一体どんなビジネスなのか。カープライスの役割は、自分の車を売りたい人と、中古車を仕入れたい中古車販売店をつなぐことだ。その手法を簡潔にいえば、販売店向けにネット上で中古車オークションを開き、ここに、所有者が売ろうとしている車を出品する、ということになる。具体的にはこんな流れだ。
1) 中古車を売りたい人が、カープライスの店に車を持ち込む。
2) 車体の傷などを査定士が点検する。必要に応じてスマートフォンで写真を撮る。
3) 査定士はスマホに入力した車の情報や画像を、中古車ネットオークションにアップする。
4) すぐに全国の中古車ディーラーに車の情報が送られ、競売が始まる。ディーラーはスマホやパソコンで入札。約15分で受付終了。
5) 最終入札額が売り手の希望額に達していれば、競りが成立する。
6) 成約したときのみ、カープライスは売り手から手数料一律1万円、またディーラーからも落札額に応じた所定の手数料を受け取る。
途中で入札額が上がっていく様子など、車の所有者も画面を通してオークションを見ることができるのが特徴だ。これは、今までの中古車オークションのあり方とは大きく異なる。
今までだと、まず買い取り業者が所有者から車を買い、その車を各地の中古車オークション会場に運び込んで競りにかけ、ここで落札された車が中古車販売店に流れていく。買い取り業者から見れば、オークションに出した車に高値がつけば儲かる反面、思うような値がつかず損をするリスクも抱えている。儲けを確保するためには、所有者から車を買い取るときに少しでも安く買うのが鉄則だ。これは所有者にとっては、車を高く買ってもらえないことを意味する。この点、カープライスの方式では買い取り業者がいない。事実上、車の所有者がオークションに出品するようなものだからだ。これまでのような買い取り業者の儲け分がなくなるため、所有者にしてみれば高値で車を売れる可能性が高いというわけだ。ちなみに、競りがネット上で完結するため、従来のように会場に車を運ぶ経費がかからないのも所有者に有利に働くという。
代表取締役の梅下直也氏(40)によれば、このビジネスはもともとロシアで始まった。日本展開のきっかけは、本家ロシアのカープライス社の大株主が2015年に市場調査で来日したこと。この株主が、案内役として同行していた梅下氏に事業の話を持ちかけたのだった。梅下氏は、三井住友銀行の行員として2006年以降7年モスクワに駐在し、次の赴任地・英国ロンドンでも旧ソ連地域向けの金融プロジェクトに従事した経験を持つ。2015年前半に銀行を辞め、日本で起業家としての一歩を踏み出した矢先のオファーだった。ビジネスモデルの面白さや社会的意義に共感し、すぐに承諾した。
この大株主は、ロシアの有名通販サイト「KUPIVIP」の創設者でもあるドイツ人投資家、オスカー・ハルトマン氏である。梅下氏はハルトマン氏から、ベンチャー企業経営とIT技術に通じた林耕平氏(38)を紹介された。梅下・林の2人代表体制で日本法人を立ち上げ、ハルトマン氏ほか複数の投資家からの出資を受けることになった。ちなみにロシア法人と日本法人に直接の資本関係はなく、同じ投資家から出資を受ける兄弟会社という位置づけだ。資本関係がないとはいえ、事業で先行するロシア法人から日本への協力は大きかった。特にオークションシステムは、すでにロシアで稼働中のものがあるため一から開発する手間が省ける。むろん言語表記、また作成書類の種類やフォーマットといった日本市場向けのカスタマイズは必要だったが、それでも2016年1月、会社登記から約2カ月という速さでサービスを始めることができた。
これまでの業績としては、約3000台を査定し、約1000台がオークションで売れたそうだ。あえて大きな宣伝をしていないため初めの数カ月は苦労したが、ネット広告などが少しずつ浸透し、主に口コミで利用者が増え続けている。従業員は現在36人。中にはロシア人のITエンジニアもいる。これに加えロシア法人内にも日本事業専任エンジニアを配置してもらっている。
「立ち上げの段階はそろそろ終わり。これからは拡大に向けて頑張っていく時期です」と梅下代表は話す。店舗はまだ実質的に杉並の1店のみだが、業務ノウハウの蓄積ができてきた今、全国に拠点を広げようと準備を進めているところだ。
ロシアから日本に進出するビジネスはまだまだ例が少ない。カープライスが成功を収めれば、日露関係の新たなステージを拓くことにもなる。
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