用務員の一日の仕事は朝6時に始まる。子供たちがまだ寝ているころ、あるいは学校に行く支度をしているころ、セミョーン・ブハーリンさんはもう、敷地内の降りたての雪を片付けている。
一時間目が始まると、用務員はホウキを取り、朝の一枚に取り掛かる。ロシアの詩人、アレクサンドル・プーシキンの肖像だ。作品は2時間の間だけ校舎の窓の下に優美な姿を見せ、のち生徒や親たちの靴裏にもみ消される。
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ロシアNOWの取材に応じ、セミョーンさん本人が語ってくれた。1、2年前、ルーティン・ワークを終えたあと、ホウキで校舎の窓の下、雪の上に、動物の絵を描いたのが始まり。これを見た生徒たちがインスタグラムのアカウントを作り、そこに用務員の絵をアップするようになった。フォロワーはどんどん増えていき、地元メディアにも注目されるようになった。
画題はロシアの作家、作曲家や、おとぎ話のキャラクター、動物などだ。雪が降りたてで、まだ柔らかく、加工しやすいときに、黒いアスファルトの上に描いたとき、一番いい絵になる、という。セミョーンさんは降りたての雪しか扱わない。踏み固められた雪ではうまく描けない。絵がひときわ引き立つのは夕方、陰影ができるときだという。だがその時間には誰もいない、誰も見てはくれない、とセミョーンさんは不満げだ。
生徒たちからは大好評だ。「セーニャおじさんはいつでも絵を描いてくれます。冬は雪に描いてくれるし、夏は学校の向かいの家に風景画を描いてくれるます。雪の彫刻も作ってくれるんです。去年、セーニャおじさんは、雪の塊から3匹の羊を掘り出してくれました。雪を集め、立方体にして、水で固めて、削り出したのです」
「向かいの家」は毎年ペンキを塗り直す。そしてしばらくすると、もう新たなキャンバスに新しい風景画が描かれているのだという。「去年は記念の年(生誕175周年)だったので、チャイコフスキーの巨大なポスターを作ってくれました。ほかにも、セーニャおじさんは、私たちのために雪山も築いてくれるし、雪除けをしたり、校庭から犬を追い払ったりしてくれます。とってもいいおじさんなんです」
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人生はあちらからこちらへとうつろっていった。そして5年前、イジェフスクの第25番学校の用務員の職を得た。用務員としての通常業務の傍ら、椅子、学習机、黒板など、調度品の修理も行う。また、催事の準備や飾りつけを生徒や教師と一緒に行うなど、学園生活の重要な担い手となっている。 セミョーン・ブハーリンさんは17歳のとき、チャイコフスキー市(ペルミ地方)の芸術系専門学校に入学した。しかし、学業を続けることはできなかった。大家族であり、仕事を見つけて家族を支える必要が出てきたのだ。数年後、極東地方に移り、まずはカムチャツカで漁師をし、次には非常事態省の職員を務めた。
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