1.アレクサンドル・プーシキン 「エヴゲニー・オネーギン」
韻文小説の主人公は真のグルメだった。小説の中ではロシアの貴族たちの間で人気のあった料理があちらこちらに描かれている。当時の首都ペテルブルグでオネーギンは西欧料理を好んでいるが、モスクワでは伝統的なご馳走を楽しんでいた。オネーギンがモスクワで気に入っていた料理はコチョウザメのスープ。今でも簡単に作れる一品である。ウハーと呼ばれるロシアの魚のスープはコチョウザメだけでなく、他の魚でも作ることができる。
オネーギンに恋するタチヤナ・ラーリナの家庭でもロシア料理がより好まれていた。とりわけ、マースレニツァ(バター祭り)には当時はそば粉で作られていたロシアのブリヌィが大量に焼かれた。ブリヌィのレシピは簡単で、ブリヌィを焼くプロセスはかなり興味深い。
2.ニコライ・ゴーゴリ 「死せる魂」
主人公のチチコフが「死せる魂」を探して訪ね歩く地主の1人であるピョートル・ペトローヴィチ・ペトゥフは食事を「退屈を治す薬だ」と呼んだ。昼食と夕食に関して彼はいつも真剣そのものだった。それは彼が料理人にクレビャカを注文する場面の描写からもよく分かる。「一角にチョウザメのほほ肉と脊索を置いて、別の一角にはそばの実の粥とキノコとタマネギ、甘い白子、脳、それからほら何か・・・。そして片方の側面には少し焼き色をつけ、反対側は焼き色を薄めに。下の方は穴を開け、誰も聞いたこともないような雪みたいに口の中で溶けるように焼くように」。このような小説の文章に沿って作るのは難しいが、伝統的なロシアのクレビャカのもう少し簡単なレシピはある。
3.ニコライ・ゴーゴリ 「降誕祭の前夜」
ゴーゴリの中編小説「降誕祭前夜」の登場人物の一人、ザポロジエのパツュークは本物の魔法のワレニキを食べる。この魔法のワレニキは勝手にサワークリームのなかに潜り込み、口に飛んでいく。トヴォーログ(カッテージチーズ)の入ったワレニキはウクライナ料理でよく作られるものだが、ロシア南部でも広く食されている。もちろん自家製のワレニキは勝手に口に飛びこんでくることはないが、それでもおいしく出来上がること間違いない。
4.イワン・ゴンチャロフ 「オブローモフ」
小説の主人公にとって、食事は人生の重要な活動の一つである。主人公はよく幼い頃に食べた料理のことを思い出す。たとえば、家族が1週間かけて食べられる「巨大なピローグ」。それによく似た鶏肉とキノコのピローグを、妻のアガフィヤ・プシェニツィナが焼く。その表現から判断して、これは有名なロシアのパイ、クールニクであったと思われる。
オブローモフはしばしば「オブローモフカではとてもおいしいハチミツ、とてもおいしいクワスが作られた」と回想している。パンから作る伝統的な微炭酸発酵飲料クワスのレシピはこちらからどうぞ。
5.レフ・トルストイ 「アンナ・カレーニナ」
小説の主人公の兄であるステパン・オブロンスキーは上品な料理を好んでいたが、古い友人であるリョーヴィンの家で一般的なロシアの料理を試したとき、「すべてが素晴らしく、最高だった」と告白せざるを得なかった。
そんな「一般的な」昼食メニューの一つがとりわけ夏に人気があるイラクサのシチー(スープ)。トゲトゲの草で作るスープを作ってみたいなら、こちらから誰でも作れる簡単なレシピをどうぞ。
6.ミハイル・ブルガーコフ 「巨匠とマルガリータ」
ブルガーコフは食べ物について非常に熱心に語り、読者に冗談ではないほどの食欲をわかせる。伝説的な小説でそれほど重要でない登場人物の一人で、住居者組合の議長であるニカノル・イワノヴィチが食べるタマネギを添えたニシンやボルシチでさえも非常においしそうに描写されている。ロシアのボルシチを作るのは難しいことではないが、レシピにしたがって作ることが大切である。そしてこの本でも指摘されているように、骨髄を使うことを忘れないこと。ニシンを作るのはもっとはるかに簡単である。
7.レフ・トルストイ 「戦争と平和」
「戦争と平和」に登場する重要な家族の一つであるロストフ家ではラステガイが少なからずテーブルに出される。これはイースト入りの生地で作られた主に魚の具が入ったピロシキである。もちろん肉やキノコ、ニンジンと卵が具として使われることもある。ラステガイの素晴らしい特徴は、表面に小さな穴があることである。伝統的なロシアのレシピに従えば、誰でもラステガイを作ることができるだろう。
8.フョードル・ドストエフスキー 「白痴」
ドストエフスキーのもっとも有名な小説の一つである「白痴」にはエパンチン将軍の家の遅めの朝食が非常に鮮やかに描かれている。将軍の朝食は非常にたっぷりで、多彩で、軽めのメニュー、甘い一皿の他に、カツレツや熱いブイヨンスープなどが出てくる。将軍夫人が大好きなオラーディというパンケーキも外すことはできない。ふわふわで甘いオラーディはいまでも真に朝食にぴったりな一品だ。一方、肉のカツレツと煮込んだブイヨンスープは現代ロシアではランチに出されることが多い。
9.イワン・ツルゲーネフ 「処女地」
小説の主人公であるフィムーシカ・スボチェフとフォムーシカ・スボチェフは18世紀の伝統に生きる古儀式派信徒である。正午ぴったりにテーブルに出される夫婦の昼食には古いロシア料理が多く見られるが、その多彩なメニューにはレベルの高いグルメの想像さえも軽く超えている。たとえばそこには、ラソーリニク(ロシアでは今でも愛されている穀物とピクルスの入ったスープ)、ソリャンカ(さまざまな種類の肉を入れて煮込んだ高カロリーのスープで、いまでもたくさんのレシピがある)、そして今は朝食でしか食べられないスィルニクなどが出てくる。伝統的なスィルニキを作ってみたいなら、朝でも夜でも時間を問わずに始めてみよう。
10.イワン・ツルゲーネフ 「父と子」
ツルゲーネフ自身、ヴァレーニエ(ジャム)、とりわけセイヨウスグリのヴァレーニエが大好きであった。そしてツルゲーネフはこの愛を自身の小説の主人公にも継がせている。とりわけ、このヴァレーニエは「父と子」の主人公キルサノフの家で切れることはなかった。家長のニコライ・ペトローヴィチはセイヨウスグリのヴァレーニエが大好きで、このジャムのないティータイムなど考えられない。この文学に登場するジャムを自分で作ってみるにはこちらのレシピからどうぞ。.