ミハイル・ブルガーコフの必読の5作品

Russia beyond (Photo: Press photo; Public domain)
 ミハイル・ブルガーコフ(1891~1940)は、最高にユーモラスかつ神秘的なロシア作家の一人だろう。彼は、波乱に満ちた困難な人生を歩み、検閲とソ連体制に苦しめられた。こうした経緯はすべて、彼の傑作群に反映されているが、それらのいくつかは、彼の死後に初めて出版された。

1. 長編小説『白衛軍』

 ブルガーコフ初の長編は、キエフの街を描いている。それはかつてロシア帝国の一部だったが、当時は、1917年のボリシェヴィキ革命後に勃発した内戦の大混乱に巻き込まれていた。1918年、この都市はまだボリシェヴィキに占領されておらず、君主制を支持する白軍の軍人や貴族の多くがここにたどり着いていた。

 『白衛軍』は、政治的事件の激震に襲われたトゥルビン家の物語だ。彼らの家は、戦争によって損なわれた過去の生活の、いわば最後の避難所になっていた。この家にはまだ客が訪れ、お茶を飲んだりしているが、世界はすでに変貌している――人々が、各人各様に新しい状況に応じることで。裏切り者になる者もいれば、逃げる者もおり、戦うことを望む者もいる。

 これは半ば自伝的な小説であって、ブルガーコフの家族は、トゥルビン家の人々のモデルになった。トゥルビンたちの家は、キエフにあったブルガーコフの家と明らかに似ている。

 『白衛軍』は1925年に出版され、同年、ブルガーコフはこの小説に基づいて戯曲を書いた。その戯曲『トゥルビン家の日々』は、ロシア内外の劇場で最も頻繁に上演される演目の一つになった。戯曲には反ボリシェヴィキの将校たちが登場するが、スターリンはこの芝居が気に入り、数回観劇している。

2. 短編小説『モルヒネ(若き医師の手記)』

 若い医者が田舎の村にやって来て仕事を始める。彼はまだ経験がごく浅いというのに、四肢切断や気管切開をしたり、子宮内で胎児の向きを変えるなど、非常に難しい処置を行わねばならない。

 この作品は、2013年にダニエル・ラドクリフ主演の連続ドラマ「若き医師の手記(ヤング・ドクターズ・ノートブック)」にとりあげられて、さらに人気を博した。

 ブルガーコフ自身が長年医師として働いていたので、これは実際のところ半自伝的な短編の連作になっている。ブルガーコフは、キエフ大学医学部を卒業した後、第一次世界大戦中に軍医を務め、その後スモレンスク県(現在は州)の小さな村に送られた。

 連ドラ「若き医師の手記」は、ブルガーコフの人気の高い短編、「モルヒネ」と関連した作品として言及されることがよくある。この短編では、若い医者が、モルヒネ中毒だった亡き友人の日記を見つける…。

 これは、ブルガーコフの、もう一つの伝記的モチーフである。ブルガーコフは、1917年にスモレンスク県で働いていたとき、ジフテリアの薬のアレルギーを緩和するためにモルヒネを用い始めたのだが、服用が頻繁になり、ついに中毒になってしまった。

3. 中編小説『犬の心臓』

 新生ソビエト国家の黎明期、モスクワの天才的な外科医、プレオブラジェンスキー教授(モデルはブルガーコフの叔父だと考えられている)が、奇想天外な科学実験を行う。彼は、野良犬を捕まえて、人間の脳下垂体と睾丸を移植するのだ。その結果、犬は人間の姿になるが…粗暴な酔いどれになってしまう。ところが、その犬・人間は、新しいソビエト社会にうまく適応してしまうのだ。

 ブルガーコフは、かつての「下層階級」の、かなり無教育な人々が突然、支配階級に成り上がったさまを皮肉っている。

 この作品は1925年に書かれたが、原稿は、ソ連の治安機関によって没収された。しかし1960年代に、「サミズダート」(地下出版)のコピーを介して、ソ連の知識人の間で回し読みされ、大きな波紋を呼んだ。

 『犬の心臓』が公式に出版されたのは、ようやくペレストロイカ期の1987年以降のことだ。

 『犬の心臓』は、ロシア人の間で大人気を博し、とくに見事な映画化のおかげもあって、この作品は広範囲に受け、そのセリフのいくつかは格言、アフォリズムになった( たとえば、「ということは、滅茶苦茶になっているのはトイレじゃなくて、人間の頭だということさ!」)。

4. 長編小説『劇場:故人の手記』 

 舞台はモスクワで、手記を書いた「故人」は、キエフ出身の作家・劇作家マクスドフだ。彼は、1930年代のモスクワの演劇界と文壇の楽屋裏を読者に垣間見せてくれる。彼はいくつもの関連機関に行き、自分の作品の刊行または上演を提案するが、検閲はそのいずれをも承認しない。

 この長編小説も、ブルガーコフの半自伝的作品だ。1920年代に、彼はモスクワに移り、やがて劇作家および演出家として働き始めた。彼の戯曲のいくつかはモスクワの劇場で大成功を収めたが、と同時に、多くの戯曲はソ連の検閲により禁止された。

 ブルガーコフは、彼を反ソビエト的だとして非難する御用批評家に苦しんだ。そして、しばしば働くことができなかったせいで、金銭上の問題を抱えていた。

 小説『劇場』のなかで彼は、エキセントリックな作家や舞台監督を嘲笑し、演劇に関係している役人たちをおちょくる。ブルガーコフは、自分が克服しなければならなかった試練をユーモラスに誇張しているが、しかし、こういう風刺は危険なので、すべての事件は架空のものだと彼は断っている。

5. 長編小説『巨匠とマルガリータ』

 舞台はモスクワ。2人の文学者がパトリアルシュ公園を歩いていたとき、見知らぬ、外国人らしき男に出会う。ところが、この知的な男は、まるで悪魔のように見えてくる。彼がモスクワに姿を現すや、信じ難いほど奇妙で不思議なことが起こり始めるからだ。彼の行為はあたかも、モスクワの人々に、モラルと真実をめぐる試練を与えたがっているかのようだ。

 一方、「巨匠」は、ナザレのイエスとポンティオ・ピラトについての小説を書いている。「巨匠」の小説は、この作品のなかに散在しており、いわばメタノベルとなっている。「巨匠」のライフワークは、新しい反宗教的なソビエト国家で批判されて、発禁処分となったので、彼は怒り、結局、精神病院に入れられる。彼を救うために、彼を愛するマルガリータは、悪魔との契約に署名することにした…。

 間違いなく、これはミハイル・ブルガーコフの最も有名な小説であり、ロシア文学で最もデモーニッシュな作品だと言っていいだろう。作者は、1920年代後半から1940年に亡くなるまで、この作品に取り組んだ。しかし、刊行されて日の目を見たのはようやく1966年のことで、しかもソ連当局の検閲により大幅に削除、改変されていた。

 専門家たちが言うように、この小説には多くの自伝的モチーフが織り込まれたり、反映したりしている。最も驚くべきことは、ブルガーコフの妻エレーナがソ連の秘密警察「KGB」と協力していたらしいことだ(夫を逮捕から救うことが、協力に同意した主な理由の一つだったろう)。彼女は、これが「悪魔との契約」として作品に反映されていることを承知していたが、愛する人を救うという大きな使命によりそれを正当化した…。

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