ロシア一の大富豪はどんな人物?

レオニード・ミヘルソン氏=

レオニード・ミヘルソン氏=

ヴァレーリー・シャリフーリン撮影/タス通信
 フォーブス誌による長者番付の2016年版でロシア一の富豪と認定されたレオニード・ミヘルソン氏。強大なる独占ガス企業「ガスプロム」に挑戦状を叩きつけたこの人物の現状と展望を考察する。

 レオニード・ミヘルソン氏はロシア最大の民間ガス会社「ノヴァテク」のCEO(最高経営責任者)。その資産は144億ドル(4月20日現在、1ドルは約110円)とされる。2016年版のフォーブス長者番付で、ロシア一、世界でも60位の大富豪だ。

 ランク入りしている他のロシア人富豪が軒並み資産を減らした2015年、ミヘルソン氏は資産を増やした。どころか、氏の「ノヴァテク」社は国営の巨大ガス会社「ガスプロム」のもつ独占的な天然ガス国外輸出権に挑戦している。専門家によると、勝算は決して低くないという。

 

危機のさなかで独り勝ち

 フォーブス誌によれば、ミヘルソン氏の資産増大は主に、取引の成功によるものである。2015年、氏は、ロシア最大の石油化学ホールディングス「シブール」の株式の10%を中国の「シノペック(中国石油化工集団公司)」に13億ドルで売却した。フォーブス誌によると、「シブール」の共同オーナーの一人にキリル・シャマロフ氏がおり、この人物はプーチン大統領の娘婿であるとされる。

 なお、ミヘルソン氏がガス業界で人脈を築けたのは、ソ連時代にガスパイプライン建設主任を務めた父のヴィクトル・ミヘルソン氏に負うところが大きい。

 ミヘルソン氏は、並のロシア人オリガルヒ(新興財閥)とは異なり、原料を輸出するだけでなく、それを加工した製品も販売する。

 「レオニード・ミヘルソンがフォーブスのランキングで首位に躍り出た。これは、原油価格の下落期にあって、彼が利益率の高い石油化学製品に軸足を置いたことの結果である」。ロシア政府に近い研究機関であるRANEPA(ロシア連邦大統領付属ロシア国民経済・公共行政アカデミー)のエミル・マルティロシャン准教授はこう説明している。彼によると、石油化学製品の価格は原油価格の下落を後追いすることなく、逆に増加した。

 投資会社「プレミエール」のアナリスト、イリヤ・バラキレフ氏によれば、ミヘルソン氏の「ノヴァテク」社は2015年を通じて資本を増大させた数少ない企業の一つである。

 

「ガスプロム」との互恵的関係を模索

 2016年2月、ミヘルソン氏の「ノヴァテク」社は、ロシア政府にある提案を行った。現在国営の「ガスプロム」が独占的に行っている欧州へのガス供給を、「ガスプロム」のチャンネルで「ノヴァテク」にも行なわせてほしい、というものだ。ビジネス紙「ヴェードモスチ」によると、このイニシアチブはエネルギー省のレベルで支持されている。同省によれば、民間企業の参入により、ノルウェーの生産者との競争が「ガスプロム」に有利に進められるだろう、とのことだ。

 また、「ノヴァテク」のガス輸出参入で、政治的リスクが軽減される期待もある。「この決定は、アンチ・ガスプロムの気運が強い一連の方面で意味を持つ」とイリヤ・バラキレフ氏も言う。たとえばリトアニアはノルウェー産のガスを選好し、一貫して「ガスプロム」からの購入の割合を減らしている。さらに「ノヴァテク」はロシアから中国へと延びるガスパイプライン「シーラ・シビーリ(シベリアの力)」へのアクセスも手に入れるかもしれない。同ガスパイプライン向けに「ガスプロム」は新たなガス田の開発を必要としていた。独立した生産者のガスは渡りに舟なのだ。

 極め付けに、「ガスプロム」の輸出チャンネルに「ノヴァテク」が加わることにより、黒海海底を通る「サウスストリーム」であれバルト海低を通る「ノルドストリーム」の第2支線であれ、ロシアからEU(欧州連合)への新規ガスパイプライン建設に対するあらゆる法的制限が解除される。

 RANEPAのイワン・カピトノフ准教授によれば、「パイプラインで副次的企業がガスを供給するなら、EUの第3次エネルギーパッケージの要件のひとつが満たされる」。このルールによると、単一の企業がガスパイプラインを所有し、唯一の燃料供給者となることはできない。欧州委員会の勧告を受けたブルガリアが「サウスストリーム」プロジェクトを凍結したのはこの制限規定のためである。「ノヴァテクを参入させれば全ての当事者が利益を得る。ロシアはもろもろの障壁にも関わらず、全体としてEU市場における自らのシェアを維持する」とカピトノフ氏。