日本人留学生たちのモスクワ生活

中谷早希さん=

中谷早希さん=

アヤナ・サンジエワ撮影
 ​モスクワの大学には、数十人の日本人が留学している。生活の様子を取材し、訪問まで許してもらった。

中谷早希(なかやさき)さん(20)、上智大学生/モスクワ国立言語大学留学生

「モスクワの通りを喜んで散歩」

 中谷さんは2月にここに来て、モスクワ国立言語大学の寮に暮らしている。寮は市の中心部からそれほど離れておらず、地元の若者に人気のゴーリキー公園にも近い。東京では友だちと通りを散歩するということはめったになかったが、ここでは広々とした遊歩道や大通りを歩くことが大好きな趣味となった。お気に入りのコースの一つは、モスクワ川のパノラマをのぞめるクリミア橋を通って、ゴーリキー公園に行く道。

 寮ではもう一人の日本人女子学生および韓国人女子学生と一緒に暮らしている。各階にある共同キッチンで、一緒に3人分の料理をつくっている。韓国人女子学生は韓国料理をふるまい、中谷さんらは日本料理をふるまっている。好きなロシア料理は何かと聞くと、ためらうことなく、ピロシキとアイスクリームと答えた。「ここはアイスが安くておいしい」と中谷さん。

アヤナ・サンジエワ撮影
アヤナ・サンジエワ撮影
アヤナ・サンジエワ撮影
アヤナ・サンジエワ撮影
アヤナ・サンジエワ撮影

 寮の生活には十分満足しているが、時々シャワーからお湯が出なくなるといった、いくつかの不便もある。全般的に、モスクワは暮らしやすい。地下鉄の運賃、また野菜や果物は、東京より安い。また、カフェ、公園、劇場、映画館も多く、友だちと出かけている。

 これってどうなんだろうと感じるところも当然ある。たとえば、スーパーの態度の悪い店員。「レジの人に、どこに(自分の探している)商品があるかを聞いたら、知らないと言われ、対応してもらえなかった。日本ではこういうことはない。ただ、以前想像していたほど、ロシアの人は冷たくない。知り合いになると、優しくなっていく」

 中谷さんはロシアのクラシック音楽、特にチャイコフスキーを聴くのが好きだ。ボリショイ劇場には学生用の100ルーブル(約150円)の特別な観覧券で何度か入場している。ちなみに、普通の観覧券はこの20倍、100倍する。

 

乾貴弘(いぬいたかひろ)さん(20)、上智大学生モスクワ国立大学留学生

「店員に嫌な顔をし返すように」

 「ロシアに来たばかりのころは、『なんてひどい国なんだ!』と思っていたけど、今は帰国したくない」と乾さん。モスクワ国立大学の寮に暮らし始めてほぼ5ヶ月になる。寮は雀が丘にある、有名なスターリン高層建築の建物。

乾さんも寮の部屋を見せてくれた=アヤナ・サンジエワ撮影乾さんも寮の部屋を見せてくれた=アヤナ・サンジエワ撮影

 モスクワでお気に入りの場所は、経済達成博覧会(VDNH)。「この場所にソ連の栄光を感じる。ソ連最大の偉業は、人類初の有人宇宙飛行だと思う。VDNHにはソ連の宇宙ロケット、宇宙船の模型、宇宙飛行士記念博物館もあるしね」

 乾さんも、中谷さんと同様、店員の不愛想なところを指摘する。そして、自分も店では、店員と同じ態度をとるようになった。「嫌な顔をし返す」と乾さん。また、ロシア人は順番を守らないことが多いため、自分も順番を守らないことが多いと打ち明けた。

 「でもロシアの人は表情とは裏腹に、どんな時でも人助けをする用意ができていて、日本人よりも親切」

 モスクワに来るまで、ロシア人は呑べえだという固定観念を持っていた。「以前は、ロシアでは皆が酔っ払いだと思っていたけど、そうじゃなかった。日本人の方がロシア人より飲むんじゃないかな(笑)」と乾さん。

 

鈴木花穂(すずきかほ)さん(20)、神戸市外国語大学学生モスクワ国立大学留学生

「正教会が大好き」

 鈴木さんもモスクワ国立大学の寮に暮らしている。モスクワに来てまだ3ヶ月だが、ロシア文化に慣れ親しんでいる。正教会に行くのが好きだ。「教会の中の飾りはすごく美しい」と鈴木さん。一番好きなのは、赤の広場の聖ワシリイ大聖堂

 鈴木さんは博物・美術館や観光名所をよく訪れ、民芸品を買っている。最近買ったものには、ロシアの民族衣装、サラファンがあると嬉しそうに話し、披露してくれた。

アヤナ・サンジエワ撮影
アヤナ・サンジエワ撮影
アヤナ・サンジエワ撮影
アヤナ・サンジエワ撮影
アヤナ・サンジエワ撮影

 「私の友だちはよく微笑むし、笑うけど、他の人は違う。でも皆心は優しいことを知っている。困っている時は必ず、知らない人でも助けてくれる」。鈴木さんはロシアに来たばかりの時、不愛想なロシア人をちょっと怖いと思っていた。だが今では、日本人とロシア人の交流クラブ「ラマーシュカ」のおかげで、たくさんの友だちがいる。

 ロシア人と交流すると、ロシア語やロシアの文化を覚えるスピードが増すだけでなく、ロシア人の癖がうつることもある。「何かが違うと、舌打ちする癖ができてしまった」と恥ずかしそうに打ち明けた。

 

明珍奨真(みょうちんしょうま)さん(23)、上智大学生モスクワ国立言語大学留学生

「ロシア人が自分で何でもするのに驚き」

 明珍さんが2月にロシアに来てまず驚いたのは、道路の状態の悪さだった。だが、これでモスクワの全般的な印象が悪くなったわけではない。「好きなことは多い。でも、嫌いなことはない」と明珍さん。ここの暮らしは快適だ。公共交通機関の運賃は安く、多くの劇場に学生用の安い観覧券がある。タガンカの舞台芸術スタジオで演劇を観るのがお気に入り。友だちと公園を散歩し、映画館に行き、また郊外のロシアの友だちの別荘に行くこともある。

明珍さん=アヤナ・サンジエワ撮影明珍さん=アヤナ・サンジエワ撮影

 ロシア人が何でも自分でやってしまうことに驚く。たとえば、別荘を自分で建てたり、自動車を自分で修理したり。「日本だと何かが壊れたら、直すのではなくて、買い替える方が簡単。ロシアの人は自分で直して、同じものを使い続ける。古い車が道路を走っているのをよく見かけるから、『どうやって走れるんだろう?!』と思う。日本ではあのぐらいの古さだと誰も乗らない」

 ロシアではドライバーが歩行者の前で車をとめ、道を譲ることが多いが、日本では見かけない光景だという。「でもドライバーはスピードを出し過ぎることが多く、危険だと思う」

 明珍さんも、ロシア人が不愛想で笑顔を見せないことを指摘するが、多くの人とは異なり、気に入っているという。「日本で僕は知らない人によく笑顔を見せる。それが常識だから。でもここに来て、なぜニコニコしなきゃいけないのかと思うようになった。必ずしも必要ではないから」

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 留学生たちのいくつかの答えは予想通りだった。たとえば、外国人の間でよく知られている、ロシア人の表情の硬さ。だが予想外の答えもあった。交流しながら、民族間の固定観念を超えて、互いについて新しいことを知れるのは素晴らしい。

 全員に、「日本がロシアと大きく違うところはなにか」という質問をしたが、誰もが考え込んでしまい、なかなか答えが返ってこなかった。もしかしたら、両国の間に大きな違いはないのでは?

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