ネコのバユン。著書「ロシアの民話」(1985年)、K.クズネツォフのイラスト
ロシアの民話に登場する神秘的な生き物。魔法の声を持ち、この声でどんな病気も治すことができる。 しかし実際には余計な面倒を起こし、彼らを食べてしまうことの方が多い。
狡猾な指導者が気に入らない主人公を死なせるために、わざとネコを捕まえさせに行くこともある。この奇跡のネコに勝つことができるのは、音を聞こえにくくし、爪から身を守ることができる鉄のとんがり帽子(できればいくつか)を被った者だけである。
D.バツーリン。棺桶「物語の主人公の間A.S.プーシキン」。テンペラ、金、張り子、ラッカー、1934年、パレフ=Global Look Press
アレクサンドル・プーシキンの物語詩「ルスランとリュドミラ」に出てくるネコのバユンの遠い親戚である。黄金の鎖で巨大な樫の木に繋がれていて、右に行けば歌を歌い、左に行けば物語を聞かせてくれる。このネコについての描写には数行しか費やされていないため、我々がこのネコについて知りうるのはこれだけである。
しかしこれは、ロシアの全ての子供たちがこのネコを知るのに十分な情報である。なぜならプーシキンは「我々のすべて」であり、ロシア人が「ロシアでもっとも有名でもっとも愛される詩人」と呼ぶ人物なのだから。
ネコのベゲモート=エレーナ・マルテニュック・ブルガーコフ博物館
ミハイル・ブルガーコフの小説「巨匠とマルガリータ」の登場人物ヴォランドの手下で、巨大な黒猫。そのカリスマ性と茶目っ気、金言で皆に愛される典型的な国民的トリックスターである。ロシア人と一緒にテーブルを囲むチャンスがあれば、「わたしがご婦人にウォトカを注ぐなんてことができようか。これは純粋なアルコールですよ」なんてフレーズを耳にすることもあるかもしれない。あるいはロシア人の友人が自分の身に降りかかった予期せぬ悪い出来事について話すときにはベゲモートが好んで使っていた「座って、誰の邪魔をすることもなく、石油コンロを修理していると・・・」と話を始めることもあるかもしれない。
ネコのマトロスキン=Global Look Press
「あなたもオープンサンドを食べるとき、ソーセージを下にするのですね。あるネコがその方がおいしいと言ったからでしょう」。インターネット上で見るこのジョーク、子供のころにプロストクワシノ村を舞台に繰り広げられるアニメを見た人なら誰でも笑ってしまうに違いない。
言葉を話す宿なしのネコと、独立心旺盛なフョードルおじさんというニックネームを持つ男の子との友情は、正しいオープンサンドの食べ方についてのこのセリフ(ソーセージが舌に直接当たるようにパンを上にソーセージを下にして食べる方がおいしいというもの)で始まる。マトロスキンは滑稽なほどの節約家で理性的、家では家計を切り盛りしている。ときどき彼が家長なのではないかという気がするほどだ。刺繍とミシンがけが得意で、ギターも弾く。
ネコのレオポルド。ソユーズムリトフィルム、1970年代=ロシア通信
アメリカのアニメ「トムとジェリー」ではいつもネコのトムがネズミのジェリーを追いかけているが、ソ連版ではすべてが逆である。レオポルドは典型的なインテリ。蝶ネクタイをつけ、酒は飲まず、タバコは吸わず、声を荒げることもない。そして自らの人生のモットー「みんな!仲良く暮らそうじゃないか!」を繰り返し口にする。
しかしすべてのネズミ族の復讐に燃える2匹のいたずらネズミたちは彼に穏やかな生活をさせてはくれない。常に嫌がらせをするのである。しかしネズミたちは頭が弱いため、この嫌がらせに自ら引っかかったり、結局はレオポルドに助けてもらったりするのである。
ガフという名のネコ=Global Look Press
−あっちには行かない方がいいよ。いやなことが待ってるから。
−それなら行かなくちゃ。だって待ってくれているんだから!
これはガフ(ロシア語の犬の鳴き声)という変わった名前を持つネコの性格をこれ以上ないほどうまく表現する会話である。ガフは寛大で勇敢で(ただしときに友人と一緒に天井裏で雷を怖がったりもするが)、変わった出来事に遭遇する希少な才能を持っている。おそらくソ連アニメの中でもっとも感動的な登場人物の1人であろう。
サンクトペテルブルクのネコ=PhotoXpress
サンクトペテルブルクの人々は盲目的にネコを崇拝しており、街では信じられない数のネコのお土産が売られている。マグネット、ポストカード、Tシャツ、傘とその種類は枚挙にいとまがない。そのデザインも様々で、ネコはそのグッズの中で、地元のサッカークラブ「ゼニト」を応援していたり、ギターを弾いていたり、プーシキンと会話していたり、虫捕り網で飛んでいる天使を捕まえていたりする。それらの背景に描かれているのはいずれもペテルブルクの美しい風景である。
サンクトペテルブルクの人々がこれほどネコを愛するのも驚くべきことではない。60万人以上の市民が飢えのために亡くなったレニングラード封鎖(1941-1944)のときにネコがほとんど消滅し、街にはネズミが溢れた。その解決法として5000匹のネコを街に投入するという特別な政令が出され、それにより街はネズミから救われることとなったのである。もっとも熱狂的なネコマニアは「ネコ共和国」というカフェ・ミュージアムに通う。このカフェ・ミュージアムには25匹のネコが住んでいて、ネコの通貨まである。
エルミタージュのネコ=Legion Media
サンクトペテルブルグの主要な美術館であるエルミタージュでは毎年春になると一風変わった日が祝われる。「エルミタージュのネコの日」である。美術館の職員たちはフワフワの「同僚」を「エルミキ」と呼んでいる。ネコたちは地下でネズミを捕まえるだけでなく、エルミタージュのお守りとなっている。
美術館のミハイル・ピオトロフスキー館長によると、エルミタージュのネコに関するリポートや記事は、レンブラント作品に関するそれに負けないほど作られているという。エルミタージュの予算案に動物飼育のための特別な項目はないが、ネコのための寄付金を集める特別口座がある。この口座に常に十分な資金が入っていることは言うまでもない。どのネコもお腹いっぱい食べ、予防接種を受け、清潔に保たれている。ネコたちはそれぞれ自分のパスポートに餌のボウル、寝床、そしてトイレを持っている。
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