オプシャーガはロシア人学生の寂しい財布を考慮に入れて建設されている。したがって贅沢は平等の理念とは相容れない。時には幸運な場合もあるが、ロシアでの新居を見てうっとりする留学生はほとんどいない。だがご心配なく。寮生活は思うほどには難しくない。これから挙げる秘訣を知り、実践すれば、故郷を離れて来たことさえすぐに忘れてしまうだろう。
1. すべて自室に置いておく
大半のオプシャーガはソビエト時代の建物で、共同体が重んじられるため大変窮屈だ。寮の快適な共用性が私有物にまで及んでいるように感じられる。その通り、ここではすべてが取り放題だ。共用冷蔵庫に高価な食べ物を置いている?KGBになったつもりで見張るよう心がけよう。使いかけのトイレットペーパーのロールと同居したくない? もっともだが、それが嫌ならロールに別れを告げなければならない。
ゴーリキー文学大学で学ぶアイルランド人交換留学生のシアラさんは次のように話す。「私は調理器具を誰でも使えるように台所に置いていました。すると1週間で全部きれいさっぱりなくなってしまったのです。3ヶ月後、私は自分のフライパンを4つ上の階で見つけました。どうやってそこまで行き着いたのか見当もつきません。」ジャングルへようこそ。
2. 警備員とお友達に
ロシアの寮のオフランニク(警備員)はとても退屈な日々を送っている。働いている建物に住み込んでいることもよくある。したがって、恣意的な形式主義で学生の邪魔をする以外に楽しみがないのだ。
シアラさんはこう話す。「ある朝私は友人を寮に連れ込もうとしました。すると大量の書類を書かされ、しかも友人が滞在できるのは1時間だけと言われました。その時、別の女の子がやって来てオフランニクに花束を渡し、頷き一つで何事もなく自分の友人を通させたのです。」
何をするにも、警備員の機嫌を損ねないように。あなたの社会生活が懸かっているかもしれない。
3. 日曜大工の技術を身に付ける
廊下で大きな顔をしているのはオフランニクかもしれないが、部屋の中ではあなた(そして部屋を共有することになる多くの学生)がボスだ。つまり、部屋に何をしたって構わない。場合によっては(いつもそうとは限らないが)壁紙をはがしたり、新しい家具を置いたりしても良い。
裏を返せば、部屋は長い間目立った改装がなされていない可能性が高いということだ。ぼろぼろの壁や窓枠は当然のこと、問題に対処するために自分の道具に頼らなければならないこともある。
モスクワ大学で学ぶイギリス人交換留学生のダニエルさんはこう話す。「1955年当時の自分の部屋の写真を見つけましたが、文字通り今とまるで変わっていませんでした。」
4. ボディーランゲージを練習する
ロシアで学んでいるのは西欧の学生だけではない。事実、ルームメイトの大多数がきっと中国や韓国、バングラデシュの出身者だろう。寮では(皆が英語を話せるわけではないため)ロシア語がリンガフランカだ。したがってもしロシア語を習得していないなら、また英語もロシア語も話せない人に話しかける時は、まるでジェスチャーゲームをするかのように全会話を行わなければならない。
身振りでの会話の中には比較的簡単なものもある。例えば「このマグカップを使っても良いか」と伝える場合、さほど問題はないはずだ。しかし「兄弟姉妹はいるか」や「人生の目標は何か」といった内容を伝えるのには骨が折れるかもしれない。
モスクワ大学に在籍するフランス人留学生のアリスさんにとっては、身振りは友情の障害にはならなかったという。「ある男の子が韓国語で詩を書いてくれました。何が書いてあるのかさっぱり分からなかったけれど、心のこもったものであることは分かりました。」
5. ゆとりを持って浴室に向かう
これは強調してもし過ぎることはない。運が悪ければ、およそ30人と浴室を共有することになるのだ。つまり、しばしば長い列ができるわけで、トイレへ行く時は十分用心して、約10分前に出発しよう(奇妙なスキルだが、努力に値する)。
午前中にシャワーを浴びたいなら、適者生存の争いだ。ロシア経済高等学院に籍を置くカナダ人院生のジュリエットさんは「ロシアへ来て最初の朝、私はシャワーを一番に浴びようと8時に起きました。ところがなんと5人待ち。その日私は手痛い教訓を得たのでした」と話す。
6. パーティーを開く
もし寮でロシア人と出会って言語能力を磨きたいなら、何を待つ必要があろうか。こちらから彼らを招待すれば良いのだ。確かにロシア人は近付き難く、こちらに無関心であるように思えるが、努力すれば彼らはすぐに打ち解けてくれる。さらに無料の食べ物とお酒があれば、彼らは文法の誤りを直してくれるだけでなく、いろいろと親切にしてくれるはずだ。
加えて、パーティーの計画段階ですでに壁紙ははがれているのだから、これはもう自分のアパートが汚れようと構わないでいられる人生で唯一の時間かもしれない。存分に楽しもう(だが万一オフランニキと揉めた場合は、我々からは何も聞かなかったということで……)。
7. 創意工夫し、適応し、克服する
寮に冷蔵庫や洗濯機らしきものがあればラッキーだ。それが正常に動いているなら、奇跡の産物である。
しかし留学生の大半にとっては創造性が求められる。
モスクワ国際関係大学のスコットランド人院生のナオミさんは「私の部屋には大理石でできた“冷たい板”がありました。それを窓の傍に置いておくと、冬にはとても役立ちました。生の鶏肉の匂いが部屋に充満するのが難点でしたが」と語る。
ところで洗濯機がないという方には朗報、モスクワにはコインランドリーがある。幸せな日々を。
8. ワンダー・ウォールの歌詞を覚える
寮はクヴァルチルニクと呼ばれるロシアの非公式・非公開コンサートの開催場所としてよく利用される。ふつうはギターがかき鳴らされ、ピアノが乱打される。またこれはロシアのホームパーティーに最も近いものである。というわけで、テクノの尊師の皆さん、アコースティック・ギターが夜のエンターテインメント用に準備されているのを見かけてもあまり動揺しないように。ただ微笑んで我慢し、「Today, is gonna be the day…」と熱唱しよう。