アレクセイ・ヨルスチ
昨年12月、プーチン大統領は長時間にわたる記者会見のなかで、40年以上におよぶアサド家による統治の結果、「変革の必要性が間違いなく重要課題となっている」と述べた。実際に2011年には、当時のドミトリー・メドベージェフ大統領が、アサド氏が自身の政府の改革にむけて措置を講じ、国民の怒りを和らげない限り、「悲惨な運命」がアサド氏を待ち受けていると警告している。
緊密だが現実的な関係
これまでの歴史におけるシリア・ロシア間の関係は緊密なものだった。ダマスカスがロシア製の兵器を購入してきただけでなく、ロシア企業のストロイトランスガスと タトネフチ社は、シリアのエネルギー産業における主要なプレイヤーで、二国間の貿易は、現在の危機が発生する前の2011年には58%も増加している。
しかし実際には、これは実際的、現実的な関係であり、ロシアの現在の立場もまた、西側諸国の大多数が信じているように、イデオロギーに基づいた独裁国家の枢軸などではなく、これまでと同様に現実的なものだ。
モスクワの行動は、現行政権に対する愛着心よりも、この政権の失脚後に起き得ることへの恐怖心に影響されている。アフガニスタン、イラクとリビアの経験は、国家を崩壊させる方が、それを再建するよりもはるかに容易であることを示している。
アフガニスタンは現在収奪政治に陥る瀬戸際にあり、一度西側諸国が撤退すると、アヘンで私腹を肥やす“軍閥”とタリバンの間で真っ二つに引き裂かれてしまう可能性が高い。イラクは、徐々に権威主義と宗派主義に向かっている。リビアは混乱の極にあり、そこに過激主義者がつけ込もうとしている。
こうした背景でのモスクワの懸念は、シリアの現政権の失脚が長期的な無政府状態を招き、これにより、イスラム教過激派、イラン、トルコという、ロシアの3つの主要な脅威が、その恩恵を被るということだ。
問題はいつどのような形で
ロシア政府は、アサド政権の命脈が尽きたとは思っていない、と言い張っている。アサド大統領が失脚するかもしれないとミハイル・ボグダノフ外務次官が発言するやいなや、大急ぎでその発言を取り消そうとする動きが見られた。
しかし実際に問題となっているのは、いつ、どのような形で政権交代が起きるかということであり、それが起きるかどうかではないと思われる。
ロシアが望んでいるのは、この変革が漸次、統制された形で起きてほしいということだ。最近の国連とアラブ連盟のラクダール・ ブラヒミ合同特別代表との会談で、ロシアのセルゲイ・ラブロフ外相は、「安定した政治プロセス」が存在しない限り、シリアは「ソマリア化」に直面するであろうと述べた。
しかし、現在のところ、そのような合意の可能性は低そうだ。シリア国民連合リーダーのアフマド・ムアーズ・アル=ハティーブ氏が会談のためにロシアを訪れることを拒否したことから、シリアの反政府派は妥協ムードにないことが明確になった。
一方で、ラブロフ外相による圧力にもかかわらず、アサド氏にも対話を検討する意思はない。やはり、実質的な交渉の前提条件が彼の辞任とされるのは、必然的だ。
妥協が不可能なら
こうした状況において、モスクワは、残された数少ない持ち駒を駆使するしかない。
ロシアはこの地域に艦隊を派遣しているが、これは、一部の人々が指摘するように、アサド氏を支援したり、西側諸国を抑止するためのものではない。この小艦隊は、1980年代に建造されたミサイル巡洋艦、竣工が1960年代という年代物の駆逐艦、そして比較的新しいが小型のフリゲート艦という3隻の軍艦のみによって構成されている。
これが本当に戦闘部隊なのか? 最初の2隻は戦艦を対象とする戦闘目的で設計されたものであり、3番目は潜水艦が対象だが、反乱軍は、戦艦も潜水艦ももっていない。
一方で、この艦隊には、少数の海軍歩兵部隊(海兵隊)を備えた、ほぼ空状態の軍用輸送船が5隻含まれている。だから、この小艦隊は戦闘を目的とするものではなく、必要が生じた場合に、シリアに在住する何千人ものロシア人――そして場合によってはアサド一家――を避難させるためのものだ。何といっても、反政府系の有力人物であるハイタム・アル・マレー氏によれば、ロシア人は現在、合法的な標的とみなされているのである。
同時にロシアは、傷ついたトルコとの関係を修復し、同国の懸念を認識することで、最悪の政治的シナリオに備えている。もしシリアが実際に混乱状態に陥り、ジハードの新たな温床と化した場合、最低でも、ロシアは西側諸国に対してそうした事態を警告したと主張できるため、わずかな慰めを見出すことができるだろう。
最大の貢献は亡命の手助け?
しかし、何らかの解決に向けてロシアが果たしうる最後の貢献は、ダマスカスからのアサド氏の亡命を支援することなのかもしれない。
ラブロフ外相は、アサド氏は「公式、非公式に、政権の座を明け渡すつもりがないことを何度も告げた」と認めている。なるほど、独裁者の多くは、流血をも辞さずと、断固たる雄弁をふるいがちだが、亡命の可能性を提示されながらも本当に最期まで戦う者は数少ない。
アサド氏を悪者扱いするのをモスクワが躊躇することで、最終的に彼の亡命の説得に成功し、後継者が反政府勢力との何らかの合意を模索することを可能にするのであれば、それは、どんなに多くの突撃銃(アサルトライフル)を密輸して反政府勢力の手に渡すよりも、シリアの変革に対するより有意義な貢献となるだろう。
もしかすると、こう言っている今も、モスクワ郊外のバルビハで、セルビアのミロシェヴィッチ家やキルギスタンのアカーエフ家から少ししか離れていない場所に、快適なダーチャがアサド家のために用意されているところかもしれない・・・。
マーク・ガレオッティ、ニューヨーク大学教授(国際関係論)
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