「黒澤明は私の師の一人」

アンドレイ・コンチャロフスキー監督=

アンドレイ・コンチャロフスキー監督=

キリル・カリンニコフ/ロシア通信
 ロシア映画界の重鎮、アンドレイ・コンチャロフスキー監督(79)が、ロシアNOWのインタビューに応じた。日本文化からどんな影響を受けたか、ロシア文化フェスティバル「ロシアの季節」をなぜ今世界各地で開催すべきなのか、日本人におすすめのイベントは何かなどについて、監督は語ってくれた。

 6月4日(日曜日)、世界にロシア文化を紹介する「ロシアの季節」が東京で開幕。荘重な開会セレモニーで、安倍晋三首相とオリガ・ゴロデツ・ロシア連邦副首相が祝辞を述べた。その後、観客は、ボリショイ・バレエ団による、伝説的バレエ「ジゼル」を鑑賞した。5日にはコンチャロフスキー監督の映画「天国」が特別上映される。この映画は、ヴェネツィア国際映画祭で銀獅子賞を受賞している。ロシアNOWは、同監督にインタビューし、日本文化から自身の映画芸術に受けた影響、19世紀ロシア文学、音楽などをはじめとするロシア文化の普遍性、ヨーロッパ芸術が日本芸術から学び得ることなどについて、話を聞いた。

 

5日に監督の映画『天国』が特別上映されます。その主なテーマはホロコーストですが、この問題は日本では西欧ほどは広く論じられていないようです。映画は日本の観客の理解を得られるでしょうか?

 これはもちろん、ホロコーストに関する映画というわけではありません。そう言ってしまうのは皮相な見方でしょう。これは、ホロコーストではなく、善と悪の相対性についての映画なのです。ですから、人類最大の迷妄に関する映画と言っていいでしょう。つまり、どこかに地獄を生み出すことなく天国を建設できる、という幻想ですね。だから、このテーマは、どの国民にも身近なものだと思いますし、日本人にもそうでしょう。なぜなら、日本人にも、その意味での幻想、迷いがあったからです。

 

―この映画はどの国民にも理解されるはずの普遍的なものだということですか?

 自分の口からそうだとは言えませんが、概して良い映画というものは普遍的であるはずですね。

『天国』= 写真提供:kinopoisk.ru『天国』= 写真提供:kinopoisk.ru

 

―黒澤明と一緒に映画を製作したことがあると前にお話になりましたね(1985年に、黒澤明の原案にもとづき、アメリカで『暴走機関車』を製作――編集部注)。黒澤とのコラボからどんな印象を受けましたか?

 黒澤は私にとって、20世紀最大の芸術家の一人ですが、単に映画監督としてそうであるばかりでなく、思想家としてもそうなのです。私は多くのことがらを黒澤に負っています。もし私がこれまでに何かを学び得たとするならば、彼は確かに私の師の一人です。

 

―また日本の芸術家たちと一緒に仕事してみたいと思われますか?

 そういう希望はいつでもありましたし、決してなくなることはないでしょう。でも、「ええ、もちろん」と簡単には答えられないです。いろんなテーマがたくさんありますから。日本の劇場となら、喜んでコラボしたいですね。

 

―ご承知の通り、日本人はロシア文学の古典的名作をとくに愛好しており、劇場をはじめとして、しばしば新たな演出がなされています。日本であなたのミュージカル『罪と罰』を上演するご希望はありませんか?

 ええ、そうですね。でも、ミュージカルだけでなく、私のチェーホフ三部作も上演してみたいです。来年、『三人姉妹』、『ワーニャ伯父さん』、『桜の園』を公演できることを切望しています(モスソヴェート劇場で上演されている、チェーホフの戯曲の、コンチャロフスキーによる演出――編集部注)。でも、これはロシア文化省しだいですが。

ロック・オペラ『罪と罰』

 フョードル・ドストエフスキー『罪と罰』にもとづくロック・オペラを上演するアイデアは、コンチャロフスキーはすでに70年代から温めていた。台本は、コンチャロフスキーが詩人ユーリー・リャシェンツェフ、演出家マルク・ロゾフスキーと共同で執筆。音楽は、作曲家エドゥアルド・アルテミエフが書いた。初演されたのはようやく2016年、名作の刊行150周年のことであった。

『天国』= 写真提供:kinopoisk.ru『天国』= 写真提供:kinopoisk.ru

―なぜロシア文学の古典はこんなに日本で反響を呼ぶのでしょう?

 それが反響を呼ぶのは日本だけではありません。ヨーロッパ文化、東洋文化にも多くの点で影響を与えています。なぜなら、それは普遍的な価値をもっているからです。もっぱらそのためです。とくに日本人の感受性が鋭いから、というわけではありません。ただ、日本が開国したのはやっと19世紀半ばのことですから、日本人にとってロシア文学は大きな発見だったのです。トルストイもドストエフスキーもそうですね。ちなみに、黒澤はゴーリキーとドストエフスキーにもとづく映画を撮っています。ロシア文化の普遍性のなせるわざで、これは理解できることです。概して偉大な文化は普遍的であり、すべてのロシア文化がそうだというわけではありません。トルストイ、チャイコフスキーをはじめとする、ロシア文化を代表し、かつその性格を規定しているような人々が、日本でとても愛好されているのはそのためです。だから、日本での彼らの人気は別に驚くべきことではありません。彼らはそれに値する人たちなのです。

 

 ―あなたはあるインタビューで、芸術の面でイタリアの影響を強く受けたとおっしゃっていました。あなたの次作『罪』は、イタリアの大芸術家ミケランジェロに関するものです。同じように、日本もあなたに影響を与えたと言えますか?

 もちろん、日本がヨーロッパの芸術家に影響を与えないはずがありません。とくに日本の哲学である禅、そして極小のものから最大のものを引き出す技ですね。日本の美学とは、こうした極度の簡素化、簡潔化であり、巨大な成果を出すミニマリズムです。これは重要なことで、とくに欧州文化にとってはそうです。欧州文化は「バロック」つまり「過剰」が持ち前ですから。

 

―つまり、ヨーロッパ人は日本にミニマリズムを学んでいるわけですか?

 そうですね。 学んでいる人も、学ばない人もいますけど。

 

―なぜ他ならぬこの時に、日本で「ロシアの季節」が開催されたと思いますか?

 今開催されてよかったですよ。まあ、去年でも同様の意義があったでしょうが。とにかく今年開催されてよかったです。とくに、現在世界中でロシアのイメージがひどく歪められて伝えられていることを考えるとね。世界のマスコミはそういうトレンドなのです。ロシアについては悪口しか言わないのですね。だからこそ、実際のところ我々ロシア人が何をなし得るか、日本人に見てもらうことがとても大切なのです。