アレクサンドル・セルバーク撮影/コメルサント紙
「日本の秋」は、在ロシア日本大使館、ジャパンビジネスクラブ、日本センターの主催で、毎年、日本文化を紹介するために開催されるが、今年は、オープニング・イベントでいきなりモスクワっ子の度肝を抜くことなった。
日本人は、他の国が考え出した最良の事物に、何か自分のものを融合させるのが好きだ。チェーホフも大のお気に入り。
劇作家で劇団「青年団」を主宰する平田オリザ氏は、単に『三人姉妹』を上演するだけでなく、それを今の現実に適合させた。舞台は、日本の地方都市に移され、軍人は学者に置き換えられた。プロゾロフ家の三姉妹は、生涯をロボット製作に捧げた、今は亡き学者の娘という設定だ。同家にやって来る客たちも、軍人ではなく学者である。
チェーホフの原作のセリフも、ことごとく改変された(もっともそれと分かるモチーフはある――例えば街の火事だ)。早い話、“アンドロイド版”と原作の間に、直接的なアナロジーは求めないほうがいい。
三女イリーナはアンドロイド
とはいえ、三姉妹はやはり登場する。長女は学校教師で、次女は学者と不幸な結婚生活を送っており、三女はただもう不幸せなのだが、この舞台で一番面白いのは、まさにこの三女なのだ。
というのは、現代の客間を表しているパビリオンに、やおら三女が登場する場面で、実際に舞台に現れるのは、人間ではなく、車椅子に座ったアンドロイドだからだ。
平田氏は、ロボット工学者の石黒浩・大阪大学教授と緊密に協力している。石黒氏は、人間そっくりのロボット「ジェミノイド」の製作で、世界的に知られる。今回のアンドロイド版『三人姉妹』も、二人の協力の一環として生み出された。
「私たちは、アンドロイドが“演ずる”新しい劇場を立ち上げることができました。時には人間より魅力的ですよ」と石黒氏は胸を張る。
その魅力について云々するのは難しいが、この“人間もどき”が、合成された声でしゃべりだしたときは、観客たちは口をあんぐり開けていた(このロボットが、自分の性格らしきものを現すのは、もっぱらこの声を通じてのみだ)。
実は死んでいた・・・
もう一つ仰天させられたのは、実は、この三女はとっくに死んでいたという設定だ。亡き父が、娘と寸分違わぬコピーを作り、それがずっと家族と暮しているという次第。
さて、このアンドロイドの傍には、これに比べると影が薄いが、もう一つ、人間の叡智の落とし子が控えており、芝居に加わっている。それは“召使ロボット”で、原作のフェラポントとアンフィーサに代わる存在だ。
この歩くキャビネットは、自分で料理もできれば、店に買い物にも行き、自分と同類のロボットと会うと、おしゃべりを始める。
ちなみに日本では、人間の形をしたこの種のロボットが、3年前から販売されており、病人の看護などに役立つことを期待されている。
要するに、この舞台で面白いのは、原作の解釈などではなく、現代世界におけるコンピュータと人間の関係なのだ。
とはいえ、芝居は芝居だ。アンドロイドがいようがいまいが、そして、たとえロボット時代であれ何であれ、人間の日々の暮らしと家庭の秘密は、やはり興味をそそる。
「気をつけないと、あなたもアンドロイドにされちゃいますよ」
芝居がはねると、筆者は楽屋に行き、アンドロイドに会わせてもらった。確かに面白いが、不気味でもある――将来の演劇も自分自身も、そして文明も。
この日本のイリーナ嬢は、筆者をじっと見つめ、まばたきし、まぶたを震わせながら、口元をほころばせ、微笑した。
多分、この芝居の最も重要なセリフは、「気をつけないと、あなたもアンドロイドにされちゃいますよ」という警告だ。これは、芝居の後も、筆者の脳裏にこびりついていた。
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