大草原のクムィス農家の一日

Shutterstock
 「アジアの中心」、アルタイ共和国のゴルノ・アルタイスク市で、カザフ人のクムィス(馬乳発酵飲料)農家の一日を取材した。

ステップの中にのびる国道

 アルタイ共和国の行政中心地ゴルノ・アルタイスク市を通る国道R256号線(チュヤ国道)。道路のわきには土産物を旅行者に販売するテントが並び、低木が生い茂っている。灰・青緑色のアルタイ川に沿って急な曲がり角が出現するシベリアの「ジェットコースター」、チュヤ国道を、ずっと進むと、やがてチュヤ・ステップに囲まれ、穏やかで温かな瞑想の旅に変わる。

 自動車も、旅行者も、木もない。堅く乾燥した茂みのあるステップの中を、アスファルトの道路が果てしなく続く。この景色を唯一さえぎるのが山脈。7月。ザバイカリエ出身の遍路ラマ僧で写真家のダバさんと一緒に自転車で走りながら、黄色いチュヤ・ステップを見る。行き先はカザフ人のクムィス(馬乳発酵飲料)農家。

 ゴルノ・アルタイスク市の住民は主にアルタイ人とカザフ人。カザフ人はすでに1世紀半、アルタイ地方に暮らしている。住民は夏場、ステップに滞在して、家畜の世話をしたり、クムィス農園で働いたり、他の労働をする。カザフ系のカラノフ家はジャナ・アウル村に暮らし、夏になると親戚と一緒にステップの居住地に行く。ラクダやその世話をする牧人を管理し、クムィスをつくる。一家は黄色いステップの中にたたずむ家に滞在する。家を遠くから見ると、カンザス州のエリー・スミス(「オズの魔法使い」のドロシー・ゲイルのソ連版)の家のように見える。風が吹くと、住民ごと飛ばされそうだ。

 

クムィスを求めて

 「クムィスですか」と家の主人ジャンボラトさんは言いながら、カザフ式に食卓へと招く。私たちは、クムィスを入れるペットボトルでいっぱいになったリュックサックを部屋に置いて、低い円卓につく。奥さんのアイトルィクさんは鍋から、大きな茹で羊肉のかたまりとジャガイモを半分すくって、皿に盛り、バウルサク(揚げパン)とダイオウのヴァレニエ(果実煮)を運んでくる。家族、甥などと、大勢が円卓に集まってくる。

 「1990年代にコルホーズとソフホーズが崩壊して、残った家畜は数少なくなった。羊、馬、ラクダ、サルルィク(カザフ人はヤクをこう呼ぶ)ぐらいで。それでクムィスづくりをしようと考えた。うちのは今、この地区で唯一認定されているクムィス。旅行者や地元の人が入手するためにひっきりなしにここを訪れている」とジャンボラトさん。

 ジャンボラトさんがクムィスを注いでいく。ダバさんは酒を飲まない。クムィスは発酵しているため、1~3度のアルコール度数がある。「(クムィスを)飲んでいるけどゆっくりとね。特殊な飲み物だから」

 ごちそうになった後、私たちはアイトルィクさんとその子ども、馬群看視人のボラトさんと一緒に、馬小屋に行く。一家は朝8時から夜中まで2時間おきに搾乳する。1回で10リットルほどを取ることができる。温かくて少し甘い牛乳を、特別な樽に入れて、棒でかき混ぜ、発酵させる。

 ジャンボラトさんは決して誇張していなかった。クムィスを求めて毎日人がここに来る。ジャナ・アウル村の老夫婦や若者など。若者は結婚式用にクムィスを注文する。見ている限り、ワイン、コニャック、ウォッカよりも人気があるようだ。あとはクムィスをゴルノ・アルタイスク市で販売する卸売業者。

 購入者が来ると、家はあわただしくなる。アイトルィクさんと娘は容器にクムィスを注ぎ(酸味のあるアルコールのにおいがペチカのある作業部屋に充満する)、息子と甥はラベルを貼って注いだ日付けを入れ、ジャンボラトさんは作業を管理しながら、円卓に購入者を招き、ごちそうする。 

 

孤独なラクダ

 購入者が去ると、とたんに静かになる。馬はそれぞれの馬房で鼻息をだし、牛の群れはステップをゆっくりと移動する。ジャンボラトさんはくつろぎ、アイトルィクさんはできたてのバウルサクを集め、若い者たちはスマートフォンをいじりながら、画像投稿サイト「インスタグラム」で画像を共有する。

 ラクダがポツンと、外の静止画のような風景の中で、歩いている。カラノフ家は肉、羊毛などを目的に、また「エキゾチック」であるためにラクダを飼っているが、他のラクダは山で他のカザフ系家族に見守られている。このラクダは主人と一緒にいる。というのも、牛と一緒に育ったために、自分を牛だと思い、他のラクダと生活できなかったのだ。他のラクダとは異なり、人に慣れている。逃げたり、鼻息を荒くしたり、ツバを吐いたりせず、なでても嫌がらない。

 太陽が沈む前に、一家は家の近くでバレーボールをする。1セット目は女子チームがサーブを失敗してコートの外にだしたりし、男子チームの勝利となった。だが2セット目は女子チームがパスやトスを上手にやって勝利した。大笑いする試合は、長い「クムィス」の一日の報酬である。

もっと読む:

アルタイ山脈の“雲上の旅”>>

アルタイ山脈を満喫できる10点の写真と10の道>>