ロシア進出支援、そこまでやる?

佐藤隆正氏

佐藤隆正氏

=吉村慎司撮影
 日本貿易振興機構(ジェトロ)が、ロシア市場に関心を向ける日本企業への支援策を強化している。このほど中堅・中小企業向けに、構想からビジネス実現にいたるまで専門家が無料でサポートする支援制度をスタート。その仕組みや狙いについて、同機構ビジネス展開支援部総括審議役の佐藤隆正氏、企画部海外地域戦略主幹の梅津哲也氏に話を聞いた。

 日本貿易振興機構(ジェトロ)が、ロシア市場に関心を向ける日本企業への支援策を強化している。このほど中堅・中小企業向けに、構想からビジネス実現にいたるまで専門家が無料でサポートする支援制度をスタート。その仕組みや狙いについて、同機構ビジネス展開支援部総括審議役の佐藤隆正氏、企画部海外地域戦略主幹の梅津哲也氏に話を聞いた。

 

―ロシアの専門家による進出支援事業とのことですが、どのような狙いで立ち上げたのですか。

 佐藤「前提として、ロシアは決して易しいマーケットではないということがあります。そして一般論として、中小企業には情報が不足していますし、大手企業と違って専門的な人材を確保するのもなかなか難しい現状があります。そこで私たちが、ロシアビジネス経験者を専門家として個々の企業に付けて、アドバイザーのような形で、ビジネスが実現するまで手取り足取り、ハンズオンで支援しようというわけです。企業側から見れば、専門家が月に数回来てくれるイメージになると思います」

―無料サポートはどの程度までやってもらえるのですか。例えば専門家にロシア出張に同行してもらうような場合は、企業側が専門家の経費を負担する必要がありますよね。

 佐藤「いえ、そうした経費も不要です。仕組みとしては、ジェトロがロシアビジネスの経験者と契約して、この方々にジェトロの専門家として動いてもらいます。専門家の活動費や経費はジェトロが支給しますので、企業は負担なしでサポートを受けられます」

 

―専門家はどんな人たちですか

 梅津「近くジェトロのサイトで公開しますが、食品、機械、消費財関係などそれぞれに得意分野を持つ方々です。人数は今のところ10人。企業からのご相談に応じて、誰がふさわしいのか私たちがマッチングして派遣します。専門家の在住地はたまたま東日本が多いのですが、企業はどこでも歓迎で、もちろん専門家の出張費用もジェトロが持ちます。1月の2週目から、企業と専門家の面談が始まったところです」

梅津哲也氏 / 吉村慎司撮影梅津哲也氏 / 吉村慎司撮影

―具体的にはまずどんなことをやるのですか。

 佐藤「まずは、SWOT分析と呼ぶのですが、要は企業の強み・弱みやビジネスの外部環境としての機会と脅威を整理する作業をやった上で、ロシアにどのように取り組んでいくかの戦略を立てます。例えば出荷したい製品の特性だとか、社員のスキル・ノウハウだとかを、具体的に調べていきます。そして、ロシアでのチャンスとリスクも考えて、何を誰にどのように売り込んでいくかという戦略を練る。その上でどんな相手をどうやって見つけるかとか、契約するならどんな内容が必要かとか、専門家の知見を借りながら具体的なアクションを進めていきます」

 

―分析した結果、ロシアビジネスは薦めない、ということもあると。

 佐藤「ときにはあり得るでしょうね。やみくもにロシアに商品を持って行けばいいというものではありませんから。もしかしたらアジアとか、アメリカの方が合っているかもしれない。企業経営者の中には、物事を人とのご縁で考えてしまう方もいらっしゃって、易しい市場ではないのに突っ込んで行くケースもあります。リスクは認識してもらう必要があると考えています」

―手厚い支援プログラムですが、同じような支援策は以前にもあったのでしょうか。

 佐藤「はい。2013年から、新興国全般を対象にやはり多様な専門家と契約して支援制度をスタートして、15年度末までの3年間で2000社強をサポートしました。もっとも、件数が多かったのはタイ、インドネシア、ベトナムなどです。16年からはTPP加盟国を対象の支援事業が新たにスタートして、累計では3000社近くをサポートしています。もちろん成功例もたくさん生まれています」

 

―このときはロシアの案件もありましたか

 

 梅津「どうしてもASEAN諸国などに比べればロシアの割合は小さくて、取り組んだのは10件前後だったでしょうか。それでも、自動車部品の中堅メーカーがロシア拠点づくりを実現するなど、複数の成功例があります」

 

―始まったばかりのロシア支援ですが、目標の規模感はどれぐらいでしょう。

 佐藤「2019年3月末まで2年強の事業で、この期間に150社をサポートするのが目標です。12月上旬にホームページ上で受付を始めたのですが、12月だけで約20社から相談がありました。年明けも順調に問い合わせが来ています」

―ところでロシアについては、経済状況を不安視する向きも少なくないと思います。進出のタイミングとしては今はどうでしょうか。

 

 梅津「ロシア経済は悪い悪いと言われながらも、底打ちしています。私たちは去年の10月から11月にかけて、ロシアの日系企業を対象にアンケート調査をやりました。2016年度の営業利益について聞いたところ、黒字見込みという回答が62.7%で、調査4年目で最も高い数値だったんです。60%を超えたのも初めてです。現地で活動されている企業は景気の底打ちを肌で感じている。今後の事業展開を尋ねても、拡大するという答えが過半数で去年より増えている。このあたりをぜひ日本企業にも認識していただきたいと思っています」

 

―今、ロシアでの大きな見本市への出展サポートもしているそうですね。

 佐藤「はい、イノプロムという展示会ですが、これはロシア最大級の産業総合博覧会で、昨年は17カ国から638社が参加しています。日本からはこれまでも何社か個別に出展してきたのですが、今年は日ロ首脳間の合意で、日本はパートナーカントリーという位置づけで大きくブースを展開します。中小企業には出展料や輸送費の補助もありますから、ぜひ参加していただきたいです」

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