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化学兵器は、どこにどのような形で保管されているのか?砲弾にか、「グラード」システムのロケットあるいは戦術および移動式戦術ミサイルの弾頭にか、はたまた、戦闘機の翼の下に吊るすことのできる樽かタンクにか?これについての正確な情報はなく、検証が必要だが、時間がかかる。
こんな問題もある。シリアは、自国の化学兵器を国際的な管理下に置くことに同意したが、だれがどのようにそれを実行するのか? ロシア、アメリカ、NATO加盟国、アラブ諸国、それとも、中国? しかし、シリアの内戦および宗教対立に対する見方が分かれ正反対なこともある国際社会は、そうした同意に応えられるのか?
もっと大きな問題もある。仮に、各国が合意に至り(かなり長い時間を要するが)、シリアの化学兵器が管理下に置かれた場合、それを廃棄するための拠点が建造されなくてはならない。化学兵器を海洋に投棄したり、焼却したり、どこか化学兵器処理の経験と能力をそなえたところへ運び移すことは、非常に危険であり、しかも、戦時中とあれば狂気の沙汰だ。
「化学兵器禁止機関(OPCW)が担当するしかない」
ロシア緑十字の専門家で、水没した化学兵器や化学面の安全に関する国際学術諮問評議会のメンバーであるアレクサンドル・ゴルボフスキー氏の考えでは、自国の化学兵器を国際的な管理下に置くことに同意した後にシリアが真っ先になすべきことは、化学兵器禁止条約に署名し、所定の手続きに従ってすべての化学兵器を化学兵器禁止機関(OPCW)の管理下に移すことであり、この組織は、それらの保管とその後の廃棄に対する責任を負う。
かつて国防産業相やロシア弾薬局長官を務めたジノヴィー・パク氏も、ゴルボフスキー氏と同じ意見だ。「シリアの化学兵器の国際的な管理下への移行が完了するのは、それらの兵器がすべて申告されたと承認されるときであり、少しでも疑念が残るならば、果てしなき議論を招き、再び脅威が訪れるだろう」。
パク氏はこう続ける。「プロセスは長引くだろうが、このプロセスが双方による大量殺戮を阻止できるなら、願ったり叶ったりだ。おそらく、それは、化学兵器が軍事紛争において肯定的な役割を演じる初めてのケースになるだろう」。
パク氏は、すべての作業が化学兵器禁止機関(OPCW)の管轄下で行われるべきだと強調し、こう言う。
「今のところ他のメカニズムはなく、すぐにそれを創設することもできない。OPCW の査察官は、化学兵器があることが疑われる事実上すべての軍事施設を査察することができる。ただし、そこに化学兵器がないことを証明するには時間がかかる」。
イラクのシナリオを避ける先例になるか
シリアの化学兵器廃絶に関する露米間の合意には、さらに次のような側面もある。それは、シリアにおける協力の経験をほかの「話の通じない」国々にも応用できる先例が生まれたということだ。
それというのも、一部の国際問題専門家は、こんなシナリオを描いていたからだ。まず、化学兵器もしくは核兵器といった大量破壊兵器を保有するどこかの国で、内外の反政府勢力によって混乱状態が生み出され、内戦を引き起こす。独裁者から人民を救うことを口実に、その国の大量破壊兵器を一掃するのみならず、自分たちに不都合な体制を打倒することを目的とした“人道的”軍事作戦を行おうとする連合が、形成される。そして、国連安保理決議に従って、あるいは、国連安保理がそれに同意しない場合には、2003年にイラクで見られたように、国連安保理決議なしに、そうした作戦が実施される――。
今のところ、シリアは、そうした運命を免れている。しかし、核兵器開発を続けているとの疑いをもたれているイランがあり、「アル・カイダ」のテロリストたちがその核兵器に手を伸ばしつつあるパキスタンがあり、さらに、ミサイル核兵器の開発に従事しており化学兵器を保有しているともいわれる北朝鮮の問題もある(ちなみに、北朝鮮は、化学兵器禁止条約に加盟していない数少ない国の一つ)。というわけで、シリアの先例は、大きな将来性を具えているといえそうだ。
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