退屈そうな目つきをし、無線機を持って、ゆっくりとあっちへ行ったり、こっちへ来たり。そして、「オフラナ(警護、守衛)」とプリントされた制服を着ている。こんな人たちがロシアには文字通りどこにでもいる。スーパーマーケット、学校、病院、オフィスの入口、駐車場、公園、クラブ、マーケット…。
ロシアはいわば“ガードマンの国”で、その数は想像できないくらいだ。もっとも、ロシアでは、これはあまりプレスティージの高い職業ではないし、給料も低い(一般人のガードマンへの態度は、無視と軽視の中間くらいか)。警察改革も、無数の監視カメラの設置も、電子IDカードの導入も、ガードマンだらけの事態を変えなかった。相変わらず人々は、ガードマンになりたがるし、そして、実際に雇われるのだ。
ロシアは、警官の数では世界のトップを独走しており、80万人近い。25万のトルコ、アメリカ、ドイツを大きく引き離している。ところがロシア内務省や労働組合の推計によると、そして、「影」の就労数を考慮すれば、ガードマンの数は、2年前には、警官の数を上回り、約150万人に達する。あるいは、全勤労者数の2%近くにもなる。なぜこんなに多いかといえば、ガードマンになるのは簡単だし、金もあまりかからないからだ。
ガードマン養成学校で、平均70時間ほど勉強し、警官立会いのもとで試験に合格し、指紋を押して2か月間待てば、証明書がもらえる。モスクワでは、これら一切に要する費用は、約1万ルーブル(約1万9千円)で、武器の所持および使用の権利取得に、追加で5千ルーブル(約9千5百円)払うだけ。地方都市ではもっと安い。だからこれは、学生にとっても、年金生活者にとっても、理想的なアルバイトだ(後者のケースも珍しくない)。勤務時間は融通が利くし、身体的な負担もわずかだ。
例えば、商店などに勤めている守衛(もちろん、武器は携行していない)は、警備会社所属のガードマンなどとは違い、ライセンスも要らないし、当然、毎年試験を受け直す必要もない。
こういうガードマンの“流行”は1990年代に始まると考えられている。当時、ロシアではまず私有財産が現れ、ついで、その警護のあり方を定める法律が現れた。「私有財産が生まれるとともに、それを武力で守る必要性も生まれた。それに関連してなされたのは、要するに、武器の24時間携行を合法化するということだった」。こう回想するのは、スヴェトラーナ・テルノワ・ロシア内務省許認可局顧問だ。
当時は、多数のビジネスマンも、軍・治安関連省庁の職員も、ガードマンの資格を取った。というのは、テルノワ氏によると、ガードマンは武器も使えるからだ。そこで、90年代の改革をうまく乗り切れなかった軍人や警官は自ら進んで、民間企業のガードマンになり、それぞれに警護に当たるようになった。
翻って今のロシアでは、何が何でも安全を守るという意識はかなり後退している。大多数のガードマンは、武器携行の権利をもたず、最小限の機能しか果たしていない。そして彼らは、低賃金でその機能を果たす用意がある。一交替の給料は、800~2500ルーブル(約1500~4700円)といったところだ。
エコノミストでシカゴ大学とロシア国立高等経済学院の教授である、コンスタンチン・ソーニン氏は、こうした“ガードマン・マニア”を、警察の職能と、企業の生産性の低さに結びつけて説明する。
「アメリカのカフェやレストランには、ガードマンはいない。なぜか?もし誰か変なふるまいをすれば、ウェイターは警察を呼ぶだけのことだ。つまり、ロシアでカフェにガードマンがいるのは、店主にとっては、ガードマンを置いておくほうが、警察を当てにするよりましだから、ということになる。…だから、もし街に武装警官が導入され、ショッピングモールや娯楽施設にちゃんと配置されれば、そしてカフェにガードマンがいなくなれば、警察はまともに働いている、ということになるわけだ」だから、もしそのガードマンが、一般人よりほんの少し何かの権限を持っているにすぎないにしても、それでもいてくれたほうがいいのだ。なぜなら、「ロシアはそういうメンタリティーなのだから」。レオニード・ヴェデノフ・ロシア内務省許認可局長は、こう考えている。
「ちょっとでも守ってくれたほうがいい。警護というのは、むしろ心理的ファクターだ。畑の案山子のようなね」
*この記事は、ロシアに関する人気の検索ワードを集めてそれぞれの問題に答える、「なぜロシアは」シリーズの一つ。
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