「Russian」に相当するロシア語が二通りあるわけ:ルースキーとロシヤーニン

Ekaterina Lobanova
 「Russian」(ロシアの、ロシア人の)に相当するロシア語は、なぜか二通りある。両者の意味の違いが重要なわけを考えてみよう。

 もしあなたがロシア語を勉強しているなら、きっと多くの困難にぶつかっていることだろう(もちろん、その一方でロシア語の美しさを楽しんでいると思うが)。他のあらゆる言語と同様に、微妙な言葉のニュアンスがあって、ネイティブでない者にとっては非常に分かりにくい。

二つの意味

 そうしたニュアンスの1つは、「ロシアの、ロシア人の」という意味のロシア語が二通りあることだ。つまり、「русский」(russky) と「россиянин」(rossiyanin)がそれで、この二つはちょっと意味が違う。では、どんな違いか?

 「russky」(複数形はrusskie)は、民族的、人種的にロシア人であるということだ。つまり、民族的にロシア人(東スラヴ人の一つ)に属するすべての人を指す。ちなみに、東スラヴ人には、ロシア人のほかにウクライナ人、ベラルーシ人などが含まれる。

 民族としてのロシア人は、ロシアの人口の大部分を占めており、約80%におよぶ。

 一方、「rossiyanin」 (複数形はrossiyaneで、その形容詞はrossiysky)は、人種に関係なくすべてのロシア国民を指す。

 だから、「rossiyanin」は、人種的にロシア人でないこともあり得る。例えば、タタール人、ヤクート人、ダゲスタン人などの場合もあるわけだ。なにしろロシアには190以上の民族、人種が住んでいるのだから。

 タタール人、ヤクート人…は、したがって「russkie」ではないが、まぎれもない「rossiaynin」である。彼らはロシア国籍をもっているからだ。

 これは、「British」(イギリス国民)と「English」(イングランド人)の関係に近いが、比較としてもっとぴったり来るのは、「Serbian」(セルビア国民)と「Serb」(セルビア人)だろう。いずれも前者は国籍を表し、後者は民族を示す。

 にもかかわらず、セルビアの人々がセルビア語または英語で「Serbians」のほうを使うことは滅多にない。ところがロシア人は、ロシア語を話すときに2つのカテゴリ――ロシア国民という意味でのロシア人と、民族としてのロシア人――の違いをはっきり意識する。

新しい国のための新しい言葉

 しかしロシア以外の国では、こういったニュアンスにとりたてて注目することはない。いずれかのロシア国民が民族的にロシア人であることを示したければ、単に「ethnic」の語を追加して「ethnic Russian」(民族としてのロシア人)と言うだけの話だ。

 このことを考えると、当然の疑問が湧いてくる。なぜロシア語では、ロシア国民という意味でのロシア人と、民族としてのロシア人との区別が普及しているのか?

 前者の「rossiaynin」は、ソ連が崩壊した後の1990年代に初めて使用されるようになった。ソ連時代には、形容詞「Soviet」(sovetsky)が、ソ連政府が束ねていたソ連のあらゆる民族に適用されていたためだ。だから、民族的にはロシア人、ウクライナ人、グルジア人(ジョージア人)等々であっても、誰もが「Soviet」(ソビエト国民)だった。

 ところが、1990年代、ソ連はもう存在していなかったのに、ロシアは依然として多民族国家のままだったから、政府はすべての民族を含む言葉を見つけるのが適当だろうと考えた(「russky」では意味が狭すぎて、民族を指す語に思えた)。

 「『rossiyanin/rossiysky 』は、民族としてのロシア人を表す歴史的な名に取って代わろうとするものではない。誰もそんなことは望んでいない。しかし、この言葉は、ロシア国民を示す適切な用語になり得るし、現にそうなりつつある」。 政治学者ヴィクトル・ピロジェンコはイズベスチヤ紙にこう述べた

 とはいえ、「rossiyanin/rossiysky 」は、基本的にはまだ、公的な場で発言する場合の公的な用語だ。そこで、両カテゴリーの使い分けについてヒントをお教えしよう。

 もし、「ロシアの国家に属する」という意味で「ロシアの」と言いたいなら、「rossiysky」を使おう。ロシアの政府、国籍、政治体制、その他について言いたい場合だ。それ以外の場合は、「russky」のほうがふさわしいだろう。

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