露日首脳会談で合意できないこと

5月6日、ソチでプーチン大統領と安倍首相の首脳会談が行われた。=

5月6日、ソチでプーチン大統領と安倍首相の首脳会談が行われた。=

セルゲイ・グネエフ/ロシア通信
 プーチン大統領の日本公式訪問までわずかな日数を残すのみとなった。アレクサンドル・パノフ元在日本ロシア連邦大使(在任期間1996~2003年)が、現在詰めの準備が行われている露日首脳会談の帰趨を展望し、過度な期待を戒めるべき点を指摘する。

 露日首脳会談が来週に迫った。12月15日にプーチン大統領と安倍首相の会談が、首相の山口県のこじんまりとした故郷、長門市で予定されている(日本の昔ながらの温泉で非公式な雰囲気で行われる)。 その翌日は、東京で、人数を増やしての会談となる。

 会談を目前にした最近の雰囲気はかなり過熱している。首脳会談の日程が発表された9月から早くも、予想、期待感の“津波”はいや増すばかりだったが、特に多かったのが、露日双方の「関係者たち」からの忠告、警告だ。しかも、その憂慮の対象は、露日いずれも似通っていた。つまり、表現こそ様々だが、領土問題に関して「断固たる立場」が揺らぐのではとの危惧の念が、ありとあらゆる言い方で示された。

 

現状維持派の危惧

 思い出していただきたいが、露日双方とも、両国間に平和条約がないことは遺憾だと認めている。条約締結の主な障碍は、国境画定問題が解決されないこと。11月20日、プーチン大統領が、ペルー・リマ開催のAPECサミットに際し安倍首相と会談した後で述べたように、「これはアナクロニズム(時代錯誤)であり、前進と発展を妨げている」。一方、安倍首相は、5月の首脳会談の後、領土問題解決に向けて「新たなアプローチ」を創り出したと断言したが、その内容は明らかにしなかった。しかし、上記リマのサミットの記者会見でプーチン大統領は、次のように指摘した。ロシア側は、双方が対立している問題について、その解決の様々な選択肢を検討する用意があり、したがって、来る首脳会談は特別な重みをもつことになった、と。

 という次第で、原則的な立場をとる人達が心配するのは理解できる。両国首脳は、定期的に会っており、平和条約について話し合っている。ひょっとして、山口県で、日本の美しい自然に見とれ、洗練された日本料理に舌鼓を打っているうちに、合意してしまうかもしれないではないか?…

 ここで指摘しておくべきは、こういう憂慮は以前にもあったということだ。1991年4月のミハイル・ゴルバチョフ・ソ連大統領の訪日前にも、1997年と1998年のクラスノヤルスクと川奈での、エリツィン大統領と橋本首相による首脳会談前にも、それはあった。

 要点にしぼって見てみると、ロシアの現状維持派の論拠で強調されている点は以下の通り。1)歯舞、色丹、国後、択捉の4島が、第二次世界大戦の結果としてロシアに領有されていることに議論の余地はないこと、そしてそれが、複数の国際条約で確認されていること、2)ロシアの国防上、4島が極めて重要な軍事的、戦略的意義を有していること、3)島周辺は海産物が豊かで、貴重な鉱物資源の埋蔵量も大きいこと。

 一方、日本側の論拠は、これらよりは少ないが、サムライの面子がかかっており、意地でも引かぬところがある。いわく、北方四島は日本固有の領土であり、1855年に結ばれた日露間最初の条約(日露和親条約)でもそう認められているのに、日本の敗戦後、不法に奪われた…。

 

状況に対する戦略眼

 すべてこれらの論拠が今日でも繰り返されているわけだが、注目すべきは、かつては、日本の「楽譜」では、すべての音が合っていたのに、最近は不協和音が響くようになったことだ。例えば、歯舞、色丹の二島の引き渡しでも同意する用意があるとする日本人の数が増えている。そこでは、「中国のテーマ」も独自の響きを添えている。ロシアと中国の反日同盟を形成させないために、ロシアと話をつけねばならない、というのだ。ドナルド・トランプ氏がアメリカ大統領に選ばれてからは、「アメリカ序曲」にもニュアンスが加わっている。トランプ氏は、中国ファクターを念頭に置くだろうから、日露接近に反対はしまい…。

 安倍首相はというと、戦略眼を備えており、次の前提に立っている。世界情勢および日本をとりまく情勢から、日露関係の発展において新たな段階を開く客観的な必要性が生じているという前提だ。だが、首相の政策への反対派は存在しており、しかも、極めて大きな勢力をもっている。20世紀末から21世紀初めに、何人かの日本の首相(橋本龍太郎、小渕恵三、森喜朗)が、日露関係のパラダイムを変え、アメリカ―中国―ロシア―日本の4極構造における弱い環、日露関係を強化しようと試みた。だが彼らは、伝統的な親米路線を堅持しようとする日本の政治家達の反対で、企図を実現することはできなかった。安倍首相とプーチン大統領がそれをなし得るかどうかは未知数だ。

 

プーチン大統領と安倍首相が合意しない事柄は?

 露日首脳会談をまさに目前にして、露日双方からこんな声明が飛び出した。平和条約締結は簡単な課題ではなく、たった一度の首脳会談ですぐさま解決できるような問題ではないと。リマで安倍首相が、プーチン大統領との会談の後で述べたように、「一歩一歩進んで、山を越えていかねばならない」。プーチン大統領もまた、こう指摘した。平和条約締結問題での合意は、相互の信頼醸成に基づいて達成され得るのであり、その一つの手段が協力関係拡大であると。ということは、今のところ、そうしたレベルの信頼関係はないことになる。

 先に安倍首相は、8項目の経済協力プランを提案したが、その方向で、一連の経済協力プロジェクト実現についての協定が結ばれることは、期待できよう。それらの協定に関する作業は、官僚と経済界の代表者により、迅速なテンポで進められている。特別に大規模なプロジェクトに関しての合意は、明らかに、今回の首脳会談での調印には間に合わないが、肝心なのは、プロセスが前に進むように物事を始めることだ。

 しかしその一方で、平和条約締結問題に関する歴史的な突破口となる合意はといえば、その展望は見えていない。が、露日双方にとって重要なのは、たとえ少しずつでも、平和条約締結に向かって事態が動いていることを示すことだ。そこでは、南クリル諸島(北方4島)での共同の経済活動、文化、学術活動も、取り上げられ得る。そうした共同活動は、一見すると、さほど難しくないように思われる。だが、過去にもこれに似た提案がロシア側からなされたことはあったものの、日本側は否定的だった。彼らの言い分では、ロシアの主権をそのままにして、そうした行動に同意すれば、事実上、ロシアの主権を認めることになるという。とはいえ、南クリル諸島での共同活動について、そういう形態で合意できる希望は残っている。

 また、両国関係を抜本的に改善するために、いくつかの分野で前進を続けることで双方が合意できれば、それも成功とみなせるだろう。その分野とは、経済協力拡大、政治対話の発展(多くの焦眉の国際問題で、両国の立場は近いか、一致している)、防衛交流の整備、文化、学術交流の活性化などだ。そして、これらと並行して、平和条約交渉を行い、「引き分け」の形での解決を探っていくことである。そうした解決はいずれ見出されると、私は確信している。

 

*アレクサンドル・パノフ氏

元ロシア連邦外務次官、元在日本ロシア連邦大使(1996~2003年)、政治学博士。

露経済紙「コメルサント」の記事を抄訳