露物理学者 世界最小の豆本を製作

極小豆本=

極小豆本=

写真提供:ウラジーミル・アニスキン
 ノヴォシビルスクの学者が、ギネスブックに掲載される極小豆本の傑作を製作している。

 この豆本は、読むどころか、特殊な用具なしには、ほとんど見ることもできない。ノヴォシビルスク(モスクワから東3300キロの都市)のウラジーミル・アニスキンさんの作品は、日本の技術者のマイクロブック(現在、最小の「冊子」としてギネスブックで認証されている)の88分の1の大きさだ。日本で製作されたマイクロブックが1部だけなのに対して、ノヴォシビルスクのアニスキンさんは1度に2巻を製作した。それぞれ10巻ずつにまで数を増やそうと考えている。「本物の本にとって大切なのは発行部数です」とアニスキンさんはその宿願を説明する。

 

豆本の技術

 「技術の探求というのがもっとも難しく、それには数年かかります。文字のサイズとページの大きさの正しい比率、文字入れの方法、接合の原理というのが長期を要するプロセスで、試行錯誤のくりかえしです。私の本の全紙は2層でできています。ダクロン膜を貼りつけた薄いインク層。そのダクロン膜にリトグラフの方法で高さ15ミクロンの金属文字をのせることができました。脇の2つの穴にU字型のばねを通し、それによって本をめくることができます。各ページをばねに通すのが一番難しかった。手は2本だが部品は3つ。その作業を同時にやらねばならないが、ばねはピンセットでも掴めないのですから」と極小豆本の製作者は言う。

ウラジーミル・アニスキン=タチアナ・クラヴチェンコ撮影

 アニスキンさんの本は各巻が6ページずつ。どの巻も金の小片の上に置かれている。その小片はけし粒の切片の上にあり、それによってこの精巧な極小豆本の小ささがわかる。この製作自体に要したのは数カ月だが、アニスキンさんの話によれば、技術の探求には約5年かかったという。

 「問題は、複雑な細密仕事をするために、息抜きが必要だったということではなく、単に必要な精神状態が得られなかったということです。『情緒の凪』とでも言うべき平静さが仕事の半分。もし何か不安や心の動揺があったら、ミクロの仕事に取りかかっても意味はありません。何も成果は得られないのです」とアニスキンさんは断言する。だからアニスキンさんは「注文仕事」はしない。ホビーを期限つきの仕事にはしないと決めたのだ。

 

学問から生まれたホビー

 アニスキンさんは学者であり、ロシア科学アカデミーシベリア支部の理論・応用力学研究所で流体のマイクロ流れやマイクロレベルの放熱を研究している。じつはこの趣味も学問のおかげで見つけた。1998年に彼は名門ノヴォシビルスク大学の最終学年の学生だったが、卒論審査の準備をしていて、偶然に一冊の本に出会った。その本には細密技術者とその仕事についての話が集められており、彼はその話に驚嘆した。

 大学は優秀な成績で卒業したが、ホビーは生涯続いた。現在、このノヴォシビルスクの学者の最も代表的な作品はサンクトペテルブルグの細密博物館に展示されている。細密作品の傑作の中には、ロシアの武器の複製、けし粒に描かれた人気アニメの人物たち、宇宙船など、目を見張る細密作品が大量にある。初期作品でとくに自慢なのが、象嵌細工の施されたチェス盤と人形で、くるみの殻で製作されたチェス盤の高さはわずか2ミリ。もう1つの精巧極まりない作品が、馬の毛の中に咲くバラの花だ。アニスキンさんはこのアイデアをウクライナの細密作家ニコライ・シャドリストゥイ氏の作品から思いついた。すぐに電話して、それを真似た作品を製作する許可を求めた。

チェス盤と人形=写真提供:ウラジーミル・アニスキン

 「やってごらん。もちろん、もしできるものなら」と言って、キエフ在住のシャドリストゥイ氏は許可した。アニスキンさんはその挑戦を受けて立ち、技術開発に3年かけ、ついに、馬の毛の内部に極小サイズのバラを仕組むことができた。現在、彼のコレクションには同様のその他の作品もある。一本の毛の中に、バラではなく、数頭の駱駝が引くキャラバンを仕組むことに成功したのだ。

 

蚤に蹄鉄をうつ

 しかしこれらの細密作品の傑作も、技術の複雑さから言えば、おそらく新作の極小豆本には勝てないだろう。2つの「巻」には異なったテキストが収められ、片方にはロシア語のアルファベット、もう片方には3人の細密作家の苗字が書かれている。かれらは文字通り「蚤に蹄鉄をうつ」ことに成功した人たちだ。「蚤に蹄鉄をうつ」というのは、ロシアの小説家ニコライ・レスコフが『左利き』という短編に書いた名工・左利きの話だが、アニスキンさんは、その物語を2002年に実現することに成功した。しかも彼のほか、もう2人の細密作家が同様の仕事を成し遂げることができた。

 このような細密作家の数は世界で十指に満たない。その大半はロシアに住んでいるが、英国、カザフスタン、アルメニア、台湾出身の作家たちもいる。今、アニスキンさんのプランにあるのは、動く細密作品を作ること。動きの原理に関して、すでにアイデアはあるが、アニスキンさんは秘密にしている。その他に彼は大きな仕事をやる決意で、世界でもっとも小さい手作りの品を製作するつもりだ。だから本当の記録はまだこれからである。