真面目な話―この古き良きレシピでは、生地を冷たい水に浸すことにより発酵状態を完璧にすることができる。
生地が膨らんでいく様を見ると、いつもそれは一種の料理の魔法のように思える。生地を温かいところに数時間置いて、それが徐々に発酵して柔らかく大きくなって行くのを見ることほど興奮するものはあるだろうか?最近まで、この方法が生地を最適に発酵させる唯一の方法だと思っていた。だから祖母がソ連時代にまったく別の発酵方法があったと言ったときにはとても驚いた。一般的である温かいところで生地を膨らますのではなく、氷水を入れたボウルに入れるのだという。初めのうちは、生地はボールの底に沈んでいるのだが、20分ほどすると膨らんで水面上に顔を出す。生地を膨らますこの変わったやり方は、“溺れさせる”と言われている。
この独特のレシピがいつどこで最初に現れたのかは不明なのだが、普通は生地を膨らますのに2時間以上かかるところ、このやり方だと40分しかかからないため、ソ連時代大変人気があった。この秘密は、イースト菌を独特の方法で発酵させることにある。水につけることによって、空気にさらすよりも早く生地がガスで満たされるのである。嘘ではない。生地を初めて水に入れた時には・・・とても不思議な感じがした。生地がベタベタになって使い物にならなくなるのではないかととても怖かったものだ。でもそんな心配はいらず、大成功に終わった。
結局、とても扱いやすい理想的な生地が出来、オーブンの中で完璧に膨らんだ。
フィリングには季節のベリーであるコケモモを選んだ。このコケモモは、ロシアではもっとも美味しく、健康的なベリーだとされ、民間療法の医薬としても使われているものだ。秋になると、コケモモでヴァレーニエ(ジャム)を作り、瓶詰めにしたり、冷凍して食べたり、お茶やお粥、お菓子に入れたりするのである。独特の酸味がどんなタイプの甘いお菓子にぴったり合い、水に浸して発酵させた“溺れさせた”生地との組み合わせると、おそらくいつでも最高のコケモモのパイが出来ることは間違いない。
材料(生地):
- 薄力粉 300g
- 牛乳 150ml
- バター 50g
- 卵 1個
- イースト 15g
- 砂糖 大さじ2
- 塩 小さじ1/2
材料(フィリング):
- コケモモ 250g
- リンゴ(中くらいの大きさ) 2個
- 砂糖 100g
- コーンスターチ 大さじ2
- 卵黄 1個分(艶出し用)
作り方:
- “ 溺れさせた”生地を作るためにはすべての材料を室温に戻しておくこと。大きめのボウルに少し温めた牛乳、砂糖、ふるった薄力粉大さじ3、イーストを入れ、混ぜる。わたしは生の圧搾酵母を使っているが、ドライイースト5gで代用することもできる。
- すべて混ぜ合わせたら15分から20分ほど置き、発酵させる。小さな泡が表面に現れてきたら、発酵が進んでいる証拠である。
- イーストの入った生地に卵、溶かしバター、塩少々を加え、残りの薄力粉をふるいながら、大さじ1杯ずつ加えていく。生地をフォークで少し混ぜてから、打ち粉をした作業台で、両手を使って5分から7分こねる。
- 生地は手にくっつかず、柔らかくて伸びがあること。そして、ここで生地を“溺れさせて”発酵させる。
- 大きいボウルを取り出し、そこに冷水をいっぱいに入れる。さらに冷たくするため氷を入れてもよい。生地を流し込み、10分から20分置く。生地が膨らんできたら、すぐに水から取り出し、きれいなキッチンタオルで水気を取る。
- フィリングを作る。リンゴの皮をむき、角切りにしたら、コケモモ、砂糖、コーンスターチと混ぜ合わせる。リンゴは酸味のあるコケモモのフィリングを濃厚な味にしてくれるため、コケモモのお菓子を作るときにはどんなものにも加えるとよい。コケモモは冷凍のものでも代用できる。ただし料理に使う前に、ザルに入れて水気を十分に取り除くこと。
- 丸めた生地に薄力粉をはたいて、さらにこねる。生地は1/3分けて、ラップをして置いておく。残りは丸い天板に広げる。
- 焼型の底と周りにバターを薄く塗り、生地を伸ばす。底一面にリンゴとベリーのフィリングを広げる。
- 残しておいた1/3の生地で表面を飾る。クラシカルな格子柄にするのが一般的だが、お好みの装飾をつけてよい。格子柄にする場合は、生地を伸ばして10本の細い生地を作っておく。
- パイの表面を格子柄に飾る。生地が残れば編み目模様をつけてもよい。ふきんでパイを覆い、15分ほど置いておく。
- 最後に、艶出しのため、表面に卵液(卵黄1個分に牛乳か水小さじ2を加えたもの)を塗り、190℃のオーブンで25分焼く。表面が黄金色になれば出来上がり。
- パイが焼きあがったら、少し冷まし、大きく切り分けて、紅茶と一緒にいただく。プリヤートナヴァ・アペチータ!(どうぞ召し上がれ!)