「プーシキンのおとぎ話」
=Lucie Jansch/ロシア国立劇場撮影2016年の夏、ロンドン市民にすばらしい劇作がもたらされた。150年前、フョードル・ドストエフスキーが書いた古典的名作『罪と罰』が、英国人演出家フィル・ウィルモット氏の手により、本物のロックミュージカルとして舞台化されたからだ。
ウィルモット氏が演出したバージョンでは、主人公のラスコーリニコフは、罪の意識に悩まされる暗いキャラクターというよりは、真実と信念のために闘うヒーロー的存在となっており、彼の自由と幸福追求の道を(彼が殺害する)高利貸しの老婆が遮ることを快く思わない。
ロンドン市、罪と罰の野外ロックオペラ=Press photo
ドストエフスキーが描いたラスコーリニコフは、殺人を犯したことによる恐怖に苛まれるのだが、ウィルモット演出のキャラクターはより攻撃的で、ロックバラードや、ほとんどコメディの領域に属すと思われるようなシーンを通じて自らの感情を表現することを厭わない。あるエピソードでは、頭が血まみれになった醜い老婆の群衆がラスコーリニコフの周りで踊り、彼を狂気の寸前まで追い込む。
ラスコーリニコフの愛情の対象となるソーニャ・マルメラードワは赤毛のレイチェル・ドゥルーズが演じ、ロックオペラ『ジーザス・クライスト・スーパースター』に登場するマグダラのマリアや、『ゲーム・オブ・スローンズ』のサンサ・スタークを彷彿とさせる。
この作品は、有名な舞台監督のロバート・ウィルソン氏とモスクワのロシア国立劇場のコラボレーションだ。ウィルソン監督のプロダクションは、これらの民間伝承の物語の伝統的な解釈からはかけ離れたもので、イワン・ビリービンによる有名なイラストを見た後は特に、人々の想像力をかき立てるものだ。
プーシキンのおとぎ話=Press Photo
伝統的なロシアのツァーリや白鳥に変身した娘といった登場人物はいない。ウィルソン監督による他のすべてのプロダクションと同様に、これらの登場人物は芸妓のように顔を真っ白に塗った奇抜な姿をしている。
東洋風のモチーフが用いられ、アメリカ人デュオのココロージーによるラップの要素を含む音楽が流れる。その雰囲気は、プーシキンのおとぎ話について連想するようなものでないことは明らかだろう。
ロシア人ならほぼ誰でもプーシキンの物語全作をほとんど逐語的に知っているものなのだが、ウィルソン監督はプロットを部分的に無視しているため、何が起きているのかがよく分からない。彼は物語の進行のペースをグロテスクとも言えるほど完全に書き換えており、新しいリフレーンとたっぷりのユーモアを盛り込んでいる。
国立劇場の監督で著名な役者でもあるエヴゲニー・ミロノフ氏も、ナレーターとしてこの制作に携わっている。
このトルストイの小説は30回以上も映画化され、バレエにもなったほか、何十回も舞台化されている。
この小説が人気である秘密の一つは、ラブストーリーや不倫、子どもといった、生きている時代や場所に関係なく共通するテーマを扱ったプロットにある。
アンナ・カレーニナを演じるワレリア・ランスカヤ=Press photo
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モスクワ・オペレッタ劇場も、ロシアで最も愛される小説のひとつを珍しい様式で制作した。この新作ミュージカルの主人公は列車だ。この作品は冒頭ではヘッドライトで観客の目をくらませ、フィナーレではアンナがこの列車にひかれる。夜を通して天井から吊された巨大な車輪が回転する。それは避けられない邪悪な宿命を思い起こさせるものだ。
このミュージカルの出来事は、生演奏のオーケストラを背景に繰り広げられる。評論家はこれを「交響的なロック」と表現する。
このミュージカルはまだモスクワで公演されている。
アントン・チェーホフは、その作品が世界で最も舞台化されている作家のひとりで、その数において彼に優るのはウィリアム・シェークスピアくらいだろう。スイス人舞台監督のダニエル・フィンジ・パスカ氏は、ローザンヌのヴィディ劇場と共同で、新しい視点からチェーホフの作品を解釈した。
「ドンカ」は深水の釣りに使う釣り竿で、パスカ監督はそれを使ってチェーホフの物語からキャラクターを「捕まえて」舞台に登場させる。作品はチェーホフの日記やメモに基づいており、同監督はその内容を「道化師の言葉」に翻訳した。
『ドンカ』アクロバティックなチェーホフの舞台化=ウラジーミル・ヴャトキン/ロシア通信撮影
「メモや日記の中の空白に肉付けしたり、彼の注釈からイメージを創造しようと思いつきました」とフィンジ・パスカ監督は説明する。「私はこれまで、道化師や曲芸師の言葉を多用した演出や、アクロバットの世界がもたらすデリケートで魔法のような制作を多く扱ってきました」
このプロダクションは、2009年にモスクワで開催されたチェーホフ国際演劇祭で初演され、ヨーロッパ各地の複数の劇場でも公演された。
これは日本人演出家、平田オリザ氏による試験的戯曲作品だ。役者に加えてロボットも舞台に登場する。
アンドロイドが登場する『三人姉妹』
これにあたり、平田氏は脚本を一から書き直した。すべての登場人物は日本人名に改名され、場面設定は巨大なロボット製造工場になっている。姉妹のうちのひとりが亡くなり、アンドロイドロボットに置き換えられる。
2013年に平田氏はこの作品をモスクワで公演し、ロシア人観客の反応を楽しみにしていた。「モスクワ24」放送局は、観客の反応は良好で、ロボットの登場を楽しみ、この演出にチェーホフの精神が活かされていると感じた、と評している。
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