世耕弘成経済産業相が訪露

世耕弘成経済産業相=

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ラミル・シトディコフ/ロシア通信
 世耕弘成経済産業相がロシアに到着した。3日間の滞在期間中にロシアの主要閣僚と会見する。

 世耕弘成経済産業相がロシアに到着した。3日間の滞在予定で、その間に、ロシアの主要閣僚と会見し、協力プラン「八項目提案」の具体化を目指す。これは、今年5月にソチで行われた露日首脳会談で安倍首相が提示したもの。世耕大臣の訪露は、今年12月に予定されるプーチン大統領訪日の準備の一環だ。ロシアの専門家らによれば、露日間の経済協力の発展の途上には、アメリカによる対露制裁を含む一定の問題があるものの、そのリスクを軽減できる可能性はあるという。

 

具体的なプロジェクト

 世耕経産相は訪露中に、経済協力プラン「八項目提案」の具体化を目指す。これは、今年5月にソチで行われた露日首脳会談で安倍首相が提示していた。

 世耕大臣の訪露の意義について、ロシア科学アカデミー「極東研究所」日本研究センターのワレリー・キスタノフ所長は、「これら8項目を具体的な内容で満たし、戦略的意義をもち得るような文書を準備することだ」と、ロシアNOWに対して述べた。

 今のところ、具体的にどんなプロジェクトがこの協力プランに入ることになるかは不明だが、日本側の声明によれば、全部で約70項目に及ぶという。その一部については、ロシア連邦極東開発省が10月末に発表していた。

 その中には、以下のものが含まれていた。石炭ターミナルの建設、木材加工への投資、国際空港ハバロフスクの刷新、野菜の温室栽培施設の建設など。また、グローバルなプロジェクトも挙がっていた。ボストチヌイ宇宙基地を基盤とした航空宇宙クラスターの創設、北極海航路の発展などだ。

 さらに、日本の報道各社は、医療分野のプロジェクトや郵便事業の現代化、各地域の中心都市の環境整備(とくにヴォロネジ)などについても伝えていた。

 経済協力の総額も不明だ。日本のマスコミは、情報筋の話として、1兆円を超える可能性があるとしているが、ロシア連邦極東開発省は、1兆ルーブル(約1兆6500億円)だと伝えている。

 しかし、専門家らの意見では、金額の差を気にする必要はない。極東連邦大学・経済スクール・世界経済講座のタギル・フジヤトフ教授の説明によれば、こういう差が生じたのは、方法論と計算の仕方が違うからかもしれないという。「日本は日本で、プロジェクトの見当をつけて、その見積もりを概算し、ロシアはロシアで、プロジェクトとその展望をやや違った風に見ている」。フジヤトフ教授はこう考える。

 

モデルケースのプロジェクト

 ただし、専門家らは、これらのプロジェクトを全部実現するのは無理だという点では一致している。「それぞれの分野で、一つか二つの項目を選んで前に進め、将来的にはそれらがモデルケースになるようにしたほうがいい」とフジヤトフ教授は述べる。そうすれば、投資家に対して、「これに続くすべてのプロジェクトはゴーサインをもらうことになる」とのシグナルを与えられることになると、教授は説明する。

 こうした「モデルケース」の例として教授は、「日揮」による、ロシアにおける医療センター創設の提案を挙げた。

 

主要な分野は

 エネルギーに関する分野は、経済協力の主要な一部門をなす。炭田の共同開発、および「サハリン-北海道」電力ブリッジとガスパイプライン「サハリン-日本」の共同建設がここに含まれる。日本のマスコミは、日本国際協力銀行(JBIC)の、独立系天然ガス企業「ノヴァテク」によるLNG(液化天然ガス)プロジェクトへの投資についても報じている。

 「最も将来性があるのは、やはりエネルギー分野での協力だろう。日本には、炭化水素エネルギーがなく、石油、ガス、LNGはすべて輸入に頼っている」と、キスタノフ氏はロシアNOWに述べた。

 日本のエネルギー輸入のかなりの部分は、ロシアが占めている。エネルギー安全保障の観点からすると、ロシアは地理的に近いため、日本にとっての意味は大きい。世耕大臣自身、訪露前に、日本のエネルギー政策について触れ、その重要なポイントの一つは、主な輸入国の集中する中東地域への依存から解放されることだと指摘していた。「だから、この分野でのロシアとの協力は極めて大事で、その中には、エネルギーの新たな輸送路の開拓も入ることになる」。世耕大臣は、ロシアのマスコミへのインタビューでこう述べた。

 その一方で専門家らは、将来的には、より複雑な構造の経済協力へ移行し、もっぱら天然資源を輸出入するだけという形態から離れる可能性もあるとしている。「新たな分野が現れつつあることが肝心だ」とキスタノフ氏は語り、例として、極東の輸出基地、交通インフラ、農業、医療、都市インフラ等の発展プロジェクトを挙げた。

 フジヤトフ教授も、例えば、三井物産がロシアの水力発電最大手「ルスギドロ」に出資する計画は将来性があると言う。両社は現在、協力して、サハリンと北海道を海底ケーブルで結ぶエネルギー・ブリッジの建設案と見積もりに関する準備を行っている。「『売り買い』のような“戦術的な”問題だけでなく、戦略的な路線も共に策定できるのは、これはもう高い相互信頼があるということ」とフジヤトフ教授は言う。

 

円決済により制裁リスクを軽減

 とはいえ、経済関係は、商業的な次元だけの話ではなく、ある程度政治の影響も受ける。ロシアNOWが話を聞いた専門家らは、対露制裁がある程度影響し、日本企業がそれを考慮して行動せざるを得ないという点で、意見が一致している。

 「日本は米国を配慮して行動するだろう。なにしろ、米国は日本にとって、ロシアとは比較にならないほど、経済面では重要なパートナーだから」。キスタノフ氏はこう述べたうえ、これは日本企業だけでなく、中国企業にも言える、と指摘する。

 

「日本側の事情は十分理解できる。同国のビジネスのかなりの部分が米国で活動しているから、やはり何らかの制裁に引っかかる可能性がある」と、キスタノフ氏は理解を見せる。だがその一方で、そうした制裁リスクにもかかわらず、「日本側の政治的意志」と「日本の経済界が示す無条件の関心」が見て取れると言う。

 これに関連し、既に昨年、日本国際協力銀行(JBIC)が、制裁リスクを最小限にするため、円決済に移行することを提案していた。「問題は、露日経済関係において、ドル決済をやめるとか、他の通貨に替えるとかいうことではない。取引の一部を円決済にすることで、リスクのある部分は最小限にできると思う」。フジヤトフ教授はこう説明した。

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