オピニオン:本物の冬こそロシアでもっとも素晴らしい季節である理由

ライフ
マリア・スタンブラー
 おそらく自分が生まれたのがロシアのもっとも寒い時期だったせいか、それとも、ここの冬がこんなにも素晴らしいものだったせいか、私にとっては、母国のこの氷点下の気温と何メートルもの深さの雪の季節ほど素敵な季節はない。

 氷点下20度以下にもなる寒い日々や辺り一面の雪を愛するわたしは、いつも友人たちにおかしいと笑われている。しかし、そういった意味では、ここ数年モスクワには、本物の冬は訪れていない。ただ陰鬱な湿っぽい日か、曇りがちな日が何か月も続くだけで、秋がとても長く続いているだけという感じなのである。そんな時に屋外で過ごすとあまりにも気が滅入るだけである。

 だから、昨年の冬に久しぶりにきりっとした寒さがやって来て、キラキラした雪が何か月も融けずにいたときは、友人たちはこの太古の昔から変わらないこの不思議な季節に突然感謝し始めた。私はとうに知っていたのだが。では、どうして真の凍りつくような、雪のロシアの冬が最高なのであろうか?

1. 活き活きとさせてくれる

 他の人のことはわからないが、私は暑くなると何もする気がなくなる。そして、零度前後で空が灰色の時も気分が暗くなり体が動かない。しかし、零下10度から15度になると、外に出て、溌溂とした気持ちなる。これくらいの気温だと、ちょうど体の血液の流れが良くなり、心臓も鼓動し始めるのである。肺が新鮮になり、心もクリアになる。顔の皮膚が少しチクチクし、頬はほんのり赤くなる。それはまさにエネルギーを与えてくれるものなのである。

2. ウインタースポーツ

 まず最初に言っておきたいことは、ロシア人はウインタースポーツが大好きで、しかも得意であるということである。しかし冬でないとすることができない。確かに、屋内スケーリンクもあるが、ゴーリキー公園や全ロシア博覧センターの豪華なスケートリンクに軽やかな雪が降りつむ美しい冬の夕暮れがつくりだす魔法のような雰囲気にはとても敵わない。もちろん、このような場所は、気温が零度やそれ以上の時もオープンしているが、雰囲気と言えばまったく別物なのだ。

 また、他のまさに国民的娯楽とよべる、けして屋内ではできない、雪と氷点下の気温が必要なものがある。そり遊び、クロスカントリースキー、凍った湖の飛び込むことだ。これには宗教的理由によるもの、もしくはただの楽しみのための時もあるが・・・。シベリアには、11月から5月の間は間違いなく多くの雪があるところがある。しかし、赤の広場からすぐのところにも最高のすべりを楽しめるすてきな場所がある(ナゴルナヤ駅から数分の距離のところや、雀が丘にも良いスロープがある)。

3. ロシア文化やアイデンティティと切っても切れないほどの意味がある

 多くの雪と厳しい寒さをともなうロシアの冬は、もはやロシアの象徴と言える。スラヴ民族は永くこの冬を愛し、数多くの諺、言い回し、なぞなぞの中で冬を表現して来た。極寒と雪多い冬が気候変動のせいでなくなるとロシア人としてのアイデンティティも失ってしまいそうだ。これはロシア人にとっての基礎であり、穏やかな寒さの冬になると、ロシアやロシア人的でなくなるという取り返しのつかないリスクを抱えることになるのである。

 長く冷たい冬は、脂肪分が多く、塩をたっぷり入れた食事、毛皮のコートへのこだわり、強い酒、ロシア式サウナにいたるまで、ロシア文化の基礎構造とされているものに深くつながる。ロシア正教会はロシアの寒さを信仰に取り入れた。1月になると信者はキリストの洗礼を模して、凍りついた湖に飛び込む。1941年にモスクワを救った雪や氷が、再び将来、母国への攻撃を防いでくれることはないということは、軍事的栄光によって強められてきた国家のアイデンティティを脅かすことなのである。

4. 最高の快適さ

 認めざるを得ないことだが、想像出来うる限りもっと快適な状況とは、窓の外には雪が降っているときに、毛布にくるまって、薄暗い部屋のソファで温かい紅茶か赤ワインを飲み、好きな本に耽っている時だ。もしくは、足元の雪をかすかにギュッギュッと踏みしめて、クリスマスの電飾がきれいなモスクワのクリスマス・マーケットのひとつを歩き回ったあと、暖炉の傍で一杯の熱いワインを飲んで体を温める―これも我を忘れるほど居心地がよく、ロマンティックだ!言うまでもなく、週末に郊外で、キリッと寒い屋外で1日中遊んだあと、素晴らしい相手と暖炉を見つめるのも最高だ。私が寒い冬が好きな理由がこれでわかるだろう。

5. とてつもなく美しい

 誤解しないでほしいのだが、わたしは夏のモスクワの気持ちいい日も大好きだ。その季節の町はみずみずしい緑にあふれとても美しいからだ。人びとがカフェから通りにあふれ出て、町中が生命によって満たされる!ロシアの夏は自然が絵葉書から抜け出てきたかのように美しい。しかし、ほんとうに寒い雪の冬の日はこれ以上である。まさにおとぎ話の世界だ!ロシアの偉大な作家、詩人、音楽家、芸術家、作曲家もおとぎ話に触発されている。しかし、私の言うことをただ鵜呑みにせず、ここをクリックしてみて。これらのギャラリーの写真を見ればどうして人々がロシア作家に魅了されるのかが理解できるだろう。

6. ダイエットはひとやすみ

 特に寒い日は、普段は決して頼まないケーキやボリュームのある(ビーガンの)ソリャンカを食べる良い口実になる。寒い日に歩いて家に帰ると、それほど寒くない日に比べて体を暖めるのに2倍のカロリーを消費するからだ。それに、ロシアの冬の料理はとても量が多く美味しいのだ。だから、すこしくらい自分を甘やかしたくなってしまうのも無理はない。

7. 健康に良い

 私は医者ではないが、一般に思われるているのとは逆に、凍えるほど寒い日に屋外で過ごすことは健康に良いことが多い(もちろん限度はある。低体温症にならない程度に!)。すでに少し触れたが、ご存じの通り、寒い中で体を動かすと、カロリーをより消費できる。ほんとうに寒くなると、病原体も広がりにくく、花粉も無いので、アレルギーのある人には間違いなく過ごしやすい。

怪我をしたときに、腫れや痛みをやわらげるためにアイスパックで冷やしたことがあるだろう。だから冬になると関節のむくみや腫れがひくのがわかるはずだ。理由は、冷たい空気が天然のアイスパックの役割を果たして患部の炎症を抑えるからだ。冬には風邪をひきやすくなるだろうが、寒さは免疫力を高め、感染症にかかりにくくしてくれるのだ。

 寒気は肌にも良いとされている。なぜなら、皮膚には血管があるからだ。寒くなると血流が減少し血管が膨張、発赤しにくくなる。最後に、専門家の中には寒い時に体を動かすと、心臓が、運動の為だけでなく体温を適正に保持するためにより酸素を含む血液を送り出してくれるので、結果として心筋が強くなる、と言う人もいる。

8. ファッションを楽しむ

 私だけかも知れないが、寒い時ほど、着るものについてより創造性、多様性を持たねばならなく、持っている服をすべてチェックする必要があると感じる。夏にはだいたい同じ短パンをはいて、2〜3枚持っているTシャツを変えることで済ませることができる。かわいいドレスもあるが。しかし、気温が氷点下になると、何枚もの服を重ね着することになる。1番外側には屋外にいる時だけに着るもの、その下に室内に入った時、しかし暖房があまり聞いていない部屋で着るもの、そしてさらにその下にはロシアの有名なセントラルヒーティングがよく効いている部屋で着るものだ。

9. 暑すぎるよりも寒すぎる方がよい

 前項に関連することだが、あまりにも気温が高くなると服を脱いで凌ごうと思っても、皮膚以外は脱ぐものが残されていないという状況になる。しかし、気温が低くなる場合は、ふわふわの靴下をもう1枚履いたり、かわいい冬用の帽子をかぶると、再び快適な状態に戻ることができる。