ロシアとイランに歩み寄り?

ロイター通信
 周到に計画されたものの粗悪な実行により未遂に終わったトルコのクーデターにより、同国の外交政策にはさまざまな付随的影響が及んだが、ロシアとの昨今の紛争を解決するというアンカラの決定についても、その優先度を上げることになっている。

 アンカラの現政権を転覆させる試みが失敗したことを受けて、ロシアのウラジーミル・プーチン大統領は、トルコのレジェップ・タイイップ・エルドアン大統領と電話会談をした。ロシア大統領は、陰謀者に対抗し、「憲法の秩序」の回復に対する支持を再確認した罪のない一般市民や警察・兵士が命を落としたことに対し、トルコ大統領に哀悼の意を表明した。

 したがってプーチン大統領は、エルドアン大統領の独裁的な姿勢とトルコ社会のイスラム化支持がより顕著になっていることが西側諸国の間で問題視されるようになっている中で、クーデターが未遂となると、公に姿を現さず、エルドアン大統領と直接対話しようとしなかったNATO加盟国の西側リーダーとは対照的な姿を示した。

 その後エルドアン大統領はイランのハサン・ロウハーニー大統領に電話をかけ、次のような注目すべき声明を行った。アンカラは地域の平和と安定を回復するためのイランとロシアの取り組みに参加する準備があるというものだ。

 トルコは元々、シリアのバシャール・アル・アサド大統領に対する反乱を援助しており、一方のイランとロシアはシリア政権に軍事支援を提供していたため、シリアの戦場では事実上の代理戦争が繰り広げられていたわけだが、イランとロシアと協力するという今回のエルドアン大統領の口頭の約束は、重大な外交政策の変化を表している可能性がある。

 

ペンシルベニアとの関連性

 アンカラ・モスクワ・テヘランを基軸とする関係の急激な友好化の約束は、このクーデター未遂が75歳のイスラム教指導者フェトフッラー・ギュレン氏によって指揮されたという、エルドアン大統領と彼の政治的支持者が抱く堅固な信条に起因している可能性がある。このギュレン氏は1999年に自主的に亡命して以来、アメリカのペンシルベニア州に居住してきた人物だ。

 ギュレン氏はこの陰謀における関与だけでなく、司法や教育制度、マスメディア、軍の内部からエルドアン政権が「並列構造」と呼ぶ体制を築いたことを否定している。

 

アンカラが「ペンシルベニアとの関連性」を主張し続けることに、ワシントンはいらだちを感じているに違いない。「クーデター未遂の裏で米国が何らかの役割を担ったという主張は全くの偽りであり、(米国・トルコの二国関係にとって) 有害である」とジョン・ケリー米国務長官は表明した。

 さらにトルコのビナリ・ユルドゥルム首相は追い打ちをかけ、この論争の種となっている争点をめぐり「両国の友好に疑問が生じる可能性さえある」とまで警告した。だが国家元首による同盟国への圧力行使という意味では、せいぜいこれが限度であろう。

 トルコ政府による辛辣な言動と強硬な姿勢は、主に過去1〜2年のエルドアン大統領による独裁的な行動をめぐり、欧米メディアで否定的な言論が集中的に繰り広げられたことに対するものである。エルドアン大統領による強烈な批判と彼の政策は、確かに新たな「スルタン」に対する欧米世論の敵対的態度を助長させた。これはエルドアン政権自体も自覚しており、それがNATO同盟国間の現在の関係悪化に寄与している。

 

両国の経済事情を比較

 2015年11月24日にシリアの国境付近でトルコ空軍機がロシアのSu-24戦闘機を撃墜した事件後、経済制裁の導入や政治的対話の凍結により、それまで活発で急激に進展していたロシアとトルコの二国間関係は急激に冷却化した。

 しかし、モスクワはロシア大使館を閉鎖したり外交関係を完全に断絶することは考慮しなかった。また、両国にとってきわめて重要なエネルギー分野における協力問題 (トルコは、ドイツに次いで2番目に大きなロシアの天然ガス輸入国である) に関するやり取りは、低調ながらも完全に放棄されることはなかった。

 というのも、前向きな関係維持に両国のビジネスの将来がかかっているのである。ロシアの国営原子力企業ロスアトムは、メルスィン県アックユに原子力発電所を建設する事業を既に受注しており、何があってもそのような大事業を逃したくはなかっただろう。

 ロシアの大手ガス会社ガスプロムは、トルコ・ストリーム・パイプラインを建設して天然ガスをヨーロッパの顧客に販売するとともに、黒海下の沖合海底パイプラインを通じて欧州側のトルコにもガスを供給する計画を実現すべく注力している。

 一方、ロシア最大手の銀行ズベルバンクは、トルコに系列銀行のデニズバンクを所有しているが、過去数年間では350万人ものロシア人が「トルコのリビエア」での休暇の常連客となっていることもあり、この有望な市場で成功の地盤を確立しようとしている。 

 同じことはトルコのビジネスについても言える。Enka、Vestel、Beko、Şişecam、Garanti Bankası、Pegasといったブランドが、ロシア国内の市場ですでに確実な基盤を築き上げているからだ。トルコの建設会社は、100億ドル(7月25日現在、1ドルは約106円)にも及ぶ額の契約のポートフォリオをロシアで受注しているが、それはとても端金とは言えまい。

 

プライドと偏見を捨てる

 とはいえ、モスクワから和解に踏み出すのは困難だろう。何と言ってもプーチン大統領は、Su-24戦闘機の撃墜事件を「テロリストの共犯者によって行われた裏切り行為」と表現したのである。また、ロシア政府寄りのメディアは、シリアやイラクのISIS占領統治下で採掘された石油の密輸と売却により、エルドアン大統領とその一族が個人的な利益を得ているという主張を展開した。

 一方で、欧米のNATO同盟国がエルドアン大統領に対して許す選択肢は限られている。追い込まれたエルドアン大統領は、譲歩することで相違点、不平や偏見を抑え、イスラエルとロシアとの口論を終結させるという、面子も失う手痛い決定を下した。

 これが意味するのは、ロシアが、最近アンカラから発信されてきた対話の再開を目的とする打診を誠実なものと解釈すべきであるということだ。押しつけられたものであっても、誠実なことに変わりはないということ。

 基本的に、米国とEUによる対ロシアの制裁が、特に中国を対象とする「アジアへの基軸転換」政策を刺激したように、西側諸国の政治家やメディアからエルドアン大統領に対してかけられた心理的圧力により、トルコは別の場所に協力相手を求めることを余儀なくさせているわけだ。しかし、トルコの外交政策の優先事項が変化しているという徴候に間違いはなさそうだが、それが必ずしも現実的であることを意味しているわけではない。

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