米国がシリアの空軍基地を攻撃

トランプ大統領

トランプ大統領

=AP
 4月7日、アメリカのトランプ大統領は、前任者のオバマ氏と異なり、シリアにおいて極めて厳しい行動に出る用意があることを示した。シャイラート空軍基地への攻撃は、軽微な損害で終わったが、シリア政府の主要な同盟国であるロシアがどのように反応するかに、世界の注目が集まっている。

 今回の空軍基地への攻撃は、トランプ大統領が感情に流されて行ったものだと述べる専門家もいるが、まさかそんなことはあるまい。攻撃の日時があまりにも巧妙に選ばれているし、ロシアと直接の衝突が生じる可能性も最小化されているからだ。例えば、ロシア軍は攻撃についての予告を受けており、それによって同盟国シリアの軍隊も、予め軍事施設の避難を始めていたので、実質的な損害は避けられた。

 これらすべては、今回の攻撃の政治的な性格を示しており、しかもそれは、米国への習近平中国国家主席の訪問時期とうまく合致している。 このほか、トランプ大統領は全世界に対し、その声明の内容において、オバマ前大統領には欠けていた断固たる姿勢を明示した。こうしてロシアは、自身の同盟国への直接的な侵略の事実に対し、どのように反応すべきか、選択を迫られることになった。

 シリアでの内戦勃発以来初めて、米国がアサド大統領に忠実な軍隊に攻撃を行ったことは、この地域の情勢と力関係を一変させることになる。そして、過去1年半の間に、シリア政府軍を支持することで得られた成果は無に帰することになるだろう。

 事実上シリアでは「万人の万人に対する戦い」が始まってしまった。

今後のシナリオ

 ロシアはこれまで常に、地域の安定を回復させるには、穏健なあるいは過激な反政府勢力が占領している領土をシリア政府の支配下に戻すしかない、という立場をとってきた。今日のミサイル攻撃がシリアに関するあらゆる合意を白紙に戻してしまったことを考えると、今やアサド大統領は自分に刃向かうあらゆる勢力との戦いを強化することになると見られる。だが、5年間の戦争で弱体化しているシリア政府軍にはその能力はない。

 その一方で、今日のアメリカの攻撃の結果として、イラクの西側連合軍とシリアのロシア軍が、協力を一時的に停止することになるのは明らかだが、そうなれば、ロシアで禁止されているイスラム国(IS)の反攻を招くおそれがある。

 

 さらに、シリア政府は、米国の2度目の、そしてより効果的な攻撃の可能性を念頭に置くことになるだろう。なるほど、その場合でも、ロシアの地対空ミサイルを使用すれば、シリア政府は、攻撃による損失を最小限に食い止めることができるが、それは米国とロシアの直接対決の可能性を開くだけのことだ。こうした直接対決のシナリオは、ソ連の対空砲火が米軍機を打ち落としていたベトナム戦争を思い出させる。

ジレンマ

 シリア政府が化学兵器を使用したという客観的な証拠が今のところ出ていないことを考えれば、ロシアが同盟国シリアの利益のために国際法遵守を訴えるだろうことは明らかだが、実質的な支持を得ることはまずできまい。しかも、アメリカがあからさまな力の行使に踏み切ったことは、その同盟国の確信を強めることになろう。すなわち、アサド政権への圧力を継続し、その退陣と連立政権樹立を達成すべきだとの確信を。

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 こうしたシナリオは、ロシアにとっては敗北を意味するから容認できない。したがって、ロシアの唯一考えられる対応は、シリア政権への支援を強め、その領空の安全を強化することだが、これらすべては、新たな世界的紛争に向けて、世界を著しく近づけることになる。

 とはいえ、今日の空軍基地への攻撃で、ロシア製地対空ミサイルが使われなかったことから、「合意に基づく攻撃」という印象も受ける。これは、露米両国が本質的な関係悪化は望んでいないことを証明しているだろう。しかしながら、ロシアとシリア政府にとっては、イスラム過激派および野党との戦いにおいて、大きな成功が必要だ。アサド体制のしぶとさを示し、ロシアが同国にあらゆる支援を与える用意があることを明示するような成功が…。

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