Dota 2の国際大会で優勝したロシアの「チーム・スピリット」について知っておくべきこと

Dota 2 The International
 ウェイター、モデル、医師を目指す学生が、ビデオゲーム「Dota 2」に熱中しすぎて、自身の仕事をやめ、学業を断念した。しかしそれもどうやら無駄ではなかったようだ。ロシアのeスポーツチームが初めて、世界大会で優勝し、1,800万ドル(およそ20億6,000万円)以上の賞金を手にしたのである。

 「なんというストーリー!なんというゲーム!なんという夢!」と司会者が大声で叫ぶ。5人の若者たちが表彰台から、銅と銀でできた自分たちの名前入りの「イージス・オブ・チャンピオンズ」の盾を取る間、ステージには紙吹雪が舞った。若者の1人は盾を頭の上に掲げ、もう1人の丸刈りの若者は、勝利を信じることができず、ただ両手で顔を覆って座っている。

 これは、Dota 2の主要な国際大会「The International」で勝利を収めたロシアのサイバースポーツチーム「チーム・スピリット」の表彰式の様子である。ファイナルでロシア人チームは、中国の「PSG.LGD」チームを3:2で下した。ロシアのチームがDota 2の大会で優勝するのはこれが史上初めてである。

不動産が買えるほどの賞金と大統領からのお祝いのメッセージ

 チームのメンバーが確定したのは2021年の初旬になってからであったことから、誰もこのチムの勝利を予想していなかった。しかし、サイバースポーツ発展協会のパヴェル・ゴルベフ会長は、テレビ局360からのインタビューに応じた中で、「彼らは丹念に準備を進めたことから勝利を収めることができた」とコメントした。

 ゴルベフ会長はさらに、「この勝利はサッカーやその他の権威あるスポーツの世界選手権での優勝に匹敵するものです。この国際大会はサイバースポーツ選手ならば誰もが参加を夢見る大会です。ただ単に意義のある大会ではなく、非常に大きな意義を持つイベントなのです」と説明した

 ほとんどの参加チームは、賞金を不動産の購入に充てるという。ロシアのソーシャルネットワークのユーザーたちは、すぐにミームを拡散した。 

 ツイッターのユーザーであるアルチョム・デリャギンは、「5人の若者がDota 2で1,820万ドルを手にした。オフィスはどんな感じだい?」と綴った

 大会のあと、チームが到着したヴヌコヴォ空港では勝利を祝うバナーが選手たちを出迎えた。

 そしてついにはウラジーミル・プーチン大統領がチームに祝辞を送った。

 大統領は「ファイナルへの過程で、あなた方は素晴らしいリーダーシップと団結力を見せ、また技術と性格が試されたファイナルでは集中力を発揮し、もっとも重要な場面では強いライバルを相手にイニシアチヴを取ることができた」と賞賛した

勝利のビジュアル化とバーガー

 23歳のヤロスラフ・ミポシカ・ナイデノフはチームの中で最年長のメンバーで、キャプテンを務める。2017年に別のチームのメンバーとして大会に出場し、ベストプレーヤー上位10位に入り、将来性のあるキャプテンと目されたが、栄光は一時的なものであった。そこで2019年にはうつ状態になったという。

ヤロスラフ・ナイデノフ

 「あるとき、ペテルブルクの誰もいない賃貸アパートに1人で座っていました。マットレス、コンピュータの乗ったテーブル、リフォームされていないキッチンの流し台・・・とその状況は抑圧的なものでした。目が覚めても、ただ座って、4時間ほど何もしない。どうやってプレイしていたのかもよく分からず、罪の意識に苛まれていました。人生においてもっとも辛い時期でした」とナイデノフは当時を振り返る

 1年後、ナイデノフはチーム・スピリットのメンバーになり、チームが勝利したあと、ツイッターに動画を投稿した。その中で彼は満足気にバーガーを食べながら、勝利の秘訣について語った

 「重要なのはバーガーだけではありません。(中略)寝る前にいつも、自分が勝つ様子を想像し、自分の感情を想像しようとしました。(中略)いつもいつも勝利というものをビジュアル化していたのです。もしかするとそれがよかったのかもしれません」。

13歳で仕事を始め、Dotaの神のために髪を切る 

 最年少のメンバーはイリヤ・ヤトロ・ムリャルチュク。ウクライナ出身でまだ18歳である。Dotaを始めたのは2013年で、まもなくするとゲームのために学校を欠席するようになった。朝の4時までゲームをしていたため、7時に起きられなくなったのである。両親の叱責に彼はこうはっきりと答えた。「家にいて、コンピューターをしているんだからいいでしょう。外を出歩いてタバコを吸ったりしていないんだから」と。この言葉に両親は納得したとイリヤは言う。

 もっと良いコンピューターを買うために、イリヤは13歳で商売の仕事を始め、半年ほど仕事を続けた。ジャーナリストか犯罪学者になるのが夢だったが、結局、「地質学者になるためのどこかの大学」に入学した。しかし入学してから一度も出席することはなかった。 

 世界大会の期間中に、イリヤは頭を剃り、これは大会で勝利しようと、Dotaの神のためにやったことだと説明した

イリヤ・ムリャルチュク

医師やモデルとしてのキャリアの代わりであるDota 2

 

 その他のメンバーたちはトレーニングのために意識的に仕事や学業を断念した。

 トゥヴァ共和国出身の20歳のアレクサンドル・トロントーキョー・ヘルテクは、本人いわく子どもの頃からいたずらっ子だったが、そんな彼を「優しい気持ちにさせた」のがアニメだった。学校を卒業した後、モスクワ大学数学技術学部に入学したが、2年のときにもっとDota 2をプレイする時間が必要だと考え、退学した。並行して、システム管理者、ウェイターとしてもアルバイトしたが、こうした仕事で社会とのつながりを保てると考えていた。

アレクサンドル・ヘルテク

 「サービス業で働くことで、人々をよく理解することができるようになり、個性を伸ばすことができました。(中略)ウェイターや調理人、掃除夫も、悩みを抱え、自分の人生を背負った人々であるということを理解しました。そして、そうやって働く経験をしてからは、できるだけチップを置くようにしています」とサイバースポーツ選手のアレクサンドルは言う

 マハチカラ の19歳のマゴメド・「Collapse(崩壊)」・ハリロフは2017年からDota2をプレーしているが、それでも医師になろうと大学に入学したが、結局、サイバースポーツのために留年をとった

マゴメド・ハリロフ

 21歳のミロスラフ・コラコフはサイバースポーツをやるまではモデルとしてアルバイトしていた

ミロスラフ・コラコフ

 コラコフは言う。「今まで生きてきた中で一番嬉しい気持ちになりました。でもトップ3に入ったからではなく、チームの仲間たちと一緒に勝つことができたからです。わたしたち5人は、みんなでDotaをやるのが好きなんです。わたしはいいプレーヤーではなかったのですが、皆がチャンスをくれ、2ヶ月でどうやってプレーすればいいのかを理解できるようになったのです」。

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