なぜロシア人はこんなにアディダスを愛するのか?――とくにあちら筋が…

画像:ナタリア・ノソワ
 ロシアとドイツのスポーツブランドとの関係は、ソ連時代にまで遡る。3本(ときに2本)のストライプは、「鉄のカーテン」をはるかに飛び越えて、東側に入り込んだ。そして、やがてアディダスがロシアの犯罪界のトレードマークになろうとは、お釈迦さまでもご存知なかったろう。

 ファッションハウス「シャネル」のクリエイティブ・ディレクター、カール・ラガーフェルドは、かつてこう言った。「スウェットパンツは“敗北”の兆しだ。人は、自分の人生をもてあますようになると、スエットパンツを買う」。これが真実なら、ロシア人の多くが、「自分の人生をもてあましている」

 ロシアでは、トラックスーツを着ていても、スポーツと関係ないことがよくある――とく田舎ではそうだ。しかも、多くの人が普段着のズボンとしてはいており、ほとんど国のシンボルの類になっている。ちょっとこのミームをチェックしてみてほしい!もちろん、ロシア人が皆アディダスを着ているわけではないが(とくに最近は)、それでも、これらの写真はかなり滑稽である。

 とはいえ数十年前は、トラックスーツは、こんな風なイメージだったわけではなく、ほとんど上品であるとさえ考えられていた。これらすべては、いったいなぜ起きたのか?

 

モスクワ五輪のアディダス

 今は昔の冷戦時代、1980年のモスクワ五輪開催の直前のこと、アディダスはソ連政府と契約を結び、ソ連代表チームに、ストライプ入りのユニフォームを提供した。

 当時のソ連指導者、レオニード・ブレジネフとその周辺は、選手が欧米製のユニフォームを着て出場することをあまり喜ばなかったが、「鉄のカーテン」の東側の繊維製品は、品質で劣っていたから、やむを得なかった。

 そこでソ連政府は、ユニフォームの資本主義の印を消すべく躍起になり、ついに妥協にこぎつけた。すなわち、アディダスのロゴはつけない代わりに、(アディダスの3本線の商標の代わりに)、2本線だけつけることにしたのである。

 しかし、こんなことで、国民の目はごまかされなかった。自分たちの英雄はアディダスを着ている!かくして、このブランドの人気は、モスクワ五輪の後、ソ連で急上昇したのだった。

大流行

 1980年代の初めには、アディダスのスニーカーが究極のシックとなった。もちろん、これらを合法的に買うのは難しかったので、安価な模造品を生産する一大業界が出現した。かの有名な3本のストライプは、ありとあらゆるタイプの衣服についていたので、実際に本物を手に入れられた幸せ者は、まるで、仕立てた高級スーツを着ているような気がした。

 当局は、こんな状況は喜ばず、このブランドをジーンズ、チューインガム、その他の欧米グッズと同一視していたが、ほとんど何もできなかった。当時は、こんな歌もあった。「アディダスを着る者は、明日、母国を売るだろう!」(この文句は、ロシア語だと、ちゃんと韻を踏んでいる)。

 

塀の向こうのユニフォーム

 ソ連崩壊後、アディダス以外のブランドも含め、トラックスーツは、犯罪界でとくに一般的な衣服となった。多くの刑務所には制服がなかったので、囚人はトラックスーツを着たのである。

  一方、1990年代には、元スポーツ選手の一部が結局、犯罪界に滑り落ちていった。彼らは、かつてトレーニングしていたときと同じものを身に着けたのだ。

 この“ドレスコード”は、実業界のトップにも見られた(多くの企業が犯罪者、マフィアによって運営されていたから)。だから、金持ちが会議室でアディダスのトラックスーツを見せびらかしているといった状況は、実は、そんなに現実から遠くなかったのだ。

 また、犯罪傾向のある不良、ごろつき――ロシアではゴープニクと呼ばれる――も、仲間に触発されて同じものを着た。

 もちろん、彼らは、市場で買った安い模造品を着ていた。こういう状況は、「アディドス」、「アビバス」その他、ニセモノづくりの業者を笑いのめす、たくさんのミームを生み出した。


トラックスーツの凋落

 あるロシアのユーザーが、2008年に、サイト「LoveHate.ru」にこんなことを書いていた。「劇場や結婚式ならともかく、普段着だったらどうかな?別にいいじゃない」。しかし時は過ぎ、普段着としてのスウェットパンツの人気は下がりつつある。

 2017年10月、パーヴェル・ゴルチェフさんは、現在、トラックスーツを着ている人種をQuora.comに挙げた。すなわち、スポーツをしている人を除けば、ゴープニク、ギャング…そして長距離列車に乗っている人。

ここに滞在いたします

 そう、多くのロシア人は、たとえゴープニクでなくても、列車ではシェルスーツに着替えるのだ。社会学者のヴィクトル・ヴァフシタイン教授は、次のように説明している。「今日では、トラックスーツは半制服であり、列車のコンパートメントは半分だけ公共スペース。だから、お互いにしっくりくるのだろう。それに、トラックスーツを着ると楽だしね」

 これが、トラックスーツを常にロシアの街角で見かける理由だ。ツイッターのユーザーのヴィクトル・グベルニエフさんはこう書いている。「ロシアのコスライフは、無限に続く障害競走のようなものだ」。だから、ロシアでは、トラックスーツがあると便利なのかもしれない。

 

*この記事は、「なぜロシアは」シリーズの一本。本シリーズは、ロシア関連で最も人気の検索語を選んでくわしく解説する。

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