古いモスクワの景色を堪能できるソ連映画8選

 ここに描かれているようなモスクワの姿はもうない。しかしこれらの映画の中には、優れた建築物から独特の雰囲気まで、古いモスクワのよりよいところが封印されている。

1.「They Met in Moscow」(1941)

 イワン・プィリエフ監督のコメディ映画で、撮影は第二次世界大戦の開戦した後に終了した。しかしスクリーンには、明るい未来と愛、そして大々的に進められるスターリン時代のモスクワの建設が映し出されている。

 ロシアの地方にある集団農場で働くグラーシャと山村出身の羊飼いムサイブがモスクワにある全ソ連農業博覧会で出会い、恋に落ちる。2人は1年後に同じ場所で会う約束をするが、すべては計画通りには進んで行かず・・・。

 この映画でプィリエフ監督はスターリン賞を受賞。作品の中ではスターリンが銅像やレリーフといった形で何度も登場し、スターリンによる街の建築の再建が称賛されている。しかし映画は1960年代にスターリンへの個人崇拝を排除することを目的に、スターリンの銅像があるVDNKh(全ソ連博覧センター)の場面が削除されるなど、編集された。とはいえ、作品はそれでもスターリンの誇大妄想を感じさせる興味深い例の一つとなっている。

 2.「住所のない少女」(1957)

 大人気の新年映画「運命の皮肉」で知られるエルダール・リャザノフ監督による古典的なシチュエーション・コメディ。建設労働者のパーシカはモスクワに向かう列車の中で田舎娘のカーチャと知り合う。カーチャは女優になる夢を抱いてモスクワにやって来たのだが、ごった返す鉄道駅でパーシカに自分の住所の最初の文字しか伝えることができなかった。しかしパーシャはそれで諦めたりはせず、巨大なメガポリスで彼女を見つけようとするのだった。

 カーチャを探してパーシャは、広々としたメインストリートのトヴェルスカヤ通り、ノヴォクズネツカヤ通り、クズネツキー・モスト、ボリショイ・カレートヌィ横丁、スターラヤ広場、そして3つの鉄道駅の広場の愛称で親しまれているコムソモールスカヤ広場など、モスクワの美しい場所をあちこち歩く。1958年に公開されたこの映画は、3,650万人が鑑賞した。

3.「ミミノ」(1963)

 ゲオルギー・ダネリヤ監督は伝説的なこの映画のモスクワロケをソ連のホテル「ロシア」の中で撮影し、このホテルを永遠のものにした(現在このホテル跡地はザリャージエ公園となっている)。

 映画はミミノの愛称を持つヘリコプターの操縦士ヴァリコ・ミザンダリを主人公にした悲喜劇。ある日、トビリシの空港で美しいスチュワーデスを見つけたミミノは、彼女を追ってモスクワに行くことを決意し、そこで大きな航空会社に入ろうと考える。

 そして彼はソ連時代のモスクワのシンボルの一つである「ロシアホテル」にたどり着く。ホテルの廊下、客室、バンケットルーム、クレムリンが見えるレストランなどを歩いているうちにミミノは面白くも悲しい状況に陥っていく。1960年代、ロシアホテルは世界最大のホテルであり、モスクワ中心部になくてはならない建築物であった。

4.「私はモスクワを歩く」(1964)

 同じくゲオルギー・ダネリヤ監督作品のメロドラマで、有名な作家に会うためにモスクワにやってきたシベリア出身の青年ヴォロージャを主人公にした作品。多くの国で上映された。ミラノで上映された後、イタリアの新聞「イル・ジョルノ」はこの映画を、「軽快で、機知に富み、楽観主義に溢れた作品だ」と評した。

 河岸通りのパノラマ、モスクワ地下鉄、モスクワ大学の建物、そして雨の中を裸足の少女が散策する有名な場面の舞台となったゴーリキー広場。これらすべてが「私はモスクワを歩く」に登場する。今なおこの作品は街の香りを視覚的に伝えるヌーヴェルバーグ的傑作と言われている。

5.「7月の雨」(1967)

 フルシチョフの雪解け時代の晩年に撮影されたマルレン・フツィエフの作品で、30歳を目前し、人生に何を求めているのかを考察する技師のレーナと若き研究者ヴォロージャの物語。安定した仕事も結婚も素晴らしい人生に必要なものではないと感じ、価値観の見直しを迫られる。

 中年の危機を描いたこのドラマは1960年代の傑作の一つとされている。7月の雨に降られるモスクワは、単に物語が展開される場所ではなく、登場人物と同等の存在となっている。街の風景は次第に広がっていく主人公たちの間の距離を埋めていく。しかし映画のモスクワに陰鬱さはない。ロマンティックなこの街は変化と明るい未来のメタファーとなっている。

 フランスのヌーヴェルバーグを思わせるこの作品は、雪解け時代を映す鏡のようなものだと評されている。

6.「Three Poplars in Plyushchikha」(1967)

 こちらも地方からモスクワに出てきた女性の話。ニューラは2人の子供を育てる母親で、ハムを売るためにモスクワにやってきた。最初に彼女と出会うのはインテリのタクシードライバー。偶然の出会いにより、ニューラは人生と将来の計画を深く見つめ直すことになる。

 タチヤナ・リオズノワ監督のこの作品でも、ポストカードのようなモスクワの美しい景色がふんだんに登場する。朝のモスクワのパノラマから始まり、ゴーリキー公園のそばの埠頭が映り、クルィムスキー橋、フルンゼンスカヤ河岸、ルビャンカ広場、デパート「ジェツキー・ミール」が映し出され、また遠方には有名なホテル「インツーリスト」の建設風景も映り込んでいる。

7.「モスクワは涙を信じない」(1979)

 地方出身の3人の少女が愛と幸せと富を探しにモスクワに移り住む。しかし誰も何もかも一度に手にすることはできない。ある日、そのうちの2人が、スターリン様式の高級アパートに住む教授の娘のふりをしようと持ちかけたことから、さまざまな問題が起こり始める。

 1950年代のモスクワを描いたもっとも有名でもっとも甘いストーリーを持つ映画。ウラジーミル・メンショフ監督作品。映画の中では、愛らしい並木道や美しく飾られたショーウィンドー、夜のトヴェルスカヤ通り、マヤコフスキーの銅像の下での詩の朗読、そしてもちろん伝説的なスターリン建築など、モスクワが快適かつコンパクトに描かれている。1981年、作品はアカデミー賞最優秀外国語映画賞を受賞したが、現在でも旧ソ連諸国では非常に人気がある。

8.「ポクロフの門」(1983) 

 1950年代のモスクワへの郷愁を誘う1作。主人公のコースチク・ロミンも、ポクロフの門のそばにある古い住宅が撤去されるのを見つめながら、自分の青春時代を思い出している。ここにはモスクワに来たころに住んでいた共同住宅があった。

 ミハイル・コザコフ監督は、蜂の巣のように騒がしく、奇妙なことがたくさん起こる共同住宅の環境をロマンティックに描き、またモスクワの“ご近所づきあい”の在り方を再現している。映画にはソリャンカ、モスクワ大学の本館、パシコフ邸、郊外の高層住宅、クレムリンなど、モスクワのほぼ全域が映し出されている。 

 一口メモ:主人公が懐かしむナショーキンスキー横丁10番地の家は大々的に修復されているが、まだ撤去されていない。

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