このテロ行為は、それを支援する支持者の資金と武器、さらにはジハードに対する熱意までをも消耗しかけているイスラム原理主義集団が、自暴自棄状態にあることを表している。波乱を極めるこの地域の展開が、彼ら原理主義者に敵対する方向に決定的に反転したことに彼らは気づき始めている。
まず第一に、モスクワはこの殺人の首謀者たちを法の裁きにかけるという決意を明らかにした。この悲劇が起きた同日中、プーチン大統領は、セルゲイ・ラブロフ外相だけでなく国家安全保障および対外諜報庁の長官も呼び出して協議を行った。
外交的結束の動きが強まるほか (ロシアは国連で支持を求めると発表した)、本件に関してロシアとトルコの国家安全保障当局の間で新たなレベルの協調関係が築かれる可能性もあるが、そうなればそれ自体が画期的な出来事となる。メディアでは、ワシントンのトルコ大使館のファティ・オケ報道官が次のコメントをツイッターに投稿したことが大々的に報じられている。 「カルロフ大使に向けて発砲された弾丸は、彼だけを狙ったものではない。それはトルコ・ロシア関係も標的としているのだ。」
これは、トルコ・ロシア関係の乖離を望む多数の「第三者」がいる中、さまざまなレベルでの交流において両国間に深い理解が築かれていることを示すもう一つの証拠である。だが今回、両国が引き離されることはあるまい。この事件によって二国間関係が悪化することはないだろう。
第二に、このテロ行為はトルコの国内政策に影響を及ぼすだろう。容疑者のメヴリュット・メルト・アルティンタスがフェトフッラーチュ・テロ組織 (FETO) に関与していたらしいというHaberTurkニュースチャンネルによる報道は、現在時点ではまだ確認されていない。
もしそれが確認され、この犯人が、米国を活動拠点とし、かつてはレジェップ・タイイップ・エルドアン大統領の盟友であったものの後に対抗者となったフェトフッラー・ギュレン氏と緊密な関わりを持っていたことが判明した場合、昨夏のクーデター未遂事件後に展開された「魔女狩り」は一層強化されることになろう。また、これにより、「リベラル派」の伝道者とされるギュレン氏が第一級殺人の共犯者とみなされることになる。その場合に、この元イマームの米国からの引渡を一貫して求めてきたトルコの要求に、ロシアも同調するだろうか?
そして1月20日に次期米国大統領が誕生することも勘案すると、その結果として、トルコとロシア両国との関係改善のために、ホワイトハウスがギュレン氏を犠牲にする可能性はあるだろうか? なんとも挑発的な質問である。
第三に、調査においてはこの陰謀のタイミングもきわめて重要である。それは偶然であるとは思えない。この銃撃事件が起きたのは、トルコのメヴリュット・チャヴシュオール外相がロシアでセルゲイ・ラブロフ外相とイランのモハンマド・ジャヴァード・ザリーフ外相と会談することが予定されていたわずか数日前のことである。
これらの交渉は、バッシャール・アル=アサド大統領の政府軍によるアレッポの奪還を受けて、新たな現実への対応を協議することが主な目的とされていたことは明らかだ。
トルコの外務省は「奇跡を起こす協議というよりは、全当事者がお互いの発言に耳を傾ける機会である」と述べており、公では期待に水をさしていたにもかかわらず、モスクワは予定されていた審議に期待を寄せていたようである。トルコ側の発言とは裏腹に、ラブロフ外相の発言内容はより楽観的だった。 「西側諸国のパートナーがレトリックやプロパガンダに気を取られていて、聞く耳を持つ人たちに影響を及ぼすことができない間に、実際に現場の状況を改善できる人たちと詳細な内容や具体的な条件について話し合うことを望んでいる。」
シリアの内戦を決着させるよう地域の当事者を支援し、ダーイシュ (イスラム国) を永久に絶滅させるというモスクワの決意に変わりはない。その成功に対応するリスクはかなり高い。
シリアにおけるこの人道的悲劇が長期化することの最終的な結果は、どのような内戦にもつきものの不可避かつ不愉快なものだが、それはロシアのこの地域における地政学的地位とその外交的駆け引きの効率の信用性に直接関係している。
ロシアの高級外交官の命を背後からの銃撃により臆病な形で奪った弾丸は、弱体ではあるものの芽生えつつあるロシア・トルコ・イランの三国間の協調関係に、必然的に影響することになる。
殺害を命じた首謀者たちが抱いているであろう期待とは裏腹に、この事件はこれら3つの地域大国の親善関係を脱線させるどころか、それを活性化させることになろう。
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