亡命者は母国への思いが募って、しばしば悲しみからふさぎ込んでしまう。ロシア人は友人や白樺の木を懐かしがるだけではなく、異国ではロシア料理店でさえお目にかかれない料理を恋しがる。もし、あなたにロシア人の友人がいれば次にご紹介する食べ物が彼らの救いになること請け合いである。
1.リャージェンカとケフィール
ロシア人は乳製品なしでは生きてはいけない。しかしその多くのものは普通の店では売られていない。例えば、ケフィール。農地が豊かで先進的な農業国であってもこの飲み物はあまり知られていない。クロアチアに住むマリアさんが言うには、ヨーロッパの国々でも乳製品の選択肢はそんなに多くない。もちろんおいしいヨーグルトはあるのだが、大好きなリャージェンカはお目にかかれない。ロシアでは、リャージェンカとケフィールはとても人気があり、どの農場でも生産している。唯一、ロシアのリャージェンカに似たものはサワーミルクである。
2.トゥヴォーロク
露英辞典を見ると、トゥヴォーロクはカッテージチーズもしくはカード(凝乳)と訳されている。しかしロシア人はこれがまったく異なるものであることを知っている。カッテージチーズはチーズの延長線上にあるもので、ザラザラしており、特有の味がする。ロシアにも「自家製チーズ」と称するコッテージチーズタイプのチーズがあるがそれはたいてい塩っぱい。しかし、真のトゥヴォーロクはほどよく固まっていて、なめらかで、余計な成分が入っていない。最近、ドイツに移り住んだエレーナさんはトゥヴォーロクがとても懐かしいと話す。ドイツのものは柔らかすぎてスィルニキ(焼きチーズケーキ)を作れないのである。こんなに悲しいことはない。
3.蕎麦
面白いことに、蕎麦粉を使った菓子はヨーロッパでも盛んに作られている。しかし、「蕎麦の実」を目にすることは少ない。ロシア人は蕎麦の実が大好きで、付け合わせとしてお粥のようにして食する。ときにはメインとしても食べることもある。ときに蕎麦の実を健康食品店で見かけることもある。とても栄養価が高いからである。
4. ゼフィールとパスチラ
ゼフィールを是非試してみてほしい。ロシアのお菓子が好きになること間違いない。このお菓子に最も近いのはマシュマロであるが、やや違った味と粘り気がある。マシュマロには入ってない卵が入っているからだ。ゼフィールは、通常は酸味のあるリンゴ、砂糖、卵白から作られるロシアの古くからあるデザートのパスチラの一種。もっとも名の知れたパスチラはモスクワ近郊の町コロムナで作られているが、もちろんロシア中で見ることができる。このお菓子はとても軽いので食べても太ることはない。と、少なくともロシアでは皆そう信じている。
5. マルメラード(マーマレード)
ロシアのマルメラードはジェリー状の果実やジャムではなく、砂糖でコートされたキャンデイーみたいなもので、レモンやオレンジ等のかんきつ系のフルーツの形をしている。帝国時代、マルメラードは果実のにこごり(ジェリーミート)と言われていた。ロシア人がこれを恋しがっても不思議ではない。
6.ミネラルウォーター
日本で数年生活し、最近ロシアに帰国したナタリアさんは手に入らないロシアの食品の中でもミネラルウォーターが恋しかったと振り返る。「トヴォーロクやザワークラウトを家で作るための食材はほとんどなんでも日本のお店で買えますが、わたしの好きなロシアのお水は買えませんでした」。天然塩の入った水を見つけるのは難しく、普通売られているお水も輸入のお水も味は付いていないのである。
7.パン
外国で多くのロシア人がまず驚くのはライ麦パンが売られていないこと。ロシアではいろいろな種類の黒パンがある。クミンが入ったボロジンスキー、何も加えられていないダルニツキー、イーストの入ったもの、入っていないものなどなどその種類は実に多彩だ。ヨーロッパやアメリカではライ麦パンを売っている店もあるが、ロシアの本物に代わるようなものではない。だからロシア人は自分でパンを焼くのである。
8.ドクトルスカヤ(医師の)ソーセージ
1930年代に作られたこのソーセージはソ連でもっとも好まれるソーセージの一つで、今も多くのロシア人の郷愁を誘う。特に黒パン「ボロジンスキー」に挟んで食べるとおいしく、最高の朝食だ。
9.ミニきゅうり
ロシア人によれば、ヨーロッパやアメリカのきゅうりは大抵、長くてつるんとしている。ロシアのきゅうりは小さくてとげがたくさん付いていて、カリカリしている。
10.マヨネーズ
ロシア料理(ソ連の食べ物)はマヨネーズがたっぷり入ったものが多い。多くのロシア人が、外国のマヨネーズはあまりおいしくないと言う。それはなぜか?また煮たコンデンスミルクが恋しいというロシア人もいる。ロシア人がなぜコンデンスミルクを煮るのかについてはこちらでどうぞ。