるのだが、そこではスターリンやカール・マルクス、レーニンなどの姿が現れる。

 最後の皇帝一家の友人だった怪僧グリゴーリー・ラスプーチンも、同じアニメシリーズの別の作品で、敵役として登場するラスプーチンの子孫たちのロールモデルとして描かれている。「ルパン三世、ロシアより愛を込めて」(1992年)に描かれるラスプーチンは祖父にそっくりで、人々の頭の中を読み、未来を予言する。これにより、彼は世界中に多くの信奉者を持っていて、有名な政治家であるゴルバチョフやジョージ・ブッシュさえもが彼に助けを求める。若きラスプーチンはニコライ2世が外国に逃亡したときに残していったという金を奪おうとする(もちろん、これらのエピソードは現実とはまったく異なる)。クライアントやその他の登場人物と交流するときに、彼らの口や鼻、耳に指を入れるという奇妙な癖をもっている。伝統的な悪党と同じように、小さなシベリアのコサック村巨大なゴシック様式の城に住んでいる(言うまでもなく、ロシアの田舎にはゴシック様式はもちろん、いつの時代にも城などない)。

 一方、アニメ「禁断の黙示録 クリスタル・トライアングル」(1987年)に登場する考古学者、神代耕一郎助教授は信じられないような力を与えてくれる文化的人工物を発見するのだが、この考古学者を邪魔するのがKGBにいるラスプーチンの孫である。彼は対戦車擲弾を投げるのが好きで、またお祝いのときやドラマティックな瞬間には祖父に向かってブロークンなロシア語で話しかける。

 アニメ「ダンベル何キロ持てる?」(2019)に登場するロシア人留学生ジーナ・ボイドはクラスの女子たちにプーチンを紹介する。プーチンは半裸で、筋肉隆々、雪山をバックに獰猛なクマを抱きしめている。そしてジーナは大統領の言葉を引用して、「我々の偉大な指導者であるプーチン同志が言うには、とにかく全力で努力しなければならない!」と言う。実際には、少なくとも公にプーチン大統領がそのような言葉を口にしたことはないのだが。

 「幕末のスパシーボ」(1997)で描かれているのは、露日史における歴史的に重要な事件である露日初の外交条約である1855年の下田条約の締結。この条約のおかげでロシア帝国と日本との貿易関係が打ち立てられた。全体的に真実の歴史が描かれているものの、ここでも「ロシア的」ステレオタイプが出てくる。艦船「ディアナ」号のロシア人乗組員たちはウォッカを飲み、カリンカを踊る。しかし、ロシア人は優しく、友好的な人々として描かれ、ロシア大使のエヴフィーミー・プチャーチン提督は賢明な海軍司令官兼外交官として描かれている。

エヴフィーミー・プチャーチン提督

 日本のアニメにはロシア人作家も登場する。「文豪ストレイドッグス」(2019)では超能力を持ち、ビジネスや正義の確立にその力を発揮する人々が描かれている。ストーリーの軸となっているのは、犯罪組織に対抗し、犯罪を調査する「武装探偵社」の物語。登場人物のほとんどに有名な作家や詩人の名前が付けられている。ロシア人作家フョードル・ドストエフスキーという名の登場人物は地下組織「死の家の鼠」(小説「死の家の記録」に由来)の頭目で、「罪と罰」という異能力を持っている。この「罪と罰」の正体ははっきりしないが、このアニメのファンたちは、ドストエフスキーに触れた人物は死ぬということではないかと推測している。人間の罪深さについて考察し、強い宗教心を持っている。

フョードル・ドストエフスキー

ソ連のイメージ

 ソ連という国もアニメの舞台として度々登場する。「ルパン三世」(1977–1981年)では、五右ェ門がルパンの冒険について話す。第58話で、彼はロシア人バレリーナのモニカからダイアモンドを盗もうとする。ソ連に到着した主人公はあちこちに警察が歩いていて、資本主義諸国からやってきたスパイを銃殺しようとする国を目にする。

 またソ連は人類史において決定的な役割を果たした政治力としても描かれている。アニメ「蒼き流星 SPT レイズナー」(1985年)ではソ連とアメリカの冷戦が続いている。人類は銀河を研究し、月と火星にすでに基地を建設した。しかし、異星人のグラドス人はこれが気に入らない。そして何も失わずに地球を征服するために2つの大国を戦わせることにする。

 日本のアニメには全体主義ソ連の陰鬱なイメージだけでなく、ソ連の人々の善良さも描かれている。アニメ「トップをねらえ!」(1988–1989年)は、遠い宇宙から飛んできた虫のような異星人と人類との戦いを描いた作品だが、その中の主な登場人物の一人が、ロシアの女性パイロット、ユング・フロイト。彼女は槌と鎌のマークが入った軍事ロボットを操縦している。月面の植民地で育ち、感情の起伏が激しく、そのために他の女性パイロットたちといつも争いごとを起こしている。しかし時とともに彼女たちと親しくなり、次第に親友になっていく。

ユング・フロイト

ソ連邦崩壊後:KGB出身者とマフィア 

 1990年代以降、マンガやアニメにはソ連崩壊後に国外に亡命し、外国で新たな職に就いたというロシア人が登場するようになる。中でも多いのがソ連の情報機関で秘密警察のKGB、あるいは特務機関で勤務していたという人物、あるいはアフガニスタン戦争の退役軍人である。

 1990年代のマンガ「BANANA FISH」の映画版(2019)に登場する「ブランカ」ことセルゲイ・ヴァリシコフは、元KGBの中佐で、妻を殺害されたことから、逃亡したという設定。そしてその結果、ヴァリシコフはプロの殺し屋になり、ベラルーシ出身の妻にちなんだニックネーム「ブランカ」を名乗るようになる。ヴァリシコフはアニメの主人公アッシュ・リンクスの師匠となり、知っていることをすべて教える。

セルゲイ・ヴァリシコフ

 アニメ「ガンスミスキャッツ」(1995年)で描かれているのはナターシャ・ロジオノワ。ソ連のスペツナズの元大尉で、ソ連邦崩壊後、「血の刃」というコードネームを持つロシアマフィアの戦闘員になった。ロジオノワは戦闘員のときから、麻薬の売買に関係する不法ビジネスに携わっていた。仕事の対価をヘロインで受け取り、それをロシアで売っている。

ナターシャ・ロジオノワ

 似たような人物として登場するのが「Black Lagoon」(2006年)に登場する「バラライカ」ことソフィヤ・パヴロヴナ・イリノフスカヤである。父親は身に覚えのない犯罪に対する刑罰を避けようとしてアメリカに逃亡する。イリノフスカヤはソ連軍の少将だった祖父に育てられた。少し大きくなってから、ヴラジレナ(もう一つのニックネームで、ウラジーミル・イリイチ・レーニンを省略したもの)はロシア空挺軍に入隊し、アフガニスタン戦争に参戦し、大尉まで上りつめるが、後に降格され、解雇される。1992年に自分が元いた部隊の戦闘員から成るマフィア組織「ホテル・モスクワ」が作られた。ヒロインのあだ名である「バラライカ」はアフガニスタン戦争時につけられたもの。兵士たちの俗語で、ドラグノフ狙撃銃を意味する。

ソフィヤ・パヴロヴナ・イリノフスカヤ

ちょっと変わったロシア人

 アニメにはロシア人的な外見ではないロシア人が登場する。「デュラララ!!」(2010年)に出てくるアメリカからの亡命者サイモン・ブレジネフは褐色の肌をしている。本名がセミョーンであるということは最初のシリーズで明かされる。ボルシチ寿司など、変わったメニューを提供するロシアの寿司レストランのプロモーターとして働いている。

サイモン・ブレジネフ

 エロさと魔術と正教会をミックスさせたまったく新しいプロジェクトというものもある。そんな例の一つとして挙げられるのが「聖痕のクェイサー」(2010年)。正教会で密かに育てられてきた練金士(クウェイサー)は元素を操ることができる。クウェイサーらの能力は若き女性の聖乳(ソーマ)によって活性化する。練金士たちの目的は、キリストが行った奇蹟の秘密や死後の復活の秘法が秘めているといわれる聖像『サルイ・スーの生神女』を見つけることである。アニメの主人公はサーシャ・ヘル、13歳。つらい幼年時代を過ごしたため、誰のことも信じられない。少年サーシャは真面目で几帳面で、周りの人々はそんな彼の性格をシベリアの酷寒に例える。鉄の元素を操ることができる。会話の中にロシア語を散りばめているが、アクセントがあり、その言葉はちょっとおかしく、理解しづらい。 

ステレオタイプを払拭する

 ステレオタイプ的なロシアのキャラクターは最近のアニメではほとんど見かけなくなったが、そのようなロシア的キャラクターが出てくるのは「ユーリ!!! on ICE」(2016)である。これは若いフィギュアスケーター勝生勇利とそのトレーナーで、フィギュアスケートのグランプリ大会での優勝を狙うヴィクトル・ニキフォロフとの物語である。紋切り型のロシア的表現がまったく出てこないとは言えないが、現代ロシアの現実、ロシアのフィギュアスケート選手たちのユニフォーム、サンクトペテルブルクの通り、ソチやサランスクのアイスリンクが描かれている。主要な登場人物の一人となっているのが、ロシア人スケーター、ユーリー・プリセツキー。野望と才能溢れる若者である。プリセツキーはニキフォロフに目をつけてもらい、トレーナーになってもらおうと懸命に努力する。

 日本のアニメに描かれるロシアの登場人物は、その気候にピッタリの遠い国の厳格な人々というステレオタイプから、かなり現実に近い、深みのあるヒーローに至るまで、驚くべき道をたどってきた。

 アニメ「ダンベル何キロ持てる?」(2019)のヒロインで、交換留学で日本にやってきた女学生ジーナ・ヴォイドはアニメに出てくる伝統的なロシアの登場人物を3つのタイプに分けている。氷の微笑を浮かべた知的な人物、冷静で冷たい人物、そして熱いロシアの愛国者である。

 時代とともに、ロシアのヒーローのイメージはどのように変わったのだろうか?ボルシチやウォッカ、卑語が好きだというかつてのステレオタイプは、ロシア人の登場人物の決定的な特徴ではなくなり、現在は、興味深いカリスマ的で印象的な一登場人物の追加的なイメージとして描かれるにすぎなくなったのである。

 この記事は非営利プロジェクトRussia in anime(アニメに描かれるロシア)を大いに参考にした。

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