2010年から2019年のロシア映画ベスト15

Nikolay Lebedev/TriTe, 2016
 映画史におけるロシア映画の10年間はこのように記憶されるだろう。

1. 伝説の17番

 2010年代には多くの展開の早いスポーツ・ドラマ映画が作られ、見る人をしばしばソ連時代に引き戻した。「伝説の17番」もその一つだ。これは、伝説的なホッケー選手である、ワレリー・ハルラーモフの物語だ。彼は1972年にカナダと初めて戦って7対3で勝った「ソ連スポーツの勝利」の試合で2得点を挙げた。

 2013年のロシアで最高興行収益を記録した映画の1つであるこの伝説の17番は、「最初から最後まで観客をくぎづけにした。言うまでもなく、実際のホッケーの試合を見ているように撮影されているので興奮がいやがおうにも高まり、自分たちのチームの勝利が事実であったと確信することが出来る」と、映画評論家はこの映画について書いている

2.What Do Men Talk About?

 人がドアの向こう側で一体何を話しているのかを知るのはいつでも面白いものだ。ロシアの多くの人々にとって現代の名作となったこのコメディ映画では、4人の仲間が、率直に妻や恋人、友人関係や人生などについて語り合う。彼らは普通の男たちが頭の中で考えているものの大っぴらに話すことにはためらいを感じていることを忌憚なく話す。結果としてこの映画は、男性も女性も同じように楽しめる、明るく楽しい、それでいて哲学的なものとなっている。

 「What Do Men Talk About?」は有名なモスクワをベースとするシアター・スタジオ「カルテット」が製作した映画の一つ。このスタジオはロシア舞台芸術アカデミーの卒業生4人で作られたもので、これまでに多くの著名な舞台を手掛け、その中には映画化されたものもある。この映画も、大成功した舞台「女性、映画、アルミ製フォークについての中年男の会話」の後で製作された。とても愉快な映画だが、深く考えさせられる哲学的なところもある。

3. ハードコア

 朝起きたら記憶を失っていた。前向きに考えると、隣にいる美人の妻が今日からあなたはサイボーグだと教えてくれる。それから武装した男たちが夫婦の会話を邪魔し、妻を連れ去る。あなたは妻を取り返すため、非常に荒々しく血生臭い旅に出る。

 「ハードコア」は、有名プロデューサー、チムール・ベクマンベトフと同じく名高い監督であるイリヤ・ナイシュラーによる実験的な映画で、視聴者が主役を演じるのようだ。大抵の映画は、主役の目線から描かれる。「これは、遊園地の乗り物、映画、ビデオゲームやロックコンサートが重なりあったものだ」と、この映画監督は語る。その通りで、この映画はほとんどがある最高のシネマトグラファーが考案したカメラ・リグで支えたGoProカメラで撮影されたのだ

4. ヨールキ(クリスマスツリー)

 伝えられるところでは、地球上のすべての人々は互いにわずか6つかそれ以下の社会的つながりの中にいる。あるロシアの孤児院にいる一人の子供がこの理論を試すために、6回の握手で大統領にたどり着き、友人であるワーリャに手伝って欲しいと頼むというミッションに挑む。握手の連鎖によって、観客たちを国じゅうに誘う。新年の鐘が鳴る前に、そこでは、人々が幸福を追求している。

 これは優しく、感動的で楽しい映画で、家族でクリスマスやお正月に見るのにうってつけである。「ヨールキ」はジェームス・キャメロンの「アバター」と「トワイライト・サーガ」にわずか及ばなかったが、2010年の最高収益を上げたロシア映画の一つである。

5. Air Crew (エキパジ)

 ある空軍パイロットが上官の命令に背いたかどで不名誉な除隊となった。除隊した後、彼は民間機のジェットパイロットに転身した。彼はあまり乗り気ではなかったのだが、空を飛ぶことは唯一、彼が生きていることを感じられるときとなった。しかしその短気な性格ゆえ、航空会社の経営陣とうまくやって行くことが出来なかった。しかし辞職する前にもう一度、最後のフライトを飛ばなければならなかった。しかし、遠くの島で起こった地震が彼のフライトの行先、そして彼の人生をも変えたのだった。

 この映画はソ連時代の映画「Air Crew」を多くのアクションと現代的な視覚効果を盛り込んでリメイクしたものである。それに、この話はとても感動的である。「Air Crew」は本当に心を動かされ、勇気を持って他人のためになることをする力を与えてくれる。現代の社会において、このようなことはとても珍しいものとなっている」と、ある映画評論家はレビューの中で書いている

6. ヴィー

 18世紀の探検家、ジョナサン・グリーンはヨーロッパから東方に旅をする。旅の途中、彼は未踏の森と人工的な堀によって他の世界から遮られて孤立しているある村に行き着いた。そこの住民は悪霊を恐れていた。教養のあるグリーンはそれを即座に迷信だと見抜いたのだが、彼もまた悪霊の犠牲者となり・・・。

 「ヴィー」はロシアの偉大な作家、ニコライ・ゴーゴリの短編を基にしている。ロシアの古典に新たな展望を見せてくれる一作である。この映画が公開された後、5,000万ドルをかけてロシアと中国が続編を製作すると発表された。驚くべきことに、続編ではハリウッドスターであるアーノルド・シュワルツェネッガーとジャッキーチェンが起用されると言われている。

7. スターリングラード

 この叙事詩的映画は、ソ連軍の部隊長と彼の小部隊が敵の前線を破って、残された最後の住民であるカーチャという若い女性とある家屋に隠れるという話である。この小さな集団が力を合わせてナチスの攻撃を阻止し、次第に第二次世界大戦の流れを変えて行く。

 「スターリングラード」は、IMAX方式で撮影された最初のロシア映画である。サンクトペテルブルク近郊の軍用地に、この破壊された街全体が細部にわたって再現された。激しい爆撃に耐えて無傷で残った有名な噴水も作られた。「スターリングラード」は、2013年の最高興行収入を挙げた映画となり、その製作と配給においてまさに真のスペクタクル映画となった。

8.ゴーイング・ヴァーティカル

 1972年の夏のオリンピックで、ソ連のバスケットボールチームは、無敵と思われたアメリカチームを破るべくミュンヘンに到着する。アメリカチームの無敵神話にもかかわらず、また、同時に起こった人質事件にもかかわらず、ソ連チームの監督は、自分の多民族チームを国際スポーツの歴史において記憶されるべき奇跡の勝利に導いた。

 この最後の試合の様子が微に入り細に入り再現された。また6つの撮影チームが同時に別々の撮影を行った。これはロシアの映画産業にとって非常に稀な撮影となった。しかし映画評論家の言葉によるとこの映画の特色はこれだけではない。「この映画は心を奪い、楽しませ、教えてくれる。ソ連国家の圧倒的な栄光と、この国への誹謗との間のきわどいところを描いている」。

9. リバイアサン

 ある腐敗した町の市長が自分の力を使って、1人の男が住む海際の家から住人を追い出し、その土地を私物化しようとした。力はないが誇り高いこの男は、市長から圧力に屈せず、モスクワの弁護士を雇う。しかし、助けが到着すると、それが苦痛をもたらすことになった。

 有名なアンドレイ・ズヴャギンツェフ監督によるこの映画は、世界中で高い評価を受け、2015年のゴールデングローブ賞を受賞した。ロシアや海外の映画評論家のレビューでも、この上なく肯定的な評価を得た(ロッテン・トマトのサイトによると、全レビューの98%)。サンデー・モーニング・ヘラルド紙も「まぎれもないロシア映画の傑作である」と評している

10. Fortress of War

 1941年6月22日、ナチスドイツ軍はまだ準備不十分で開戦できない状態にあったソ連に対して大規模な攻撃を仕掛けた。ブレスト要塞はナチスの激しい攻撃を目の当たりにした最初の前哨基地になった。不意を襲われた人々は、侵略者を阻止しようと大変な努力を払わなければならなかった。

 映画評論家はこの映画に好意的でなかったが、IMDbやロッテン・トマトのようなロシアの映画ランキング・サイトであるキノポイスクは、この映画をロシアの戦争映画の中で最高ランクを付けた。おそらく多くのロシア人が戦争に対して持つセンチメンタルな気持ちがその理由であろう。第二次世界大戦開戦当初に多くのロシア人が直接経験した怖ろしい出来事を知ることができる一作だ。

11. アリトミア(不整脈)

 ある有能な救急隊員は自分の患者に全力を使い、妻や家族、上司に気を払わないようになっていた。でもそれが彼にとって良いことであるはずなく、彼の妻は離婚を申し出、職場でもトラブルが持ち上がった。彼の人生は崩壊したが、両親さえ彼の仕事に感謝しようとはしなかった。

 広く賞賛されたこのドラマ映画は、多くの困難に直面しながら仕事に打ち込むどこにでもいる男を描いたもので、ロシア社会の人間模様を映し出している。そしてこれを見ると不思議と勇気づけられる。ある映画評論家は「あなたもこの映画のような出来事が必ずあると感じ、自分の人生をよりよくし、“良いことなど決して起こらない”国から逃げ出したりしたくないと感じるのだ」と指摘している

12. ドヴラートフ

 この映画は、20世紀後半で最も人気のある作家であったセルゲイ・ドヴラートフの1970年代の日常生活を描いている。時代は友人のヨシフ・ブロツキーがソ連から国外追放される直前のことであった。

 ときに愉快で、時にドラマティックに描かれており、人生において、自分の才能や居場所を見つけ出すことが人にとっていかに難しいことであるか見せてくれる。2018年のベルリン国際映画祭にて銀熊賞を受賞した。

13. ラブレス

 ある3人家族はとてもつらい離婚の危機にある。妻と夫はいつも戦争間際の状態だが本当の犠牲者は息子のアレクセイだ。今回の口論を最後に、アレクセイは忽然と居なくなった。

 「父、帰る」でヴェニス映画祭金獅子賞を獲得したアンドレイ・ズヴャギンツェフ監督の描くこの暗く陰鬱のドラマ映画は2018年アカデミー賞で海外作品賞にノミネートされた。西側でもきわめて肯定的な評価を受けた映画である。しかしながら、「ラブレス」は最後まで座って見るにはとても厳しい作品である。ある映画評論家は、「ある種のスリラー映画とも言えるものだが、簡単な解決法は見つからない。ズヴャギンツェフ監督は簡単には安心させてはくれない。この冷たく苦しい場所で安心できる者などないのである」と述べている

14. A student

 崩壊した家庭のある十代の若者が聖書に救いを求める。彼は聖書の一節一節を暗記し、クラスメートに話して聞かせる。やがて自分を道徳の権威だと思い込み、非行を見つけるたびそれを非難するようになった。この十代の説教師は他の者たちにとっては、耐えがたい厄介者となっていく。

 舞台や映画で数々の作品を生み出した著名な監督であるキリル・セレブレニコフによる作品。彼はアヴィニョン演劇祭、カンヌ映画祭、ロカルノ映画祭、ローマ映画祭などの映画祭に参加し、ワルシャワ国際映画祭では「Yuri’s Day」でグランプリを受賞した。また2016年のカンヌ映画祭では「A student」でフランソワ・シャレ賞に輝いた。

15.ヴィーチカはいかにしてリョーハをナーシングホームに届けたか

 1人の狡猾な若い男が、新しく見つかった父親―刑務所に入っていた前科者―を介護施設に閉じ込めて、アパートを横取りしようと考えた。家族から逃げ出し、愛人のところに転がり込むためである。2人の男はお互いに好意を抱いてはいなかったが、ロシア僻地をめぐる旅に出発することになる。

 アレクサンドル・ハントは最近、映画学校を卒業した監督で、かなり限られた予算で製作した典型的なインディーズのロードムービーでデビュー。その作品が広く感銘を与え、高い評価を得ることとなる。とりわけ評論家たちはロシアの僻地を実に正確に描き出している点を称賛している。またこの作品が深く、示唆に富むストーリーであるにも関わらず、意図的に説教くささが排除されている点も評価されている。 

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