ロシアで超人気の外国人現代作家10人

Ulf Andersen/Getty Images; Andrés Muschietti/ New Line Cinema, 2017
 ノルウェーの推理小説もあれば、自己啓発本もあり、SFもある。ロシアで最近もっとも売れて、読まれている外国人現代作家は彼らだ。

 最近10年間、ロシアにおける外国文学のベストセラーには、もちろん、古き良き古典も含まれている。ジョージ・オーウェルの『1984年』、レイ・ブラッドベリの『華氏451度』、『たんぽぽのお酒』などだ。

 当然、ロシアの読者も、J.K.ローリングの『ハリー・ポッター』シリーズは大好きだし、エリカ・レナード・ジェイムズのエロティックな三部作『フィフティ・シェイズ・オブ・グレイ』は、今でも盛んに読んでいる。しかし、他の現代作家のなかにも、毎年翻訳が待たれ、ベストセラーになっている人たちがいる。

 

1. スティーヴン・キング 

 キングの『The Institute』は、超能力をもつ子供たちを悪用しようとする組織をめぐるホラー小説で、2020年にベストセラーとなり(約7万部が売れた)、2019年には『アウトサイダー』もヒット…。という具合で、世界的に有名なこの「ホラーの帝王」は、ロシアでは1990年代から愛読されてきた。

 ロシアでは、書評の執筆者は、彼に関する感動的なエピソードに繰り返し触れたがる。かつてデビュー小説の出版を30回も拒否されたキングが、今や最も稼ぎの多い作家の一人になった、と。

 キングがロシアの連ドラ『To The Lake』についてツイートし賞賛したときは、それがロシアのトップニュースになった。

*日本語訳:

スティーヴン・キング 『アウトサイダー』(白石朗 訳)、文藝春秋、2021年。

 

2. ジョー・ネスボ 

 毎年、彼のノワール風の探偵小説は、ロシアでベストセラーになっている。2020年には、『王国』は、ベストセラー・ランキングで最上位を占めたわけではないが、トップ10には入った。

 2017年には、おなじみの刑事ハリー・ホーレが活躍する『渇き』が売れ行き好調。2019年には、その待望の続編『ナイフ』が、販売部数を倍増させた(オーディオブックを含むすべての媒体で約9万点)。

*日本語訳:

『ザ・バット 神話の殺人』(戸田裕之 訳)、集英社文庫、2014年。

 

3. グレゴリー・デイヴィッド・ロバーツ

 『シャンタラム』は、オーストラリアの刑務所から脱走して、インドのボンベイへ逃げた男が主人公だ。2010年にロシア語で出版されたが、今でも非常に人気がある。さらに、近年のオーディオブックのランキングでも、トップ3にランクされている。

 この叙事的作品の待望の第2部、『山の影』も、売れ行きは前作に負けていない。この作品がロシアで初めて出たのは2016年だが、その紙版はベストセラーになり、18万7千部を売った。

*日本語訳:

グレゴリー・デイヴィッド・ロバーツ『シャンタラム』(田口俊樹 訳)、新潮文庫、2011年。

 

4. ジェン・シンセロ 

 自己啓発本の類も人気を集めている。金融に関する考え方を見直そうと訴える、アメリカのジェン・シンセロのシリーズ『YOU ARE A BADASS もっと「自分のため」に生きていい!』は大いにヒットした。ロシアでは、この三部作は、皮肉なタイトル『НИ СЫ』(ビビるな)、『НЕ НОЙ』(泣くな)(2019年ノンフィクション分野の1位)、『НЕ ТУПИ』(よく考えろ)で登場した。三部作はすべて、紙版でも電子版でも依然として好調で、オーディオブックはとくに人気がある。

*日本語訳:

ジェン・シンセロ『YOU ARE A BADASS もっと「自分のため」に生きていい!』(山川紘矢、山川亜希子 訳)、三笠書房、2017年。

 

5. ユヴァル・ノア・ハラリ 

 イスラエルの歴史家で、世界的ベストセラー『サピエンス全史 文明の構造と人類の幸福』の作者。この本は、石器時代から21世紀にいたる人類史を概観しており、ロシア語で出たのは2016年だが、以来、何度か版を重ね、発行部数は伸び続けている。

 ロシアでは過去3年間、「今年最も聴かれたオーディオブック」の座にある。2018年に、続編『ホモ・デウス テクノロジーとサピエンスの未来』も出た。

 ロシア人はかつて、ディストピアのジャンルを事実上生み出したこともあって、先を争って、我々を待ち構えている将来についての、この本を読んでいる。2019年には、ロシア人が愛読するこの著者による新著、『21 Lessons 21世紀の人類のための21の思考』が出た。

*日本語訳:

ユヴァル・ノア・ハラリ『サピエンス全史 文明の構造と人類の幸福』(柴田裕之 訳)、河出書房新社、2017年。

6. エリザベス・ギルバート

 世界的ベストセラーとなった彼女の回想録『食べて、祈って、恋をして』(2006)は、刊行から2年後の2008年にロシアで出版され、たちまち人気を博した(主に女性読者の間で)。

 『Big Magic』、『献身』、『あらゆる物の特徴』もロシア語で出版されているが、とくに1940年代のニューヨークを描いた小説『女たちのニューヨーク』はセンセーションを巻き起こした。

 この作品のオーディオバージョンは、とくに人気ジャーナリスト、アリョーナ・ドレツカヤの美声と見事な朗読のおかげもあり、オーディオブック・サービス「Storytel」で、「2019年に最も聴かれた本」のトップ3に入った。

*日本語訳:

エリザベス・ギルバート『食べて、祈って、恋をして』(那波かおり 訳)、ハヤカワ・ノンフィクション文庫、2020年。

 

7. ジョー・ディスペンザ 

 最近ロシア人は、ますます内面世界について考えるようになってきている(とくにロックダウン中に積極的にそうするようになった)。アメリカの神経科学者が書いた『あなたという習慣を断つ ― 脳科学が教える新しい自分になる方法』は、我々の思考と潜在意識が我々の生活にどのように影響するか、そして我々が得たいと思うものを視覚的にイメージすることがどれほど大切かについて語っている。

 この本の電子版は、過去10年間で最も売れたものの一つになった。電子書籍サービス「リトレス」によると、7万5千部以上が売れた。音声版も非常に人気があり、ジョー・ディスペンザの方法による瞑想を紹介する、別の本もある。

*日本語訳:

ジョー・ディスペンザ 『あなたという習慣を断つ ― 脳科学が教える新しい自分になる方法』(東川恭子 訳)、ナチュラルスピリット、2015年。

 

8. フレドリック・バックマン 

 このスウェーデン作家は、長編小説『幸せなひとりぼっち』の作者だ。口やかましいが親切な老人についての話で、2016年にロシアで出るや、たちまち人気を得た。2020年、この本のオーディオブックは最も聴かれたものの一つになった。

 この作家の次作『おばあちゃんのごめんねリスト』は、2018年のベストセラーのトップ20に入った(売り上げは4万部以上)。

 この小説のヒロインは、一風変わった老婆で、ロシアの読者たちに、アストリッド・リンドグレーンを思い出させた。すべてのロシアの子供たちが、そしてバックマンが愛している、スウェーデンの児童作家だ。

*日本語訳:

フレドリック・バックマン 『幸せなひとりぼっち』(坂本あおい 訳)、ハヤカワ文庫、2016年。

 

9. マーク・マンソン 

 米国の作家、ブロガーの自己啓発書『その「決断」がすべてを解決する』は、ロシアの電子商取引(EC)大手「オゾン」の最近10年の売り上げで、トップ10に入っている(原題はThe Subtle Art of Not Giving a F*ck。ロシア語タイトルは “Тонкое искусство пофигизма” )。

 さらに、『仏教101』(Buddhism 101)も、2020年に最も聴かれたオーディオブックのトップ5に入った。ロシアの文化的伝統には、全体として、苦しまなければならぬ、苦しみが人を浄化するという考えがあるが、若い世代はいわゆる「ポフィギズム」(どうでもいいじゃないか、気にするな)といったシニカルな態度を嬉々としてとり入れている。

 2019年には、マンソンの別の本、『Everything Is Fucked: A Book About Hope』がベストセラーとなった。奇妙なことに、彼の処女作『Models: Attract Women Through Honesty』は、いちばん最後にロシアで出たが、たちまち2020年のベストセラー・トップ10に入った。

*日本語訳:

マーク・マンソン『その「決断」がすべてを解決する』(大浦千鶴子 訳)、三笠書房、2017年。

 

10. ジョジョ・モイーズ

 イギリスの女性作家による「女性の小説」は、ロシアの読者を魅了した。彼女の『The Horse Dancer』は、2015年のベストセラーの一つだった。

 しかし、本当の大成功――売り上げは3倍増――は、2016年の『ミー・ビフォア・ユー きみと選んだ明日』(Me Before You)だった。エミリア・クラーク主演の映画化(『世界一キライなあなたに』)でも知られている。

 続編の『After You』も、ロシアで大いに読まれている。これに続く三部作完結編、『Still Me』も同様にヒット。この作家の最近の翻訳の一つ、『Peacock Emporium』は、これらほどの成功は収めなかったが、それでもベストセラー・ランキングに登場した。 

*日本語訳:

ジョジョ・モイーズ『ミー・ビフォア・ユー きみと選んだ明日』(最所 篤子 訳)、集英社文庫、2015年。

もっと読む:

このウェブサイトはクッキーを使用している。詳細は こちらを クリックしてください。

クッキーを受け入れる