『アンナ・カレーニナ』がミュージカルに

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 ロシア古典文学のラブストーリーは、うまく西側のエンターテイメント形式のものになったのか?

 「幸福な家庭はすべてよく似通ったものであるが、不幸な家庭はみなそれぞれに不幸である」。これは多くの人が暗記しているレフ・トルストイの長編小説『アンナ・カレーニナ』(1875−1877年初版)の冒頭部分である。

 この愛の悲劇は30回以上にわたって映画化され、演劇やバレエ作品としても上演されてきた。そしてこのロシア古典文学の大作がついに同名のミュージカルとなって、音楽と詩という形で上演された。制作、上演したのはモスクワのオペレッタ劇場で、初演は10月に行われた。

 

純粋なロシアのミュージカル

 『アンナ・カレーニナ』はこの劇場で制作された3作目の純粋なロシアのミュージカルとなった。プロデューサーのアレクセイ・ボロニン氏はここ数年にわたり、西側のライセンスミュージカルの上演を行ってきた人物だ。2000年代初頭にはボロニン氏の協力の下、『メトロ』、『ノートルダム・ド・パリ』、『ロミオとジュリエット』がロシアで上演された。ボロニン氏は当時を回想して、「あの頃ロシアにはまだミュージカルという文化がなく、ミュージカルという言葉自体、観客には違和感がありました。しかし今はミュージカルというジャンルに対する理解も深まりました。そこで何か自分たちで新しいものを作ってもいいのではないかと理解したのです」と話す。

 新しいミュージカルの主役は汽車である。開演後すぐに汽車が観客に向かって眩しい光を放ち、フィナーレではカレーニナが汽車の下へと姿を消す。ステージでは天井近くに固定された巨大な車輪が回りつづけ、運命と不幸な宿命をイメージさせる。これらすべてが生のオーケストラが演奏する「シンフォロック」の音楽に乗って展開される。シンフォロックというのは音楽評論家たちが名付けたこのミュージカルの音楽スタイルだ。

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舞台で古典を扱うブーム

 「トルストイの長編小説は他のどんな小説よりもミュージカルに適しています。小説の中にあらゆる要素が含まれているからです。特に重要なのは人間関係、そして愛の物語です」。ミュージカルの題材にこのストーリーを選んだボロニン氏はこう説明する。「もちろんわたしたちは哲学的な意味を掘り下げることはできません。ミュージカルはそういうジャンルではないからです。しかしトルストイらしさはシナリオに反映されていますし、詩の中でも表現されています。小説からそのまま引用している部分もあります」

 レフ・トルストイの作品を下敷きにして、プロデューサーらは演劇の舞台で古典を扱うというここ数年のロシアの演劇界のトレンドに乗った。2014年、サンクト・ペテルブルグ・ミュージックコメディ劇場ではブルガーコフの小説『巨匠とマルガリータ』のミュージカルが上演され、また昨シーズンにも同じ劇場のミュージックホールでアレクサンドル・プーシキンの韻文小説を基にした『オネーギン』が上演された。さらにモスクワでも2016年に、フョードル・ドストエフスキーの生誕150年に合わせ、モスクワ・ミュージカルシアターで小説と同名のロックオペラ『罪と罰』が上演された。

 

歌だけでなく、ドラマがある

 『アンナ・カレーニナ』には一見、『オペラ座の怪人』や『キャッツ』のようなすぐにそれと分かる耳馴染みのよい軽快なメロディはないように感じられる。しかしカレーニンが静寂の中で息子に歌う子守唄、また乗客が持っているのは片道切符であると注意を促す駅の検札係のパートは印象的だ。そしてそれぞれの歌に込められた深いドラマがある。これこそがロシアのミュージカルと西側のミュージカルとの大きな違いである。

 ボロニン氏は「ロシアは演劇大国です。ステージには世界でもっとも有名な演劇学校を卒業した俳優たちが出演しています。ですからロシアのミュージカルは歌だけでなく、完全なドラマ演劇なのです」と語る。少なくとも、それを見るためにこのミュージカルに足を運ぶ価値はありそうだ。

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