多くの人にとっては、爆発的にヒットしたヴィタスの『7th Element』は、インターネットの非公式な国歌のようになっている。この曲は、恐らく、「ロシア語の奇妙な片言の歌」として知られていることだろうが、ヴィタスの人気がこれほど広がる前には、もっぱら中国で人気だった。しかし、2015年にヴィタスが欧米の世界で復活してからは、ほとんど無視できないものになっている。
『7th Element』を初めて見たときのことは決して忘れられないだろう。ヴィタス(Vitas、本名ヴィターリー・グラチョフ)のパフォーマンスを目にすればきっと、ドキっとするような信じられない技のタングローリングと、「おお、君の視線をつかまえた」というセクシーで自信たっぷりのカメラ目線を感じることだろう。こうした奇妙なものに加えて、素敵なシルバーのジャンプスーツに、黒い星型の冠は、ネットで最もドキドキするスペクタクルのひとつだと思うことだろう。
2001年のビデオが、すぐには注目を集めなかったということにも驚くかもしれない。結局、『7th Element』は、インターネットによって欧米で大きな人気を得た。ヴィタスの人気が爆発したのは、2015年の6月に、Redditのユーザーjai_kasavinがミュージックビデオを投稿したことによる。投稿されるとすぐにYouTubeのvipnews2010にアップロードされ、2000万回以上視聴された。ついに、この歌手の魅惑的な才能が、それにふさわしい評価を得たのである。
ヴィタスの一風変わった才能は、2016年と2017年も、ほとんどすべてのコンテンツクリエイターが『7th Element』を繰り返し流し、牽引力を増し続けている。最も記憶に残るリミックスの中には、(意図的に)下手な笛を入れた曲や、コメディアンのヴィッグ・シャックとのマッシュアップ、10時間も続く曲、DJ アリエル(これは聞きやすいほうだ)によるトラップリミックスなどがある。
この曲が成功した結果、同様のジェットコースターのようなトングムービングを見せる『Soul』もまた、「奇妙なトングマンが戻ってきた!」というキャプション付きでFacebookであっという間に拡散したのだ。
ヴィタスは、欧米での成功に感謝しているかもしれないが、ロシアではずっと以前に人気になった。もともとは、この、ウクライナのオデッサ出身のロシア語シンガーは、2001年に『Opera#2』 でヒットしたのだった。もちろん、ロシア人もヴィタスを一風変わった歌手だと思っていた。
『Opera#2』のビデオクリップでは、彼が孤独な半魚人を演じ、アコーディオンを演奏したり、街頭で半魚人のチラシを配ったりしている。しかし、彼のロシアでの称賛は、実際に本物だ。そして、その称賛にふさわしい才能を持ち合わせているのだ(彼の声域は5オクターブもあると言う)。さらに、コミカルな効果の背後に目を向けると、彼の2、3の曲は、心地よい驚きをもたらすこともある。
2枚のフルアルバムが『Opera#2』の成功の後に立て続けに出され、ヴィタスは、2003年にクレムリンに招待され、イタリアの作曲家ルーチョ・ダッラとともに、ウラジミール・プーチン大統領の前で演奏した。ヴィタスが、真のミュージシャンと思われている世界を想像するのは難しいという人もいるかもしれないが、2000年代初頭のロシアでは、ヴィタスは正真正銘のスターだったのだ。おそらく、最も印象的なのは、彼が同じ時期に、中国で非常に大きなファン層を獲得し、二度のツアーがソールドアウトとなったことだろう。彼は、映画『ムーラン』の中国版にも参加している。
トングローリングのビデオだけでヴィタスを知っているという人たちは、彼がネットで人気者になったのは、キャリアが下火になってきていたところで、実のところ嬉しい復活だったのだと知ると驚くかもしれない。ネットで人気になる前、最後にヴィタスが広く知られたのは、ジェリー・スプリンガーショーのロシア版にあたる「喋らせろ」というトーク番組で、彼の父親だと嘘をついて名乗り出た男と奇妙な論争をしたときだった。彼はまた、2013年に車を運転中に自転車にぶつかり、ニュースにもなっている。
そんわけでヴィタスは、欧米の新しいファンたちの中に、どの程度のアイロニーが含まれているのかは全く分からないが、ネットでの人気の復活には感謝はしているようだ。しかし、ヴィタスへの熱狂は、明らかに、表向きのミーム以上の興味を引くものだろう。現実的なテレビの世界にうんざりしている世界で、私たちのユーモアの感覚はより強くなっているし、ヴィタスのような人物は、かつてなら、ただの挑発的な目的で配信しているだけだろうと思われていた。少しばかし不快にさせるという理由で、『7th Element』のようなビデオを非難したりするだろうか? 彼は、「友達タグをつけたり、無視したり」するだけの素材だろうか?
それが何であれ、ヴィタスはそのことはあまり気にしていないようだ。そして、2018年のロシアワールドカップの公式ソングが未定の時に、彼は決定的なカムバックを計り、最新作を展開できなかったのだろうか?
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