ロシアの有名な詩人フョードル・チュッチェフは、1866年にこんな4行詩を書いた。
「ロシアは頭ではわからぬ
並みの尺度では測れぬ
ロシアならではの特質がある
ロシアは信じることができるのみ」
もちろん、ロシア語を知っていれば、「ロシア人を驚かせる」という困難な課題でも、グリフィンドールは+100ポイントを獲得するだろう。ロシア人は、自分たちの言語を敢えて話そうとする勇敢な外国人に心から驚く。たとえそのロシア語がブロークンで間違っていようとも。
それというのも、ロシア人はそれがいかに難しいか理解しているからだ。変てこなキリル文字、やたらと変化する語尾、特異なイントネーション…。まるでどこかの詐欺師たちが誰かをだますためにわざと申し合わせたみたいではないか。
しかし、もしあなたがロシア語を知らなくても、ロシア人の妻、夫、友人または敵を、彼らが絶対にあなたから期待していないもので強い印象を与えたいという場合は、これらのヒントが役に立つだろう。
1. ロシア人だけが理解できる間投詞
まずは簡単なものから始めよう。ロシア人は常にこの5文字からなる言葉を使う。ロシア人と頻繁に接する人は、たぶんこれに気付いただろう。
Давай, давай
- -ダヴァイ、ダヴァイ
- 文字通りの意味は「そうしよう」
電話を終えるときに「さよなら」(до свидания〈ダスヴィダニヤ〉)と言わずに、代わりに「ダヴァイ」と言うと、ロシア人は大いに親しみを感じるだろう。
Блин
- -ブリン
- 文字通りの意味は「パンケーキ」
ロシア人を感動させる良い方法は、何かに失敗したとき、または突然、不快な状況に直面したとき、「ちくしょう!」、「くそっ!」の代わりにこれを言うことだ。
Да нет, наверное
- ダ、ニェット、ナヴェルノエ
- 文字通りに訳すと「はい、いいえ、多分」
- 実際の意味は「いや、そんなことないだろう」「たぶん、ちがうよ」「う~ん、いらないよ」
ロシア人が何か聞かれて答えるとき、完全に確信していないが、どちらかというと「いいえ」のときに、これを使う。晩の過ごし方を尋ねられたり、お茶を飲みたいか聞かれたときなど、ちょっと思い惑った顔つき/トーンで、こう返事するのだ。
2. 翻訳が難しいロシア語
「ロシア人を驚かす」課題の次のレベルは、会話の中でいかにもロシア的な言い回しをさりげなく使うことだ。でも、バラライカ、バーブシュカ(おばあさん)、ウォッカは忘れよう。これらは面白くないし、ロシア人がイラつく可能性さえある(ロシア人は、自分の文化がステレオタイプ化されると反発しがちだからだ)。
Беспредел
- ベスプレジェール
これは、「制限、限度」と「無し」という2つの単語からできた複合語だ。「限度を知らぬ→やりたい放題」といった意味になる。英語でいちばん近いのは「Unbelievable!」など、怒り、憤慨を表す言葉を叫ぶことだろうか。ただ、ロシア語のこのスラングは、スポーツ観戦などでも使われる。例えば、一方のチーム(選手)が容赦なくボコボコにやられているときや、抗議行動で商店が略奪されるニュース映像を見るときなど。
Тоска
- タスカー(最後の音節を強調して発音する)
晩秋で屋外は暗~い。お気に入りのストリーミングサービスでも見る価値のあるものは何もない。こんなときに「タスカー…」とため息をつく。それは、どうにもやりきれない退屈を表す。
Пошлость
- ポーシラスチ
「фу, какая пошлость」(フー、カカーヤ・ポーシラスチ)という感じでよく使う。「うわー、俗悪!」、「なんて下品なんだ!」といった意味。美術や映画で、美的な深みがあるように見せかけているが、実は空疎なキッチュだというような場合に使う。
また誰かがおどけて、卑猥なまたは露骨な表現をしたときに、このフレーズを使用することもある。「バカ!」と罵っているように思うかもしれないが、マジで怒らず冗談交じりに非難するだけだ。
この手の言葉の一覧はこちら。
3. 翻訳が難しいロシアの慣用句
外国語にこれに完全に相当する慣用句がないもの
Не води меня за нос
- ニェ・ヴァジー・メニャー・ザー・ノス
ロシア人があなたに嘘をついていると思ったとき、そのロシア人にこう言っていい。文字通りに訳すと、「私の鼻をつかんで引き回してはいけない」だが、「私をバカにするな!」、「私を騙してはいけない」という意味になる。英語なら以下の慣用句がこれに当たる。
“Are you pulling my leg?”
“You’re taking the piss”
“You’re winding me up!”
Не тупи
- ニェ・トゥピー
文字通りの訳は、「バカにならないで」、「アホになってはいけない」。友人が非常に単純なこと(例えば簡単な仕事)を呑み込めなかったり、うまくできないときに使う。
ここにいくつかの面白い慣用句があるので、ストックしておこう。
4. ソ連映画を引き合いに出す
「えっ、この映画を見たことがないの?!!」。特定のソ連映画を見たことがないとあなたが言ったとき、ロシア人はしばしばこう反応する。そういう映画は、時代を超越した古典と考えられており、一部のロシア人にとってはロシアの主な文化遺産でさえある。
もちろん、ロシア・ビヨンドが選んだ、ロシアとソ連の名画100選のリストも必ずご覧いただきたい。誰もが、このリストのなかから何か面白いものを発見できるはずだ!
しかし、100本は厖大だ。我々はあなたに同情する。そこで、ソ連映画にちなむ、いくつかの最も興味深い名文句をご紹介しよう。
「私をイライラさせないで」
- Муля, не нервируй меня!
- ムリャ、ニェ・ネルヴィールイ・メニャー!
「ムリャ、私をイライラさせないで」。これは、伝説的名女優ファイナ・ラネフスカヤがソ連のコメディ『捨て子』で吐いたセリフだ。
二日酔いやど忘れをからかうときに
- Надо меньше пить
- ナーダ・メニシェ・ピーチ!
「そんなに飲んじゃいけないよ」、「もっと酒量を減らすべきだ」という意味。これは毎年、大晦日恒例のラブコメ『運命の皮肉』に出てくるセリフだ。この映画では、酔っ払った男性がモスクワではなくレニングラードに行き着いてしまったことから珍事が起きる…。まあ、こういうことはロシアではけっこうよくあるかも。
このセリフを繰り返しながら、この映画の場面のようにぴょんぴょん飛び跳ねてみよう。
もし誰かに残ってほしいと思ったら
- Штирлиц, а вас я попрошу остаться!
- スティルリッツ、ア・ヴァス・ヤ・パプラシュー・アスターツァ!
「スティルリッツ、あなたは残ってほしい」は、人気映画『春の十七の瞬間』のセリフ。第二次世界大戦中にナチス・ドイツに潜入したソ連スパイが主人公だ。
5. ロシア文学の名作からの引用
今度は上級レベルに移ろう。もしあなたがこういう方法でロシア人の心を捉えたいと思っているなら、ひょっとしてあなたはロシア人との結婚を考えているのかも?
お察しの通り、筆者は、19世紀ロシアの詩の引用から始めようとしている。これらの詩は実際、ロシア人について多くを語っている。ロシア人は詩が好きで、一般に文学の遺産を尊重する。ロシア人なら誰でも、プーシキンの数十篇の詩を暗唱している。
ではどこから始めようか?まず最初に、ロシアの作家、詩人の本一冊かせめて詩を読もう。このクイズは、あなたにピッタリくる作品を探す役に立つだろう。それからいちばん気に入るフレーズを見つける…。
最も人気のあるフレーズをいくつか示そう。
ロシアと政治について話す場合は
- Умом Россию не понять
- ウモーム・ラシーユ・ニェ・ポニャーチ
「ロシアは頭ではわからぬ」。これは、既に上で引用した詩人チュッチェフの詩の一節だ。
もし今が秋で、いたるところで黄葉しているなら
- Унылая пора, очей очарованье
- ウヌイラヤ・パラー、アチェイ・アチャロヴァーニエ
「わびしい季節よ! 魅惑の時よ!」。これはプーシキンの詩『秋』からの引用だ。
今冬なら
- Мороз и солнце; день чудесный!
- マローズ・イ・ソーンツェ、ジェーニ・チュジェースヌイ
「凍てつく寒さ 陽の光 素晴らしい日!」。これはやはりプーシキンの詩『冬の朝』の一節。
あなたがこれらのヒントのどれかを使うときは自信をもってほしい。ロシア人は、少なくともあなたが時間をかけて努力をしたことに驚き、喜ぶだろうから。
しかし、仮にあなたが外国語を覚えるのがまったく苦手だという場合でも、ただ話し相手を思いやり、長いオープンマインドの会話をする用意をいつでももち、注意深い聞き手になってほしい。ロシア人はこういう特質を何よりも高く評価するからだ。